明石大蔵海岸陥没事故について

 この件で一番笑ってしまったのが、一審判決が出たあとの明石市主宰パフォーマンス。大勢の職員が、真面目な顔をして一列に並んで、鉄の棒を地中に差し込みながら行進しているのです。彼らは一体何を考えてこんな無駄なことをやっていたのでしょうか?おそらく、上司に云われたから、仕方なくやっているのでしょう。何がバカバカしいか?
1、陥没が発生するのは動水勾配が大きくなる(土の限界動水勾配を越える)、護岸周辺だけ。動水勾配が生じない公園中心部では、陥没の原因となる土砂粒子の流失そのものが生じない。従って、やるだけ無駄。
2、職員が持っていた棒はせいぜい、長さ1m程度。陥没が生じるのは地下水位以下の養浜砂の部分。その様子を確認するためには、少なくとも2m以上の棒でなくては役に立たない。
3、要するに明石市は役に立たない事を、大げさに見せつけているだけなのである。一体誰がこんなパフォーマンス を考え出したのか?!防災研か?それとも国土交通省か?


 明石大蔵海岸陥没事故差し戻し審判決(神戸地裁)で、原判決を破棄し、被告有罪。要するに陥没の発生は予測可能だった。これは筆者がかつて指摘したとおり。やっと今頃判ったみたいだ。ワタクシを鑑定人にしておけば、裁判はもっと早く済んでいただろう。役人に任せておくと、時間が懸かって仕方がない。たかが京大防災研なんてイチコロだよ。それにしても質が低下・しているのが、地方公共団体と大学の技術力の低下・劣化。
(11/03/10)

明石大蔵海岸陥没事故事件では、一審神戸地裁(刑事)では被告人全員が無罪になりました。その原因の一つに土木学会事故調査委員会報告書があります。この報告書は以下に述べるように色々欠陥のある報告書です。又、公判では委員会委員に対する証人尋問も行われたと思いますが、一審判決主旨から見ると、被告側弁護人による、巧妙な誘導尋問が行われたことが推測されます。焦点を絞って、論理的(工学的)に反論すれば、一審判決のような、非科学的且つ被害者に対し屈辱的な判決を、ひっくり返すことは可能と思われます。一審段階での被害者及び検察側主張はいささか、情緒に流れた感がします。相手が工学で防御しているわけだから、こちらも工学で攻めなくてはならない。

明石大蔵海岸陥没事故調査報告書を読んで


明石大蔵海岸陥没事故に関しては、現在、次の2編がオフィシャルリポートとして公表されており、それはホームページ上で閲覧出来る。
1) 「大蔵海岸 陥没事故調査報告書」  平成14年6月 土木学会海岸工学委員会  
2) 「大蔵海岸 砂浜陥没事故報告書 −再発防止に向けて−」  平成16年3月  明石市
3) その後頻発する小規模陥没については、その都度国土交通省姫路河川国道事務所ホームページで閲覧出来る。
 事故そのものについてのメインの資料は1)、2)である。3)についても、後ほど触れたいが、一審判決に大きく影響したのは1)、2)、特に1)であるため、ここではこれらに記載されている点につき、裁判上の争点となりうる問題点を検討する(但し、遺族が控訴する意志がある場合に限って)。
 なお、便宜上、1)を学会報告書、2)を市報告書と呼ぶ。問題点としては次の諸点を取り上げる。
1) U字型防砂版について
2) 事故原因の認定について
3) 学会報告書の証拠能力について
4) その他
 
1)U字型防砂版について
 南側及び東側護岸はケーソン護岸である。隣り合うケーソンの隙間からの砂流失を防止するために「U字型防砂版」というものが設置されていた(西武ポリマー化成製 「グラベルシールSK」)。実を云うと、筆者は、この事故が起こるまで、ケーソンの裏にこのようなものを設置するとは知らなかったのである。普通はエラスタイトによる目地詰めとか、不織布を使った透水防砂版を使うのではないでしょうか?
 それはともかく、U字型防砂版とは次のようなものです。



 一体全体、誰がこんなものを考えたのでしょう?チョット見ただけでも直ぐに問題点が判る。
1) 途方もなく施工が面倒である。
この防砂版は厚さが5oもある。結構分厚いから硬い。手で簡単に曲げられる代物ではないだろう。施工としてはケーソンを設置した後、フラットバーで両端を固定し、中央部を薄板か何かで、隙間に押し込み、U字部を造る、ということになろうか。これが高さ4mに渡って続くのである。
 だから大概は嫌になって、折り曲げるのをさぼって、U字部を外側に出したままにしてしまう。つまり、手抜きである。ところが、この手抜きが逆に、怪我の功名になっているのである。
2) 応力集中が発生する。
ケーソンは独立した構造物だから、波浪による衝撃で、個々が別々に動く。これが差動である。差動が発生したとき、施工が正規であれば、防砂版は両端がフラットバーで固定されているから、変位が許されない。従って防砂版内に応力が発生する。しかもその応力は均等ではなく、隣り合うケーソンの角、中央U字部の三カ所に集中してしまうことが、上図から容易に読みとれる。波浪は常時継続的に発生するから、応力集中も継続的に発生し、上記三カ所には常時繰り返し荷重が作用していたことになる。
 ここに、面白いデータがある。市報告書P29に@陥没発生位置(明石市把握分)の一覧、同P78にAケーソン背面状況の一覧が示されている。特に後者では、防砂版がケーソン隙間にU字型に挿入されているケースを「陸に凹」、逆に陸側に孕みだしているケースを「陸に凸」として分類表示している。ここで、前者は正規の施工、後者が手抜き施工であることは云うまでもない。ところが、@Aを重ね合わせると
(1) 陥没発生箇所では、全て防砂版が「陸に凹」に設置されている。
(2) 逆に「陸に凸」に設置されている個所では、陥没は発生していない。
(3) 無論、本件事故発生地点の防砂版も「陸に凹」である。
 ことが判る(何故か、学会報告書はその点に触れない。市報告書も若干、及び腰の風情がみられる)。
防砂版が正規に(陸に凹)設置されている場合は、防砂版の端点が固定されているから、上記の三カ所に応力集中が発生し、そこが防砂版の弱点となって、長期的には防砂版に破断が生じ、それから土砂流出が生じる。逆に手抜き(陸に凸)で防砂版がぐらぐらしておれば、応力集中が発生しないので破断も生じない。
市報告書P89によれば、H13/1に大規模な陥没が発生したので、ケーソンNO8、9の境界を掘削調査した(H13/1/29)ところ、防砂版取り付け金具の変形と大型土嚢を発見した。施工業者によれば、施工途中から砂の流出があり、その補修のために実施したらしい。これに対し、明石市は施工不良を理由に損害賠償請求をしているようだが、筆者の私見では、これは設計ミスである。
メーカーが指定した正規の施行では、欠陥(土砂流出、陥没)が発生する。ところが、手抜きで、メーカー仕様と全く別の使い方をすれば、何の問題もない。要するに、このU字型防砂版は欠陥商品なのである。欠陥商品を設計に組み込んだこと自体が、設計ミスに問われる。問題はこのような欠陥商品が、どうして公共事業に舞い込んで来たか、である。一般的には次の4ルートが考えられる。
@ 設計コンサルが当初から材料部品を設計書に織り込んでいた。…現実にはあり得ない。仮にやったところでメーカーからのバックマージンなど僅かなもの。今時、そんなヤバイ橋を渡るコンサルなどいない。
A 発注者から、コンサルに材料指定があった。…メーカーが発注者に売り込んで、発注担当者がコンサルに材料を指定した。これもヤバイ話しで、明石市の様な狭い世界では、ライバルメーカーからチクリがあるから、これもうっかり手をない。もしやったとしたら、それはスキャンダルです。メーカーが市長とか市会有力議員に手を廻した?あり得る事ですが、そこまでは判りません。前市長ならやりかねんか?知りません。
B ゼネコンが材料を選定した。…設計段階では材料指定は無かった。工事契約締結後、防砂材の選定についてゼネコンが検討し、市の了解を得て施工する。これは何の問題もありません。但し、ゼネコンの申請に対し、市も了承しているわけだから、責任は応分で負担する事になります。
C 発注者から、ゼネコンに材料指定があった。…Aの場合のコンサルをゼネコンに置き換えるだけの話しです。場合によってはスキャンダルになりかねません。
面白いのは、この過程については、学会報告書も、市報告書も一切触れていないことです。更に疑問なのは、市報告書はゼネコンに対する聞き取り調査結果を公表していない(学会にその権限はありませんが、明石市にはあります。だからやっていない筈がない)ことです。この種事故の原因解明調査で、施工業者に対する聞き取りをやらないことなどあるでしょうか?無論刑事で立件されているから、地検から事情聴取されている可能性はありますがね。

