'18 北海道胆振地震

技術士(応用理学) 横井和夫


 さて三日前(02/21)夜、北海道胆振東部の地震ですが、その後ネットでは怪しい情報が飛び交っていたらしい。中でも噴飯が鳩山由紀夫による炭酸ガス封入実験起源説。彼曰く①この地域は元々地震が起こっていない、②北電苫東発電所で北電と北大が共同で実施している炭酸ガス地下封入実験が、地震の引き金になっている。マスコミのインタビューに対し「これは研究者がそう云っているのだから根拠はある」と反論。
 ①については本人が勝手にそう思っているだけで、科学的根拠はない。1995兵庫県南部地震も、従来地震記録のない神戸で生じている。人の記憶や文献に」残っていないが、神戸市背後の六甲山系には活断層というれっきとした地震記録があったのである。今回震源となった厚真町を含む石狩空知低地帯は地質構造上、東部の日高帯と西部の北部北上帯が衝突する場で、それに沿って、既に多数の活断層が発達しており、地震が少ないと云える地域ではない。
 ②についてはもう少し詳しい解説が必要である。北電と北大が共同で、国の補助金を使って炭酸ガス地下封入実験を行っていたのは事実である。これは地下1000m位のボーリングを行い、水圧破砕という技術を使って、地下に割れ目を作り、そこに炭酸ガスを注入して封入しようというものである。水圧破砕の段階で人工的な地震が生じる。
 10数年前からアメリカ中西部でシェールガス採掘が盛んになった。この頃から地質構造上地震が生じえないアメリカ中西部で地震が頻発するようになった。これはシェールガス採掘に伴う水圧破砕の影響と考えられている。但し地震規模はM2~3で震源も極めて浅い。
 さて肝心の19/02.21胆振地震だが、これは震源深さが約30㎞、地震規模を表すマグニチュードは5.7であり、水圧破砕で生じた地震とは深さも規模も全くオーダーがことなる。なおマグニチュードが1違えば地震エネルギーは約32倍異なる。
 つまり、鳩山の言うことは、地質学的にも①、地球物理学的にも②全く的外れなのである。まさに宇宙人のいうことだ。彼は東大工学部出身だが、東大工学部は一体全体何を教えているのか?又彼の専門は応用数学*だが、中学校の理科も分かっていないようだ。中学校から勉強しなおした方がよいだろう。
(19/02/24)

 東大名誉教授である某測量屋が、測地衛星データを使って今回の胆振地震を予知し、おまけにこの原因は巨大台風と関係がある、なんて駄法螺がネット社会にひろまっています。この元教授は、これまで熊本地震を的中させ、的中率は80~90%と称する。いつの世にもこういう手合いは現れる。この予知はずばり占いに毛が生えたようなもので、科学的には全く無意味である。
 まず日本列島では、地震は殆ど毎日起こっている。極端な場合は、一日に何度もおこる。何処かで地震が起こるといえば、必ずどれかにあたる。一般にこの手の占い師は、場所や時期を特定しない。しても曖昧な表現で、何処でも解釈できるようになっている。
 今回の胆振地震だが、二カ月前から沈降している、と警告を発していたと主張するが、それが何時かは明らかにしていない。また沈降の原因だが、この元教授、地球は剛体で変形しないものと思っているらしい。確かに地球が剛体なら、一部地域に変動がみられるのは異常だ。しかし、普通の地質屋はそうは考えない。地球は実はわずかだが、周期的に伸びたり縮んだりしている。これを地球潮汐という。これは太陽ー月ー地球の位置関係で生じる。この場合、柔らかい堆積層・・・・相対的に弾性係数が小さい・・・の厚い地域(局所的な沈降帯)の変動量が大きくなるのは当然である。又、この沈降帯は地形的には局所的な低平地を作る。そしてそれは、地震の原因である構造帯と重なることが多いのである。
 従来の測量技術では、このような微小な変動を測定することは不可能だった。しかし測地衛星を始めとする技術革新で、そういう微小変動をとらえることが可能になったのである。この手の測地学的手法を使おうとすれば、まず周辺の誤差を取り除くことから始めなければならない。ところが測定技術が進んだおかげで、誤差の修正の方が厄介になったのである。一体何を測っているのやらわからなくなる。
(18/09/13)

