続発する建設災害

横井技術士事務所
技術士(応用理学) 横井和夫


これは先日宮城県丸森町の鉄塔建設工事中、発破による爆風で負傷者を出した現場。不思議な点が幾つかある。


1、地山は礫岩が何かで、そもそも発破が必要だったか?
2、今時構造物基礎掘削に発破などは使わない。何故なら発破を使うと岩盤を緩め、返って強度(支持力)を低下させしまうからだ。構造物掘削のような局所破壊には、無発破工法を使うのが現代の常識。
3、火薬類の使用法は、「火薬類取り扱い取締法・同施行令」によって、厳密に決められている。爆風が生じたということだから。「込めもの」「防爆シート」がなかったか、お粗末だった。つまり、基本が出来ていない。
(23/09/28)

 昨日、東京日本橋・・・その後八重洲口正面に訂正・・・51階建て高層ビル工事現場で転落事故が生じた。その前には何処かの解体現場で作業員が転落し死亡している。いずれも転落防止用安全帯の着用を怠っていたとみられる。
 最近、この種の建設事故が多発する。しかし不思議なことに元請けゼネコンの名前が出てこない。マスコミがゼネコンに忖度してださないのか、ゼネコンがマスコミに手を回したのか?しかしそんなことをしても無駄だ。ネットニュースでは現場周辺の映像が流れている。現場を整理しているゼネコンの作業服を見ると顕か。元請けは「大林組」です。この会社の体質ですかねえ。
 昭和30年代から40年代に掛けて、高度成長もあって、建設事故が頻発した。しかし表に出てくるのは下請け会社の名前だけ。元請けは「あれは下請けの責任だから」と逃げの一手。これではイカンと、40年代末に、元請けにも責任ありとする最高裁判決が出て、以後は事故は元請けだけでなく事業者の名前も、マスコミに登場するようになった。そして50年代以降、事故は目に見えて減ったのである。
 ところがここ10数年、建設事故特に建築や解体工事で転落等の人身事故が増えている。そして元請けの名前が出ず、出ても下請け止まり。まるっきり半世紀近く昔に舞い戻ったようだ。それはどうも第二次アベ政権以来強まったように感じる。
 アベ政権といえば大成建設。大成はビッグ5に入るスーパーゼネコン。全建協会長も出している。大成からアベへマスコミ懐柔対策依頼があった。当時マスコミ対策に当たるのは、官房長官の菅と総務省の高市早苗。この二人がタッグを組んでマスコミに圧力をかけ、新聞、テレビからゼネコンの名前がでないようにしたのではあるまいか?といって、今回の事故に大成が関係していると云っているわけではありません。あくまでも、事故の当事者は大林です。
(23/09/19)

 またまた建設事故が発生しました。場所は静岡市清水区のバイパス工事。架橋中の橋桁の落橋だ。思い出すのは、10年ほど前の第二名神名塩工区での、国道176オーバーブリッジ架橋での落橋事故だ。
 昔居た会社に鉄建公団OBのトンネル屋のオッサンがいて、ある時「横井さん、これからは3Kを追放せにゃならん」という。当時土木の世界で3Kといえば、キケン、クライ、キタナイだが、そのオッサンのいう3Kとは、勘と経験と気合なのである。
 前述の第二名神名塩での事故を見てみよう。これは国道176をオーバーパスするために中間にサンダルを組み、これを中間支点として、一方から橋桁をジャッキでせりだす方法を採っている。桁がせりだすごとに、中間サンダルは変位するが、それはジャッキで調整される。
 現在では、ジャッキ操作は殆どコンピューター操作、また桁やサンダルには傾斜計やら変位計などの計器を貼り付け、コンピューターの画面を見ながら操作する。また、各計器には許容値が設定され,変位や応力が許容値に近づけば警報が発生されるようになっている。これが現在の普通のやり方である。第二名神工事でも同じだったと考えられる。そうなら、上記3Kの内、勘と経験の部分はクリアーされている。問題は最後の気合である。
 さて、事故が起こったのは橋桁が併合直前だった。そこで警報が鳴れば工事責任者はどうするか?マニュアル通りなら、一旦伸ばした橋桁を戻し、サンダル等の志保材を組みなおし、一からやり直しだ。しかし後数10㎝というところでやり直すのは、相当の勇気が必要だ。そこで「気合」という要素が頭をもたげる。「よし、やってまえ」そして全て終わりだ。今回の静清バイパスでも同じことが起こっていなければ幸いですが。
 ではこの「気合」を何とかする方法はないか?一つ考えられるのは、この部分をAIに任せることである。ひょっとすると、既にAI導入をやっているゼネコンもあるかもしれない。問題はAIの前提となるデータの質である。
(23/07/06)

 先日来報道が続く福岡市の土砂崩壊現場。作業員が穴を掘っている最中に土砂が崩壊して埋まったというから、おそらく深礎だろうと思っていたら、間違いなくそうでした。写真いだり下に見える白い円筒状のものが施工済みの深礎グイ。その隣の人が集まっているところを掘削中に崩壊が生じた。
 地山は風化の進んだ花崗岩(マサ)ですが、自立性は十分あるのでこれが崩れたとは考えにくい。右背面に見られる掘削残土が崩壊したのでしょう。当日或いは前日に降雨があったかどうかが、今後争われるでしょう。
(23/06/17)