2)事故原因の認定について
学会報告書P118「4. 事故原因の分析」では、冒頭に事故発生原因として「事故は、砂浜下に発生していた深さ約2mの縦長の空洞が、その上に載った子供(4才の女児)1名の重みにより、陥没したことにより発生した」と断定している。これをそのまま、受け取ると、陥没は女児が空洞の上に乗ったから起こった、載らなければ起こらなかった、という意味に理解されかねない。遺族をして「これではまるで娘が犯人のような判決だ」と言わしめる原因になったのである。委員会は、そういうつもりではない、というだろうが、これが神戸地裁一審判決に大きな影響を与えた可能性はある。遺族感情は別においても、この結論は現実に即しておらず、学問的にも正確ではなく、非常に問題が多い。次の2点に問題が感じられる。
   3-1)盛土材料との関連を無視している。
   3-2)女児の重みだけで土アーチが崩壊するかどうかについての検証が不足。
3-1) 盛土材料との関連を無視している。
 空洞の発生原因は(1)防砂版の亀裂発生、(2)そこからの砂の吸い出し、であることは平成13年4月の明石市の調査で概ね推測されていた(市報告書 p22)。水位変化で簡単に粒子が移動する砂の粒度組成にはある特徴がある。学会報告書では養浜砂と、その下の雑石層の粒度の概要を述べるのみで、それ以上のコメントはない(hpでは具体的なデータは公開されていない)。既に判っていることだが、陥没を起こした地層は、上部の養浜砂である。これの中央粒径は1oである。想像するに、この砂は中央粒径付近で粒径加積曲線が立っている、いわゆる地震で流動化しやすい砂ではないかと思われる。
3-2)女児の重みだけで土アーチが崩壊するかどうかについての検証が不足。
(1) まず、事故調査委員会は陥没原因として、砂浜下に空洞があったことを認めている。ではこの空洞はどういう風にして確認されたかというと、@地下レーダー探査により、突堤背面の地盤を調査し、空洞映像を求める。A次に発泡ウレタン注入により空洞型どりを行う。B掘削し、空洞の外径、形状を確認する。学会報告書で記載されている女児が転落した空洞の大きさは、転落事故発生点に隣接した空洞箇所で、上記の方法で求められたものから推定されたもの(学会報告書 4事故原因の分析 (3)空洞の成長原因)である。
(2) 地下レーダー探査とは、電波発信装置と受信装置、データ解析装置を一つの台車に組み込み、それを人力で牽引して地下の状況を調べる方法である。台車の大きさ・重量はメーカーによって異なるが、概ね数100N、又作業に携わる人員の体重も概ね数100Nはある。合計すれば1KN近い重量が地面に加わる。地下レーダー探査により、空洞映像が得られたということは、これらの重量が空洞の上を通過していたことに他ならない。又、発泡ウレタン注入に際しても数人の人員が必要である。体重合計は1KNを下らないであろう。
(3) 一方、4才の女児の体重は高々100数10Nに過ぎない。学会報告書では、これだけの荷重が加わっただけで、空洞上部の土が荷重を支えきれなくなり、陥没が生じた事になっている。それなら、少なくとも数100N以上の総重量が加わった事故調査では、何処かで陥没が発生したはずである。しかしながらそのような事実はない。このことは、陥没は上からの荷重で発生するものではない、ということを意味する。
(4) 陥没とは、そもそも地下の空洞周辺が自律的に崩壊を繰り返し(空洞の成長)、それが地表に達した段階のことである。今回のケースでは、事故発生地点の地盤は既に何時崩壊してもおかしくない状態に達しており、そこに偶々被害女児が遭遇したに過ぎないのである。従って、学会報告書の結論の内、「その上に載った子供(4才の女児)1名の重みにより、」は余計であり、原因としては正確ではなく、第三者に誤解を与えかねない表現である。従って、学会報告書から削除すべきである。
 