 2018北海道胆振東部地震の特徴は次のようにまとめられる
1)地震規模はM6.7と中規模程度
2)震源深さは地下約37㎞と深い
それにも拘わらず
3)地表面での揺れが大きく、被害は広範囲におよんでいる
4)震源から100数10㎞も離れた札幌市内で、規模の大きい液状化が生じている。
 又未確認であるが
5)長周期振動がおおきかった
6)継続時間が長かった
 
1、特徴3)、4)について
 これらの現象は地表面振動速度が大きく、継続時間が長かく更に継続時間が長かったことが大きな原因である。振動速度と加速度との間には次の関係がある。
           v=α/2πf            ・・・・・・・・・・・・・・・・・①
 ここでv;振動速度(kine)
     α;加速度(gal)
     f;地盤の固有周波数(HZ)
 又多重反射理論によれば、地盤の固有周期と堆積物の厚さには
    T=4H/Vs
 という関係がある。ここでTは地盤固有周期(sec)、Hは堆積物の厚さ(m)、Vsは堆積物の縦波速度(m/sec)である。つまり堆積物の縦波速度を一定とすると、堆積物が厚ければTGは大きくなる。またtとfは逆数の関係(f=1/T)にあるからfは小さくなる。その結果、①式より、振動速度vは大きくなる。
 ある資料によれば、地震に見舞われた石狩低地帯での堆積物(通常中新世以降の堆積物を考える)の厚さは3000mに及ぶ。堆積物の平均縦波速度を1500m/secとすると、固有周期は
    T=4×3000/1500=8sec
となり十分大きな長周期振動が産まれる。なおこのような長周期振動は人体には感じられない。また、通常の低~中層建物も関係はない。固有周期の低い超高層ビルや軟弱地盤では互いに共振するので、被害が出ることがある。また、水道・下水道管のような長い地下構造物も、地盤と共振しやすいので、影響される可能性は高い。
 又、地震後の住民への聞き取りでは、地震動は10~20秒続いた、という報道がある。通常の直下型地震ではの継続時間は、せいぜい数秒程度である。これから見ても、本地震が単純な直下型というより、プレート沈み込み型に近い性質を持っていると考えられる。
1-1)液状化について
 砂地盤の液状化は振動により発生する過剰間隙水圧の蓄積である。これは振動周期が低く、長時間継続するほど起こりやすい。札幌を含む石狩平野は広く沖積層からなっており、そもそも液状化しやすい地盤条件に、上記のような地震の特性が加わったことが特徴として挙げられる。
1-2)斜面崩壊
 今回起こった斜面崩壊は、従来の点的なものではなく、広範囲に面的に起こっていることである。これも長周期でなおかつ長時間継続振動が、深くかかわっていると考えられる。周期が低いということは波長が長いということで、それだけ影響が広範囲に及ぶことになる。またゆっくりと長時間揺れれば、木もそれにつれて揺れるから、根が地盤を攪乱してしまう。更にこれまでの降雨で地盤が緩んでいるため、地盤の抵抗力は低下している。その結果、広域的な崩壊に繋がる。

 以上の検討から、今回の北海道胆振地震の地震災害の原因には、長周期振動*が長時間継続したことが、大きな要因と考えられる。
*長周期振動についてネットで検索していると、次のようなデータが見つかりました。

 被害が大きかった苫小牧ー安平ー厚真地域で、階級が高いゾーンが集中し、次いで石狩平野や道東の日本海側にやや高いゾーンが分布していることが分かります。日高山脈を越えて、道東南部にもやや高いゾーンがある。また、地質構造的には無関係のはずの、宮城県北部にも長周期振動が見られますが、これは何故だかわかりません。」
(18/09/12)