 これはベトナムで基礎クイに子供が落下して死亡した事故の現場。落下したクイは、画面中央の水色のボーリングマシン・・・形から見て薬液注入用と考えられる・・・の前に見られるケーシング。施工法はカルウェルド工法による現場造成クイと見られる。
 実は日本でも昭和30~40年代前半にかけて、この種の事故がしばしば発生した。当時の施工現場はいい加減なもので、フェンスもなければガードマンもいない。夕方には子供の遊び場になることも多かった。
 その後安全管理は厳しくなって、既成杭の場合はくいを打ち終わってもクイ頭に蓋をかぶせるとか、場所打ち杭はその日の内にコンクリート打ちを終える様になった。ベトナム・・に限らず途上国・・・は未だ発展途上で生産優先、安全無視の体質が強いのだろう。土木工事以上におっかないのが露天掘鉱山。鉱石投入立て坑など、安全設備などなにもしていない。
 なおこの工事、日本のODA物件ではないだろうねえ。日本企業が絡んでおれば、そのうち損害賠償請求がまわってくるかもしれない。
(23/01/10)

 大阪府守口市水道管敷設工事での出水事故。当初直径1.2mの管というので。多分推進でやって、地下水が流入したのだろう、原因は帯水層に薬注をやらなかったか手抜き、と思っていた。ところが続報を見ると、管の長さは1㎞、深さは24mということだ。これは推進ではない、多分ミニシールドだろうと思ったら、案の定某報道でシールドでやっていたことが分かった。
 ミニシールドというのは何10年か前には流行ったが、今ではあまりやらない工法。そもそも労働衛生安全上問題のある工法なのである。掘削径が1m前後なら他に推進工法があるが、これは1スパンの推進長はせいぜい数10m、深さもせいぜい数m。立て坑と立て坑の間を繋いでいくものだから、何かあっても対策はしやすい。
 一方ミニシールドは内部空間は推進と同程度だが、シールド機能を備えているから、より深い深度や長区間推進を可能にする、というのがメーカーの売り。しかし推進工法並みの狭い空間で長いトンネル。日常の監理も大変だが、坑内で何か起こったとき、直ぐ駆けつけることもできないし、簡単に退避もできない。そのため次第に流行らなくなったのだろう。
 それが突然、大阪でゾンビのように復活した。水道管だから、管径はせいぜい400mm。通常のシールドなら最低でも直径は2m。そんな贅沢はできん、と誰かが云ったのではあるまいか?その結果ミニシールドのようなゾンビ工法が復活したのである。こういう事故を防ぐには、厚労省が人間が入るトンネルの最小径は2m以上とし、それ以下は労災協議は受け付けないとか、自治省が救急隊員が入れる空間を確保するよう各自治体に通達を出すとかしなければ直らない。
 なお今回の事故はシールドシステムのどこかに欠陥が発生し、被圧地下水の流入を押さえられなくなったのだろうと考えられる。大阪は地下水くみ上げ規制以来、地下の被圧水圧は上昇している。その点を守口市もゼネコンも見逃していたのだろう。今回の事故も、工事個所の地盤の特性を無視したために起こった、誤った工法過信の一例である。
 大阪府守口という沖積軟弱地盤化下のトンネル工事だから、地盤調査は少なくとも30m級のボーリングを少なくとも10 箇所程度はやらなくてはならない。無論土質試験や被圧水圧測定は必須。地層の連続が不確かな箇所があれば更に追加する。この結果で適正なトンネル位置(深さ)を設定し、その上でトンネル工法を検討する。要する費用はざっと1000数100万。地盤調査に1000万!などと、アホな土木屋は腰を抜かすだろうが、今回の事故は業務災害だから後から請求書が消防署から回ってくる。それだけでなく労基や警察の聞き取り、事故再発防止計画書の作成・協議、工事再開までの時間ロスを考えれば、1000万円など安いものだ。
(21/12/17)

 12/1に岩手県宮古での国道工事で発生したトンネル崩落事故。NHK始め大手のマスコミは殆ど報じていません。ゼネコンか、あるいは国交省からストップがかかったのか?
 それはともかく、筆者が小学生ぐらいの頃、トンネル落盤事故はしょっちゅうあった。それが40年代後半あたりからめっきり減って、トンネル工事の安全性は大きく向上した。ところが最近再び事故が増加する傾向が見受けられる。これはなぜか?
 最近日本鉄鋼業会が、最近頻発する製鉄所内死亡事故原因にかんする調査報告書をまとめた。挙げられた原因の一つに(過去に行われたリストラにより)、技術の継承が失われた、というものがある。
 これは土木の世界にも共通する。中でもトンネル工事というのは過度の職人的性格を有する。そこにリストラが導入されれば、結果は鉄鋼業界と同じである。
(16/12/04)