3) 学会報告書の証拠能力について
 市報告書を読んで驚いたのは、そのP43に事故調査小委員会委員長の酒井哲朗京大大学院教授が「事故の原因と推定した防砂版の亀裂と空洞の発達の何れの現象も、小委員会のメンバーにとって初めて知ったことであった」(土木学会誌)とあることだった。なーんだシロートが事故原因の鑑定をやっていたのだ。こんなことで良いんでしょうか?この問題を次の2点について吟味する。
(1) 空洞成長についての認識不足
(2) 実験の幼稚さ

3-1) 空洞成長についての認識不足
  まず、防砂版に亀裂が入ると云うことを知らなかったのは、矢無を得ないだろう。防砂版といってもタイプは沢山あるわけだし、そもそも土木材料というものは耐久性がある、ということを前提として選定されるからである。しかし、空洞が発達すると云うことを土木の専門家…特に京大教授ともあろうものが、知らなかったではしゃれにならない。
 地山に空洞を掘削すると、その上部に土アーチが形成され、これがその上部の土塊重量を支える。アーチから下の部分が緩み地圧としてトンネル支保に作用する。これを支保工で支えることにより、トンネル頂部の安定を維持する。これが土アーチ理論に基づくトンネル永久支保理論である。ところで、かつてこの土アーチの形成を、実験的(落とし戸実験)に研究していたのが京都大学工学部村山研究室だったのである。その後継者が、空洞周辺の状態変化について無知だったというのでは問題ではないか?
 かつてのトンネル工事では、掘削後アーチ支保工を建て込み、地山との間に掛け矢板を打ち込む。しかし、この矢板は土石の落下を防ぐためだけのもので、支保工と地山の間には隙間が残っている。抗口近くの土砂地山や、断層破砕帯などの軟弱地山では、この隙間を利用して土砂の崩壊・流出が発生する。この結果トンネルの断面が次第に拡大していく。これが空洞の成長である。これが地表まで達した時に陥没が生じる。
 陥没というものは、上に述べたような特殊なものではなく、日常的に発生している。例えば街の中を歩いてみる。マンホールの廻りや、路面が沈下していることがある。これは裏込め土の沈下もあるが、陥没の前兆でもある。地下に何らかの空洞が存在しておれば、必ず空洞は成長し、長期的には陥没を生じると考えなければならない。また、地山が空洞を造りうる性質のものであれば、必ず将来に陥没を生じる。この状況はテルツアギーのトンネル支保理論を用いて次のように説明出来る。
 テルツアギーはトンネル支保に作用する地圧を、(ゆるみ高さ)×(地山単位体積重量)とし、ゆるみ高さhを、経験的にk(B+Ht)で表した。



       k;地山による係数(地山の性質により0から数倍まで変化する)
       Bi;掘削幅(i回目の崩壊後の空洞幅)
       Hti;掘削高(i回目の崩壊後の空洞高)
ここで、ゆるみ高さに相当する部分が崩壊し、空洞が成長すると考える。
初期空洞の直径を0.1m(B0=Ht0)、 k=1.1としてどれぐらいで空洞が成長するかを計算してみよう。但し、空洞幅は1回の崩壊毎に主動崩壊角で拡大するものとする。Bi=Bi-1+2bi     bi =Hti/tan(45+φ)=0.577Hti φ=30゜とする。

段階i 空洞幅Bi=Bi-1+2bi(m) 空洞高Hti= Hti-1 +hi-1(m) Bi+Hti(m) ゆるみ高hi(m) 2bi(m)
0 0.1 0.1 0.2 0.22 0.12
1 0.22 0.32 0.54 0.6 0.37
2 0.59 0.92 1.51 1.66 1.06
3 1.65 2.58 4.23 4.65 -


 直径0.1mの空洞が3回の崩壊の繰り返しで、2.5m以上(ほぼ養浜砂の厚さ)まで成長するのである。この計算は古典土木工学の世界であって、目新しいものでも何でもない。
 なお、空洞が成長する速度であるが、これにはキチンとした理論があるわけではないが、一つの定性的目安としては、地山の自立時間に関するラウファーの図を参考にしてもよいだろう。


 つまり、空洞が成長すると云うことは、古典土木工学の世界では旧知のことだったのである。この程度のことも知らないメンバーが作成した事故調査報告書に、裁判証拠能力が有るか否か、極めて疑問である。少なくとも、陥没に経験のある専門家を委員会に加えるべきであったのは当たり前であろう。

3-2)実験の幼稚さ
 更に、学会調査の欠陥として感じられるのが、「動水勾配」と限界間隙比に関するコメントがないことである。水の影響についての基本的認識が欠けていたとしか思えない。「いやそうではない。ちゃんと水槽実験」をやっていると云いたいだろうが、この実験そのものが、一体何を目的として、どういうセオリーで行われたのか、さっぱり判らない。通常、この種の実験というものは、当座の裁判対応も必要だろうが、むしろ対策工の設計とか、或いは将来の設計基準改訂を念頭において計画されなければならない。さて実際に行われた実験というものは
@ ケーソンから盛土までの地盤・構造物構成を1/10に縮小する。
A 波高も1/10に縮小する。
B 砂粒子も1/10に縮小する
といった単純縮小方式だった。ここでは土木実験で最も重要な相似律が全く考慮されていない。砂粒子と水との関係は、単純に粒子直径を変えれば再現出来るというものではない。粒子の絶対値が問題になる(水理公式集を見れば簡単に判る)。実際、当初陥没地盤中間粒径1oの1/10に相当する、中間粒径0.1oの砂(殆どシルトに近い細粒砂)を使用したところ、サクションが大きくて空洞が生じないため、粒径0.35oのものを使用した(学会報告書)。こんな事は当たり前。実験を始めてそれに気がつくようではお粗末過ぎる。もし、模型実験で現象を再現したければ相似律に従わなければならない。つまり
@粒子は平均粒径も密度も、実物材料の1/10の物質を使用する。
A粒子間摩擦係数も、実材料の1/10のものを使用する。
B使用する流体の密度・粘性係数も水の1/10のものを使用する。