 今回の北海道胆振地震で注目を集めたのが、北海道全域の停電。一般にブラックアウト現象で説明されているが、それだけでしょうか?これだけに拘ると、本質を見逃す危険性が感じられる。ブラックアウト現象については,既にメデイアに取り上げられているのでここでは触れません。ただしこれについて誤った見解を流す怪しからんやつがいる。それは池田信夫というホリエモンの太鼓持ち評論家、もう一人は経産大臣の世耕である。
1、池田信夫;この人物、元NHK記者らしい。根っからの三流保守で原発推進論者。但し原発のイロハも勉強していない。彼曰く、泊原発が稼働していれば停電は起きなかった。責任は泊原発の安全審査を遅らせた原子力規制庁と、それを放置していたアベ内閣にある。
2、世耕経産相;北海道電力は電力供給強化計画を持っており、その中に大型火力発電所もあった。これが実現しておれば、停電は生じなかった。
 双方とも、停電の原因は発電能力不足にあると思っている。言い換えれば、電気など発電機のボタンを押せば直ぐに出来る思い込んでいるのだ。ところが電気は急には作れない。現在の電力供給は、発電と供給とのネットワークで構成される。このネットワークという概念が、この人達には理解できないらしい。
1、地震が起こったのは午前3時。一日で最も電力消費量の少ない時間帯である。この場合、電力会社は全発電所を稼働することはない。全体の半分ぐらいは休止している。その時苫東厚真発電所が全電力量を賄っていたとは考えにくい。だから電力供給量が不足していたとは考えられない。停電の原因と考えられるのはネットワークの問題である。この一つがブラックアウト現象なのである。
 仮に新しい大型発電所がこのネットワークに組み込まれていたとしよう。苫東厚真だけで全電力の半分を受け持っているのだから、残り半分を新発電所が受け持ち、他の古い発電所は廃止か停止しているはずだ。これは電力会社の経営原理から云って当然なのである。であれば、苫東厚真がダウンした分の負荷が新発電所に加わるだけで結局は同じだ。
2、原発;池田は原子力規制庁の審査が遅れていたため、これが稼動できずそのためブラックアウトが発生しというが、池田の指摘は当たらない。本原発は震源から100㎞i以上離れており、震度も2に過ぎなかった。しかし全電源消失という事態が生じている。これは上に挙げた電力ネットワークがダウンし、そのため、外部からの電力供給が出来なくなったためである。ということは、仮にこれが稼動していても、ネットワークダウンにより、緊急停止してしまう。それどころか非常用電源の燃料が尽きれば、冷却が間に合わず最悪原子炉の暴走に繋がる。福島の二の舞だ。要するに、この二人のセンスは、腹が減ったら何か食わせておけばよいという、小学生か戦後食糧難時代のセンスしか持ち合わせていないのである。
 電力ネットワークは大きく、発電所ー消費地ー送電系からなる。今回話題になったのは発電所ー消費地の関係(ブラックアウト)だけで、送電系には着目されていない。送電系は送電線とそれを支える送電鉄塔それと変電所がある。このどれかがダメージを受けても、ネットワークはダウンする。又、地盤の性質が液状化しやすければ、地震時の鉄塔の沈下、傾斜ひいては倒壊に繋がる。
1)幹線鉄塔;例えば主幹線鉄塔が安平町で発生したような広範囲にわたる斜面崩壊に遭遇すれば、それを経由する送電系がダウンすることになる鉄塔基礎地盤が液状
2)変電所;H23年東北太平洋沖地震では、仙台の総合変電所がダウンしたため、東北地方南部が広域停電に見舞われた。
 このように、現代の電力系は複雑なシステムをもっているので、単純に設備だけ増やせばよいというものではない。また、どうしても投資は発電所のような巨大設備にむきがちであるが、送電系のようなあまり目立たない周辺設備の安全にも十分留意することが重要である。その点を世耕や池田のようなアホは分かっていないのである。
(18/09/09)


 2018年9月6日未明、北海道胆振地方を襲った地震。見てみると結構興味のある事実があります。まず、地震規模はM6.7で、小さくはないが、大きくもない。平成7年兵庫県南部地震のM7.4に比べれば、エネルギーは数分の1だ。また震源深さが40㎞と深いにも関わらず、地表では液状化や地表地震断層ではないかと思われる亀裂が発生するなど、通常の直下型地震と変わらない被害を出している。また、その振動も震源付近だけでなく、北海道全域から東北南部にかけて広い範囲に及んでいる。さてこれは何故でしょう?まず、メデイアで取り上げられている多くの映像情報から、興味のあるものをみていきます。