 そんなこと簡単に出来ると思いますか?出来ないんですよ。だから後で云う、要素実験とコンピューターシミュレーションの活用が考えられるのです。
 筆者なら次のようなやり方で、現象を再現するだろう。いささか金は掛かりますが、大したことはない。
(実験主旨)
 砂が移動すると云うことは、土中の水の流速が粒子移動に関する限界流速を超えたからである。
         v>vc
         vc=k・ic
           v;流速
           vc;限界流速
           k;透水係数
           ic;限界動水勾配
 これらの内、k、ic を実験的に求める。
(方法)
1) 原地盤から、陥没に直接関係している養浜砂(電磁波探査から顕かである)の不攪乱試料をサンドサンプラーにより採取する。
2) これを用いて、原地盤の密度、間隙比を求める。これによっても透水係数、限界動水勾配は得られる。
3) 変水位透水試験により透水係数、限界動水勾配を求める。これと2)によるデータを付き合わせ、適正な値を設定する。
4) ケーソン背後にピエゾメーターを設置し(数10箇所程度)を設置し、波頭変化にともなう背面の水頭変化を測定する。
5) 飽和・不飽和浸透流解析を行い、ケーソン背面の水頭分布を解析的に求める。4)の結果を参考にして、背面地盤内の動水勾配変化を求める。
6) 5)の結果と3)の結果を比較し、不安定領域の分布、変化を検討する。
7) この方法によれば、ケーソン背面土の性質から空洞発生条件を求めることが出来、今後の対策工の設計、並びに同質構造物設計に関する具体的指針が得られる。
8) 一方、委員会実験は、単に波浪により空洞が出来るかどうかといった初歩的定性的実験に過ぎない。これからは委員会の自己満足以外の何も得ることはない。
 最近、問題になっているのは学生の学力低下であるが、それどころか、大学そのものが学力低下を起こしているのである。

 何故、このようなシロートが委員会メンバーに選ばれたのか?委託者は国土交通省と明石市であるが、明石市はこのような事案については未経験である。従って、委員会構成について国土交通省が主導権を握ったのは容易に想像出来る。この際色々なことが考えられるが、これ以上は止めておこう。

4) その他
その他、報告書を読んで感じた問題点を幾つかあげてみる。
(1) 検討時間が短すぎる。
 学会報告書「まえがき」(委員長名)に、「土木学会海岸工学委員会は、国土交通省近畿整備局及び兵庫県明石市から調査の依頼を受け、・・・今回の事故の重要性・緊急性に鑑み、・・・・(中略)・・・・可能な限り早急に結論を導き出せるように努力され・・・・」とある。この委員会を律するキーワードは「重要性」と「緊急性」である。この内、「重要性」は委託者である国と市、受託者である委員会の双方が共有するが、「緊急性」は必ずしもそうとは云えない。行政側はマスコミや市民との対応に追われるため、「緊急性」を要求するのは当然である。しかし、本事故は単なる物損事故でなく、人身事故である。当然民事だけでなく、刑事でも争われることは容易に想像される。その時、何が争われるか、といえば「真実は何か?」である。そして、その時第一級の証拠資料として採用されるのは、学会報告書である。そうであれば、学会は「緊急性」よりは「確実性」を優先し、より慎重な検討を行うべきである。事故が生じたのが平成13年12月30日。学会報告書が出たのが同14年6月である。たった6ヶ月しかない。この程度の短い時間で突っ込んだ検討が出来たかどうか、疑問である
@ 事故の元凶と考えられるU字型防砂版の材料試験が行われているが、内容は業会基準に沿ったものであり、新味はない。防砂版に亀裂が入る理由は裏込め材の摩擦もあるが、3箇所の応力集中部での材料疲労が主であろう。実態を再現出来る繰り返し疲労試験を行うべきであろう。なお、これは最後の破断まで試験を行う必要はない。
A 事故原因とされる4才の女児の体重で、本当に1mのアーチが破壊するか、どうかの再現実験が必要である。
(2) 地下の空洞の予見は不可能だったか?
 河田委員長は市報告書末尾の所感で、私見として「原因は・・・『砂層中に直径80p、高さ2mの紡錘形の空洞が形成されることを予見出来なかった』(1)ことにある。これを予見するには砂浜の完成後、海岸工学の漂砂力学の専門家が、継続的に追跡調査を行わない限り無理であろう」と述べている。私の見るところ、一番判っていないのは、河田委員長自身ではないか?砂層中に空洞が出来る現象は漂砂力学の問題ではなく、先に述べているようにトンネル力学では自明のことなのである。その説明は土質力学で十分説明出来る。自分の不明を一般化すべきではないだろう。更に、空洞の大きさを具体的に数字で示している点に、問題点の誤魔化しが感じられる。何故なら、陥没が発生するか否かは、空洞の大きさに関係がないからである。しかもこれが、一審での被告全員無罪の根拠になっている。この点からも、学会報告書がどちらにスタンスを置いているかが理解出来るのである。
(2)安全設計はコストアップに繋がるか?
河田委員長は同じく、フェイルセーフという概念を出し、何重にも安全な対策を採るべきと述べる。更に学会としての対策案を示し「問題はこのような工法を採るとコストが高くなることです」と結んでいる。学会委員会の出した対策案とはどういうものか、それが果たしてコストアップに繋がるかを検討してみましょう。委員会対策案の骨子は次のとおりです。
@ U字型防砂版をなるべく使用しない。
A 大粒径裏込め材と防砂シートの使用
B フィルター材の使用
C 養浜材を薄くする(概ね1m以下)。
D ケーソン間に目地材を使用する。
 これらのことは何か特別の工法でしょうか?通常の土木工事では当たり前のことです(特にABD)。ところが、何か言葉が連ねられると、その分、金が掛かるような気になってしまう。実は全然金が掛からないのです。ケーソンを除く人工海岸材料で、一番コストが掛かるのは盛土です。
 盛土は原設計では養浜材と雑石です。前者は購入材で、おそらくマサを使用していると見られます。後者は建設残土です。もらい土工だから材料費はただ。裏込め材やフィルター材は採石を使えば、単価はマサの1/3程度。全盛土厚を8mとして、盛土コストの相対比較をしてみます。但し単価はマサを1、採石を0.3、雑石を0とします。マキダシ、敷き均しは両者共通ですから無視します。
@原設計
 マサ…2.5m/u  雑石…8.0−2.5=5.5m/u
コスト=(1×2.5+0×5.5)/8.0=0.31/u
A対策工案
  マサ…1.0m/u  採石…1.5m/u  雑石…5.5m/u
コスト=(1×1.0+0.3×1.5+0×5.5)/8.0=0.18/u

 土以外の人工材料はU字型防砂版と防砂シート、目地材です。目地材は通常のエラスタイトで良いでしょう。防砂シートも通常の不織布を使います。コスト的にはU字型防砂版と、防砂シート+目地材とでは殆ど変わらないか、返って安いかも知れない。
 つまり、対策工案の方がコスト的にやすくなってしまう。河田委員長の云うように、対策をすればコストが高くなるというのは根拠がありません。原設計は高い金を出して不安全な買い物をしてしまっているのです。
 何故、こういうことが起こるのか?市担当者が盛土の施工、土の性質を理解せず、業者やメーカーの云うことを鵜呑みにしたためでしょう。盛土施工や、土の性質の基本をわきまえておれば、今回の事故や上記のような逆転設計は起こらないのです。

昔々の宅造谷止め盛土では、法先に出てくる軟弱地盤対策に、よくケミコ処理をやって、結局盛土をすべらした、などと云う話しがよくありました。ケミコの欠点は幾らでもありますが、具体的に並べると、メーカーから営業妨害呼ばわりされるおそれがあるので、止めておきます。こんなものは、軟弱層を除去して採石で置き換え、法尻を採石マウンドで押さえれば、ケミコ改良なんかよりずっと安くて安全な盛土が作れます。筆者は斜面内表層にトレンチを切り、岩砕で置き換えてH=80mの盛土を設計したことがある。無論、人工材料は一切使っていません。 このように、自然材料を上手く使えば、下手な人工材料より遙かに効果的な対策になるのです。


(4)全体に検討が甘すぎる。
学会報告書の構成は全体として
1、 調査概要、
2、 大蔵海岸の概要、
3、 事故原因究明のための調査
4、 事故原因の分析
5、 今後の復旧対策の提言
6、 今後の安全管理に向けて
からなっている。1、2、は事故とは関係はない。3、は単なる結果の記述である。問題は4、5である。
 4、では冒頭いきなり事故原因をこうだと断定し、その後にその論拠を記述するという方法を採っている。通常、こういう検討では、@まず考えられる幾つかのケースを用意し、A事故状況・調査結果に基づいて、それぞれについて物理的に可能かどうか、無理がないかどうかを検討し、B必要且つ十分条件を満足するケースを選び出し、結論を導き出す、という方法を採るものである。しかしながら、学会報告書の結論は十分条件のみに焦点を当てており、論理的に欠陥がある。
 又、5でもいきなり対策工の提案が出てくるが、何れも抽象的で具体性に欠ける。何となく出てきたアイデアを、羅列的に並べただけという感を受けざるを得ない。例えば(5)養浜砂を薄くする、というのは対策工として正しいのであるが、その理由が「万一陥没が生じた際にも、深刻な人身事故が防げる」というのでは、工学者としてのセンスを疑わざるをえない。町内会の寄り合いのレベルだ。工学者なら、盛土を陥没が生じない構造とする提案をなすべきである。陥没の原因が波浪による養浜砂の吸い出しにあることは顕かである。であれば、雑石層と養浜砂との境界を、海岸盛土内地下水位より上に設定すれば問題は解決する。上で挙げた余計なことは云わなくて済む。又、そうすれば、この報告書は技術的な普遍性を持ち、提言は一般的な価値を持つ。それともそうは書けない、なにかの事情でもあったのでしょうか?どちらか云うと、学会報告書のスタンスは被害者より、依頼者である国・市の方を見ているとしか思えない。まあ、当たり前ですが、学者と芸者は紙一重。その一重の差を守るのが難しい。

 結論を云うと、学会報告書は田舎の二流コンサルタントか御用学者のお勉強を、委員会がフムフム、シャンシャンで認めた程度のレベル。評価は45点程度。

(1)この認識が一審判決に於ける被告全員無罪の根拠になったと云えます。遺族にとっては到底容認出来ない言葉だし、技術的にも問題が多い言葉です。何故なら、陥没を起こすには空洞の大きさは関係がないし、安全対策にも大きさは関係がないからです。地盤条件が陥没を起こす条件に入っておれば、それだけで十分なのです。
(06/07/17)


明石大蔵海岸陥没事故一審判決について

 
明石大蔵海岸陥没事故訴訟で一審無罪判決。争点は次の3点である。
(1)市・県・国に安全管理義務があるかどうか。
(2)事故の予見が可能かどうか。
(3)結果を回避することが可能かどうか。
 これらに対し、判決は(1)は認めたものの、(2)は不可能であり、予見不可能である以上(3)については責任を問えない、というもの。最も重要な点は(2)事故の予見可能性であることは云うまでもない。これを突き崩せれば、逆転判決を勝ち取ることは可能である。(2)について、神戸地裁は@これまで陥没が生じていた立ち入り禁止区域と、当該事故発生地点とは大きく(約60m)離れている、A地下に深さ2m、直径1mの空洞があるのに、地表に異常が無い場合、それを予知することは、現代の土木工学の知見では不可能である、とする。
 以下、この2点と、結果の回避可能性について吟味する。
(1)@について
 この判断の問題は地盤内での欠陥発生確率を、単に距離の問題に置き換えている思考の単純さにある。構造物欠陥の発生と、距離との間には何の関係もない。関係するのは、土質、地下水位を始めとする内在的性質と、地震力などの外力条件の共通性のみである。例えば、大阪の埋め立て地で盛土がすべり破壊を起こしたとしよう。それと盛土形状や土質条件などの基本的属性が共通しておれば、同じ破壊は北海道でも起こりうるのである。当該事故発生地点と、既存陥没地点は、距離はあるというものの、共通の護岸背面であり、又盛土自体も同一工事で行われているから、使用材料・施工方式も共通している。従って、盛土の基本的属性は、事故地点も既存陥没地点も共通していると考えるべきである昨年、中国地方を襲った集中豪雨で山陽道の高速盛土が崩壊した。その後、国土交通省は全国の同様の盛土区間に対し、緊急点検を指示している。これはどういうことかというと、盛土形状・規模が共通しておれば、条件が整えば、場所によらず同種事故が発生しうる、ということを国も認めているのである。国が認めているということは、技術的に正当性を有するということに他ならない。これに従えば、本判決に於けるこの点の判断は著しく根拠に欠けるものである。
2)Aについて
 これも上と同様、視野の狭い浅薄な判断である。まず、陥没とは云うまでもなく、地盤内欠陥を原因とする地盤の破壊現象の一つである。原判決は、地表に異常が無いのに、地下に異常があると判断することは、現在の土木工学では一般的ではない、とする。問題はこの証言を行った専門家が、地盤調査を専門としない土木工学の人間だということである。確かに現在の土木工学のレベルでは、地下の様子を読みとることは難しいだろう。それは、土木工学がそういうことを目的とした学問ではないからに過ぎない。しかし、地下の状況を知る手段は何も土木工学だけではない。地下のことは地下の判断に適した手段をとればよいのである。土質工学や物理探査学を含む広い意味の地質科学の世界では、これはそれほど難しい問題ではない。土質工学は、盛土材料の性質、特に粒度分布と地下水位の関係から、盛土材料が安定がどうかの判断材料を与えてくれる。また、ボーリングやサウンデイングなどの地盤調査法がある。更に物理探査の手段を使えば、盛土全体の強度分布が判り、どの部分が脆弱になっているか、が判明する。場合によっては、空洞を確認することも可能なのである。従って、地下空洞の存在を事前に予知できないとする原判決は、余りにも偏った見方でしか問題を見ておらず、科学的根拠を有しない。
3)結果の回避の可能性
 以上の検討から、当該事故区間では、@既存陥没地点の検討・対策を適切に行い、A護岸全体の背面土質を十分に調査しておれば、事故を回避出来る対策を容易に執り得たと考えられる。しかも、これらに用いる手段は、技術的にそれほど高度なものではなく、既に通常の土木の設計で常時用いられているものである。又、被告人らが、この種の問題に対し、十分な専門知識が無かったとしても、所属する組織や、指定業者の中にはいくらでも対応出来る人材がいたはずである(1)。そういう人達に相談すれば、問題は容易に解決したであろう。その点で、被告人達の責任は無視出来ない。