   今回の北海道胆振地震の震源と、既知の活断層(「石狩低地東縁活断層帯」)との関係。気象庁は、震源の深さから見て、両者は無関係と発表。妥当なところだが、何故こんな深いところ(地下40㎞というのは、最早下部クラストからマントルの領域だ)、で地震が発生するのか、という究明は必要。
   S;震源
まず斜面崩壊の様子を見てみます 
   厚真町の斜面崩壊。洪積世の台地の端の崖が崩れたもの。台地を構成する土質は、洪積世の火山灰質土。おそらく支笏・洞爺地域から飛来したもの。
 某テレビで崩壊土の映像をながしていました。
〇黒い土はいわゆる黒ボク。氷河期の腐植土と考えられていますが、焼き畑の跡という説もある。写真では崩壊崖面の最上部に見られる黒い薄い筋が相当。
〇赤い土は赤ボクと呼ばれる火山灰質ど。写真では下の赤い部分に相当。
〇白い軽石のような石はスコリアで、写真では上の黒ボクと赤ボクとの姦お白い帯に相当。
   台地の背後の丘陵部の斜面崩壊。こんな広範囲な崩壊は、私も初めてです。
   上の崩壊の一部で、丘陵の中の沢で崩壊が生じ、その土砂が泥流となって、平野に押し出してきたもの。
 土質が粘土質で、地震の前に相当雨が続いていたので、地盤が水を含み、泥流化したのでしょう。
 花崗岩の多い西日本では、これは土石流になります。土石流と泥流、どちらが危険か、なかなか難しい。
   本日(09/08)JAXAが発表した、厚真町山地崩壊の衛星映像。丘陵にはケスタ(尾根の左右で斜面の勾配が対象にならず、それが広範囲に一定の傾向をもって続く地形)が発達していることが分かります。
 ケスタは地質構造に従っ形成されます。まず画面で、縦方向に奔る線が主要な稜線(尾根)を現します。それから横方向に派生する線は斜面を浸食する沢を表します。主稜線を挟んで、支沢の長さが異なります。左側は長く、右側は短い。これは斜面自体が左方向の流れ盤になっていることを意味します。ということは、この地域の地層が全体として右から左へ、緩く傾斜していることを意味sます。
 この図の上を北とすると、この地域の地層は東から西に傾斜しているわけで、これは日高山脈西部に分布する、鮮新ー中新統の一般傾向と整合的です。
 
ここからは液状化の問題です 
   今回の地震で生じた札幌市内の液状化の様子。地震規模はM6.7でそれほど大きくはなく、また震源からも100㎞ぐらい離れているのにこの惨状は異常です。
 これに対しYという某地盤工学者(この人物、よく関東系メデイアに登場するが、言っていることは大したことはない)は、火山灰質土を盛土に使っているからだと説明する。それは要因の一つだが、それだけでは今回の札幌の液状化は説明できない。土質と地震のことをよく分かっていないのだろう。
 現実はもっと複雑です。、
    地震後の北電苫東厚真火力。岸壁の上に点々と見える白い斑点は、液状化で噴出した砂。この発電所は新しいので、護岸は当然液状化対策は行っているはず。それにも関わらず、何故液状化をおこしたのか、検証が必要。
 なお、左上の黒い部分は石炭貯留場。この発電所は石炭火力だったのだ。貯炭場の中に黒い穴が見えます。これが陥没でしょうか?石炭を発電ヤードに運ぶのに、トンネルを使うことがあります。そのための竪坑かもしれません。
(18/09/13)
   これは縄文海進期(5~6000年前)の北海道の古地理図です。札幌を含む石狩平野(I)は、この当時海だったことが分かります。
 2~3000年前の小氷期による海水面低下で、この海は陸からの堆積物で埋め立てられ、更にその上に石狩川等の河川堆積物でおおわれるようになる。
 自然河川は蛇行することが当たり前だが、そこに人為的要因で河川改修が行われ、流路が変更されると蛇行部に軟弱土砂が残ることになる。そういう軟弱地盤がしばしば液状化の素因となる。
 液状化するかどうかは、その都市の形成過程をよく見ることが重要である。
    本日毎日新聞朝刊に載っていた、厚真町に現れた亀裂。紙面では陥没と呼んでいたが「亀裂」というべきである。
 この亀裂、その直線性から見て、新たに表れた地表地震断層に伴う「低断層崖」の可能性がある。厚真町には他にもそれらしい亀裂が発生している。残念ながら、新聞やネットはその正確な位置を示していないので、相互の関連は分からない。なお、この写真では亀裂の延長がどうなっているか、オッサンが邪魔して分からなくなっている。
(18/10/05)
    北海道厚真町の道路の亀裂。場所が分からないので何とも言えないが、亀裂の前後で側道の白線に、若干のズレ・・・右ズレセンス・・・が見られるので、ひょっとすると、地表地震断層かもしれない。
(18/08/06)