(1)被告人の一人、国には(独法)土木研究所という研究機関がある。又、施工JVのメインは鹿島で、ここの技術部・技術研究所は日本のトップレベルである。こういう組織・企業の技術者集団に相談すればよかったのである。大して難しいことではない。旧建設省では、定期的に「一日土研」という現場サービスを行っていた。鹿島だって、明石市が何らかの意志を表明すれば、直ぐに対応しただろう。もし、彼等でも解決出来ないと思ったなら、それは技術者に対する大変な侮辱である。そういうことも怠っていたのなら、不作為の過失を問われても矢無を得ない。

(補足)
 陥没という現象は決して珍しいことではない。常に起こっていることなのである。従って、陥没に関する基礎的な知識さえあれば、十分に事前安全対策はとれた、と結論出来る。陥没が発生する範囲は、最大限、素因となる地下空洞から安息角(α=φ´;内部摩擦角)で延ばした線が、地表面と交わる位置までである。これを崩壊範囲と呼んでおこう。空洞の位置が判らないではないか?という意見もあるだろうが、そういうことはない。空洞が人工的なものであれば、過去の資料、或いは構造物の性格から空洞の位置は自ずから決まってくる。本件のように自然発生的なものであれば、空洞が生じ得る地山の性質には自ずから制約がある。そこに着目すればよいのである。本件護岸の場合、既存陥没地点では護岸背面の防砂材が破損し、そこから土砂が流出 し、それが陥没の原因であったことが認められている。この土砂は、公園造成のための新規埋め立て土(特に養浜砂)である。従って、この埋め立て土が陥没の素因であることが判る。従って、埋め立て土の厚さと土の安息角から、埋め立て土の最大崩壊範囲が求められる。従って、護岸背面から公園側へ、最大崩壊範囲で囲った部分が陥没発生可能地点である。実際には、土にアーチ効果が発生するので、陥没が発生するのはこれより遙かに小さい。しかし、最大崩壊範囲とは、何時陥没が発生しても不思議ではない範囲である。従って、行政としては、安全側に考え、最大崩壊範囲を立ち入り禁止区域にすればよい。
【計算例】
(土質条件)
 ○埋め立て土の厚さ      H=2.5m(大蔵海岸に於ける養浜厚さ)
 ○埋め立て土の内部摩擦角 φ´=30゜
(計算)
 ○安息角           α=φ´=30゜
 ○最大崩壊範囲      B=Hcot(α)=2.5/tan(30゜)=4.0m
(結論)
 以上より、護岸背面より4〜5m程度を目安とし、既存陥没地点の状況を勘案して、立ち入り禁止区域を設定すればよい。

 なお、裁判官は、「遺族の無念は判るが、事件後判った知見に基づいて、法の構成要件を満たすことは出来ない」旨のコメントを述べているが、一番判っていないのは、この裁判官ではなかろうか。筆者が上で挙げた事故予見可能性の検討には、事故後判った知見は一切入っていない。関係者にほんの少し、陥没とか、地盤に関する基礎知識、問題を解決しようという意欲があれば、本件事故は未然に防止し得たのである。その点を無視し、いたずらに被告人(官僚)の言い分のみを採用した原判決は、著しく公平性を欠き技術常識を無視した欠陥判決と云わざるを得ない。

 さて、被告人を有罪とするかどうかは法律論の問題です。私は法律家ではないから、その点の細かい点には興味はない。しかし、陥没が事前に予測出来たか否か、地下の状況を把握することが出来たか否か、は純粋に技術論の問題です。筆者は十分な確信を持って、可能だったと考えています。この点は譲るわけには行きません。
 まあ、こんなところですかね。なお、護岸全体を対象に陥没調査をしたところで、調査費は数100万円といったところでしょう。本件の民事和解金は8800万円。どうすれば良かったかは、一目瞭然。なお、こういう型にはまった審理しか出来ない裁判官の末路は哀れだろう。おそらく老人ボケで、家族や廻りに迷惑をかけて死んでいくのだ。なお、老人ボケを起こす人の職業では、裁判官、教師、役人が最上位を占めるらしい。逆に低いのは、芸術家、自由業、民間技術者。
 (06/07/07)


 この後、国交省のhpを見ていると、更に陥没が継続して起こっていることが、明らかになりました。陥没は2回に渉って起こっています。
 A;平成17年7月発生
 B;平成18年4月発生

 さてここで、ポイントBは突堤背面で、場所から云って、陥没メカニズムは、これまで頻繁に陥没を繰り返した南側護岸と同様のものと考えられます。つまり、この場所でもU字型防砂版が使われていた、ということです。陥没はこれまで、図右下の護岸の東南コーナー部を中心に発生してきましたが、B地点で発生したことにより、今後本人工海浜護岸全体に渉り、同様の陥没が発生することが予想されます(護岸全体に、適切な対策工が実施されておれば別です)。
 次にA地点ですが、陥没がある曲線上に一列に発生しています。こういう現象は、自然状態ではまず起こらないことです。地すべりの末端部では間隙水圧が高くなり、土砂が流動化して末端に沿って、クラックが発生することはありますが、その場合山側には。対象方向に引っ張り亀裂が発生します。どうもその様子は見られないので、地すべりでは無いでしょう。考えられることは、陥没孔(くぼみ)に沿って、その下に何らかの人工構造物(パイプ?)があり、それが破損していることです。
 国交省は、これに対し注水試験をやったらしいが、そんな悠長なことより、掘削して地下の様子を確認した方が良いでしょう。
(06/07/28)

先日、又大蔵海岸の人工海浜で陥没を起こしたらしい。前回の事故後、明石市や国交省は対策工を行ったと思いますが、果たしてどんな対策だったのでしょう。TVでは、何処かの大学教員の指導で、ローラーで再転圧をしていたようだが、表面を幾ら締め固めても、内部・・・特に地下水位以下・・・は、締め固めの影響を受けないので、全く効果はない。止水版の破損が直接原因だったとすれば、止水版を全て取り替えなければならない筈だが、果たしてそうしたのでしょうか?止水版にも問題はあると思うが、陥没の根本的の原因は、人工海浜材料の粒度分布にあると考えられます(国交省も、兵庫県も、明石市も、それをオープンにしないから、これ以上のことは云えません)。止水版は幾ら取り替えても、何れは劣化する。と言うことは、この海岸は、未来永劫に陥没と付き合わなくてはいけない、ということです。いやですねえ。嫌なものは、元から絶たなくてはダメ。と言うわけで、人工海浜の材料を、全部取り替え無ければ、陥没問題は解決しません。では、どんな材料が良いでしょうか?もの凄く高い材料でしょうか?とんでもない。建設工事から出てくる、一般建設廃棄物を材料に使えば、それで解決です。こんな汚い土を海浜に使うなんてとんでもない、と思うでしょう。もちろん、これで全てを賄えと言っている訳ではありません。概ね地下水位以下、人目に付かない処にだけ使う。その上に、見かけ上綺麗な砂を被せておけばよいのです。そうでなければ、護岸補強土工法(GEOPACK)を採用するか、です。
(06/04/18)


03,9/13朝刊を見ると北陸新幹線飯山トンネル施工現場で陥没が発生したらしい。鉄建公団も全く陥没が好きだねえ。鉄建公団のやらかした陥没で有名なモノは、今から18年程昔、丁度阪神タイガースが優勝した頃に生駒トンネル東大阪方抗口から数100m程入ったところでの陥没がある。この時も土被りは100m以上、地表に直径数10mの穴があいた。丁度住宅地直下だったので大騒ぎになった。更にこの時も坑内では負傷者は出ていない。だから、筆者はゼネコンはわざと陥没を起こして公団を脅かしたんじゃないかと疑っている。今度もそうじゃないのかあ。生駒トンネルのJVメインは大成だった。


 明石大蔵海岸での大量転倒事故から既に2年が経過しようとしています。下の文章は事故発生直後にあるメルマガに投稿したモノです。気節が巡ってきたので再録したいと思います。ここでは陥没の発生機構の解説とそれを防ぐ工法の両者を採り上げています。
 なお、読者の皆さんに注意してもらいたいことが一つあります。本事件のおおよそ3カ月前にハワイ沖で練習船「愛媛丸」が沈没するという事故がありました。時の日本国総理大臣はゴルフをしていましたが、報告を聞くとすぐに東京にとって返しました。但しその時の服装がゴルフウェアであったため、正装に着替えたので対策本部に着くのが数時間遅れました。ところがこの僅か数時間のロスをマスコミに咎められ遂に退陣に至りました。
 明石の事故は死傷者の数、悲惨さからいえば愛媛丸事件に劣らない、あるいはそれ以上の事故です。しかし、時の日本国総理大臣は箱根で息子とキャッチボールに興じるのみで、ワタクシの記憶では犠牲者に哀悼の言葉の一つもありませんでした。彼の特徴・・無関心と丸投げ・・はこの頃から始まっていたのです。それに対してマスコミは何も言っていません。要するに、コイズミなら日本国民がいくら犠牲になっても構わないということなのでしょう


陥没について       技術士(応用理学)横井和夫】
 年末、明石市大蔵海岸で陥没が発生し、人身事故に至っています。私は昨年、ある裁判の鑑定人をやった経験から云うと、法的にはただごとでは済みません。それは別にして、「陥没」というテーマは個人的には結構好きなので、これまでも幾つかの陥没原因調査をやったことがあります。
 現在、事故調査委員会を作って原因究明をしているようですが、陥没の原因は割合単純なものが多く、特に今回は単純なものです。委員会を作ってやる程度の物ではありません。私一人で片づけられます。最大の原因は、明石市や兵庫県の役人に陥没についての知識が足りなかったことでしょう。
 陥没は、地盤の破壊現象の一つです。これが発生するためには、素因になる空洞が必要になります。これを「原初空洞」とでも呼んでおきましょう。原初空洞の大きさは陥没が発生するかどうかには関係ありません。何故なら、これは一旦出来ると時間とともに成長するからです。原初空洞の形成は人工的、自然原因等様々なものがあり、一概にこれだと云えません。
 明石に話しを戻しましょう。明石大蔵海岸では単純に云えば、5×7.5m位のケーソンを横に並べ、その背面に公園盛土を行ったような形です。基礎地盤がどのようなものはかは顕かではありませんが、場所柄からいって海岸砂州で形成された沖積砂地盤と考えられます。又、公園盛土も雑多な土ではなく、粒径の揃った綺麗な砂でしょう。基礎地盤が沖積の砂であれば、幾らケーソンの継ぎ目を防水材で覆っても水は底面を通って公園内に入ります。その水位は概ね満潮位と考えて良いでしょう。一方、海には干満がありますから、公園内の水位と、海の水位との間に水位差が生じます。


 この水位差によって、盛土内や基礎地盤の中に流速が生じます。これがある一定値を超えると土粒子の流動が発生します。
 限界流速の算定法には(1) テルツアギー(2) ジャステイン(3) ソコロワ (4)中電式 などがありますが、計算式によって算定値は倍半分どころかオーダーで違ってきます。一般には、テルツアギー式が最も安全側の値を与えるとされていますが、ジャステインもよく使われます。
 特に、これは粒子の直径が揃っている、いわゆる見た目に綺麗な砂に著しい現象です。この結果、基礎地盤か盛土の背面に空隙を生じます。これが「原初空洞」になります。
 海岸公園だから、おそらく充分な締め固めを行っていないだろう*し、第一このような粒子の揃った砂は締め固めも出来ません。
* この理由は主に会計検査と護岸の設計条件という制約のためです。護岸背面の土の密度を大きくしようとすると、背面を大きなエネルギーで締め固める必要があります。 ケーソン護岸の場合、背面を転圧するとどうしてもケーソンが海側に変位するので、法線が揃わなくなり、会計検査で具合が悪くなります。 矢板護岸でも同様で、転圧によって矢板が海側に変位するから、矢板には設計以上の断面力が発生することになるので、これも具合が悪い。 そのため、裏込め土の設計強度は転圧しなくてもよいような低い値を採用するわけです。つまり、施工では特に転圧しなくても良いようになっています。これは構造物の安定にとっては安全側の仮定になるので問題は無いのですが、地震時の液状化や今回の陥没のような原因を孕むことになります。
 つまり、ケーソン背面は゛ゆる詰め゛の状態だったと考えられます。更に盛土材にこのような材料をわざわざ、高い金を出して買ってきた可能性は否定出来ません。以上が第一段階です。
2)第2段階
 一旦原初空洞が出来ると、その周囲に緩み域が形成されます。緩み域の砂が落下すると、その周囲に更に緩み域が形成されます。こういう現象が次々と繰り返され、粘着性の無い砂の場合は、崩壊は最終的には崩壊角が砂の安息角に達するまで継続します。


以上の説明では、陥没した部分は地表面ではものすごく大きく広がることになります。しかし、TV映像で見るように実際の陥没の穴は極く小さいものです。
 私がこれまで調査してきた陥没事例では陥没孔は殆ど例外無く、口元が小さく奥に広がる徳利状の形をしています。


 つまり、陥没というのは地表面に空いた穴は小さくても奥で大きく口をあけていることが多いことに注意すべきです。では何故こういう現象が起きるのでしょうか。地下水位の上でも地盤は幾らかは水分を含んでいます。水分に含まれるイオンを通して土粒子の間に電気間力が働き、これが一時的に土粒子の移動や転移を妨害します。又、水分中の空気がクッションの役割を果たすのでこれも土粒子の移動・転移を妨害します。しかし、これは飽くまで一時的なものです。一旦雨で地盤が飽和するとこれらは簡単に力をなくすので、崩壊が継続するようになります。
 このように、陥没というのは、我々が見ることの出来ない地下での空洞の成長によって引き起こされるものなのです。原初空洞が出来て、地表面が陥没するまでの時間には大変な差があります。緩い砂では一瞬に発生することもあるし、硬い地盤では数10年かそれ以上を要することもあります。最近、大阪府や東京都下で旧大戦中に掘削された軍用トンネルが陥没を起こしています。これらは掘削後半世紀以上経っています。これはこれらの地盤が洪積世の関東ロームや大阪層群といった比較的硬い地層で出来ているからです。逆に、原初空洞を何らかの方法で強化してやれば、陥没に至る時間を遅らせることが出来ます。これが、現在日本のトンネルの標準工法になっているNATM(ナトム)工法の理論的背景です。
 では、明石大蔵海岸のような陥没事故は防げないのでしょうか。「防げます」。それどころか、私の考案した方法を使えば、陥没に対して安全であるばかりでなく、従来のケーソンや矢板護岸形式よりやすく出来ます。
 又、陥没を調査する方法はないのでしょうか。「あります」。しかし、原初空洞を作る原因は様々だし、空洞周辺の地盤も様々です。だから、一つの方法では出来ません。又、問題によっては手の打ちようがないケースもあります。周辺に地形・地質条件をよく睨んで最適の方法を選ぶことが大事です。
興味のある方は下記までご一報下さい。
          有限会社  横井調査設計
          TEL 0726-71-7212
          FAX 0726-71-7238
          e-Mail yokoigx@bh.wakwak.com
 やはり大蔵゛海岸という名前が良くなかったと思います。これでは陥没を起こす。名前を変えるべきです。゛財務゛海岸だったらどうでしょうか。これもいずれ陥没を起こしそうな気がします。では、゛抵抗勢力゛海岸だったらどうか。地盤沈下を起こすでしょう。思い切って゛小泉゛海岸ならどうだ。陥没どころか公園全体が沈没するでしょう。やはり、今の時代゛イチローか松井゛海岸しかない。
                                            終わり


新型補強土護岸工法(GEOBACK工法)
 平成13年暮れ、明石市大蔵海岸で護岸背面が陥没を起こし、幼児が落下し意識不明になるという惨事が発生しました。阪神大震災でも埋め立て地では護岸背面に液状化が集中するという現象が発生しています。これらは何れも、現在の護岸築造法の泣き所をついた事故です。本工法は従来の港湾護岸と補強土とを組み合わせ、このような惨事を未然に防ぐための新しい護岸形式を提案するものです。
 (基本パターン)ケーソン護岸の場合について例示します。


1、工法の概要
1) 補強材の中に透水防砂材シートを巻き、その中に中詰め材を詰めます。工法としてはこれだけです。
2) 基礎地盤が透水性の良い砂地盤で基礎を通る浸透水によりパイピングのおそれがあるときは、基礎に不透水性ジオメンブレンを敷設するか、止水矢板を打設して浸透路長を大きくします。
3) 基礎地盤が粘性土であったり、パイピングのおそれが無い場合は必要ありません。
4) 水深が浅い場合は、止水矢板を打設し、排水した後、現地で組み立てます。
5) 水深が大きく、排水工が大規模になる場合は、陸上で補強土ユニットを組み立て、施工場所に沈設します。

2、工法の特徴
1) 中詰め材を透水防砂材で囲むため、浸透水による土砂流出のおそれはありません。
2) 全体を補強材で囲むため、変形が拘束され、護岸構造物に対する土圧が軽減されます。構造物断面を縮小することが出来ます。


3) 補強材は可撓性で且つ、衝撃に対する緩衝材になります。従って、背面盛土を大きなエネルギーで締め固めても護岸に影響を与えることはありません。護岸背面の締め固め不足が解消出来、液状化に強い盛土を作ることが出来ます。
4) 軟弱地盤の場合でも、補強土ユニットを適当に分割すれば、段階盛土に対応出来ます。
5) 中詰め材に砂を用いれば、周囲を透水防砂材で梱包しているだけなので、透水性は保障できます。SD工法との併用は可能です。

3、主な用途
1) 港湾構造物
2) 人工海浜、海岸護岸
3) 堤防等河川構造物
その他、土と水が直接接触する部分での構造物防護、防災。 


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