調布市の陥没

技術士(応用理学) 横井和夫


 NEXCO東日本がとうとう調布市陥没事故の原因に「外環シールド工事がある」と認めました。しかしその理由の一つに「緩みやすい特殊な地層があって」とあるのが気に入らない。かつての博多駅前陥没事故でもそうだが、こういう事故が起こると土木屋は大抵、現地の地盤が予想外で・・・云々で誤魔化す、あるいは地盤や地下水という自然現象に責任を転嫁する。何故なら地盤や地下水に手錠はかけられない、だからみんな無罪放免メデタシメデタシだからだ。
 実はそんなことはない。博多駅前を例にとれば、福岡の地盤は岩盤の起伏が激しく地質も変化しやすい。また、谷を埋める砂もルーズで液状化しやすい程度のことは、少し福岡地盤に携わったことがあるなら常識だ。筆者などたった一月の出張でそのポイントは掴めた。その経験から云えば、あの箇所は接続立て坑もしくは凍結などの補助工法を併用すべきだった。福岡の土木屋や九州の学者は何をしていたのかね?無知・無能の極みとしか言いようがない。今回の調布事故でも同じで、気泡泥水で緩むような特殊な地盤など聞いたことがない。もしあるとすれば、それは調布市だけでなく東京都あるいは関東平野全体にも分布するはずである。
 NEXCOの説明どおりなら、どういう現象が起こるかを考えてみる。シールドのテールパッキンが効いていれば切り刃は非排水状態である。そこに泥水で加圧すると切り刃の水圧は一時的に高くなる。ある種の土質・・・粒径の揃った過圧密度の小さい砂質土であれば・・・これが限界を超えると液状化を生じ、地盤を緩める。この種の地盤は当然ながら地震時に液状化を生じやすい。このことは、こういう地盤が東京都下にあることを意味するので、東京都防災計画にも影響する。東京都は直ちにNEXCO東が発見した特殊な地盤の分布を調査すべきである。
 NEXCOの言い訳を敷衍するとこうなってしまう。はっきり言って筆者自身こんな馬鹿げたことをいいたくはない。液状化しやすい地盤は東京湾沿岸地域にはいくらでも存在するが、内陸の洪積台地下に存在することは非常に珍しい、というより理論上もあり得ない。つまりNEXCOはあり得ない現象をねつ造して事故の顛末を曖昧にしようとしているのである。
 事故の原因はずばり施工の問題である。但し工法が間違いなのか、施工法に問題があったのかは別。筆者が疑っているのはコロナ対策の影響である。1月からはじまった新型コロナ感染で、2月下旬頃か、大手ゼネコンを中心に施工現場の一時全面停止が始まった。本工事のプライムコントラクターのカジマが最初だった。当然この工事も停止に追い込まれる。ところで、シールドだけでなくトンネルの施工は切り刃を休めず連続施工するのが原則である。一旦長期停止すると、切り刃だけでなく周囲の地山も緩んでしまって後で厄介なことになる。
 調布市で近隣に被害が出だしたのがその頃である。今のトンネル工事は坑内で作業しているのはほんの数人で、全く密状態ではなく、換気も十分だから、明かりと同様に扱う必要はない。現場よりカジマの本社とかNEXCOが過剰に反応したのが原因ではないか?素人はこれだから困る。
(20/12/19)

 調布市陥没箇所から東へ約30mの地点で新たな陥没発生という報道。この値はある程度予測可能な数字である。トンネルの土被りを40m、トンネル外径を16mとする。地盤の内部摩擦角θを平均30度とすると主働崩壊角はθ=(45゜+Φ/2)=60゜となる。これが地表に達するとするとその位置は約40m.。これとトンネル外周との接線が辷り線になる。地表から5m程関東ローム層があると、その部分は垂直になるので、トンネルから30m付近に引っ張り亀裂が発生し、それが陥没に発生したと考えれば不思議ではない。これは短期的な現象で長期的に地盤の安息角30゜に収束するとすれば辷り線が地表と交差するのはトンネルから70~80m。つまりトンネルセンターから左右70~80mの範囲は何らかの変状(沈下Ý亀裂)が生じてもおかしくない。以後十分気を付けて下さい。
 陥没・・・地すべりも・・・とは地下に何らかに欠損が生じて地盤内応力のバランスが崩れた時、それを回復するプロセスの一形態である。一旦陥没が発生すると、地盤内応力が平衡するまで地盤内の崩壊は継続する。NEXCOや東京都やらが有識者会議を作ってあれこれ議論している間も陥没はつづいている。
 これは今の新型コロナウイルス感染にも共通するテレビ討論会で政府与党関係者がゲストで出るとき、色々注文が付く。その時の決まり文句が「今政府でもこの件につき検討を始める予定です」だ。予定している間にもウイルス感染は広がっている。その想像力が決定的に欠けている。
 調布市事故の場合、事業者や行政がまずやらなくてはならないのは、事故発生地点付近の地盤の変状・変位の調査・観測である。その範囲は概ね筆者が示している。その結果で影響範囲を特定し、変状の状況に応じて、緊急避難を含む対策をかんがえる。
 コロナ感染問題でも同じで、クラスターが発生したと考えられたら、周辺地域のPCR検査を徹底的に行う。それによって感染源を特定し対策を講じるのである。それを漫然と・・・本人はそうじゃないというだろうが・・・本日新規感染者がこれだけ発生しました、大勢集まってどんちゃん騒ぎをするのは止めてください、と云っておるだけでは何時まで経ってもこの騒ぎは収まらない。大阪は最早コロナ対策を超えて、知事・市長を交代させるべきである。但し維新にはそれに見合う人材がいない。
(20/12/11)

 調布市つつじが丘で再び地下に空洞が見つかった。深さは約4mで、幅長さとも前回のそれと大きくは変わらない。さてどうして見つかったかというとボーリングでだ、という話。しかしボーリング単独では空洞の位置は分かっても大きさまでは分からない。どうやって見つけたのか?おそらくこんなことだろうと思う。①まず地下レーダーか表面波探査であたりを付けておく。地下レーダーなら数mオーダー、表面波探査なら地下10数m位の情報は採れる。②ここで異常が見られた箇所にボーリングをやる。これなら空洞の有無あ大きさを推定することは可能だ。
 問題は空洞の下の地盤がどうなっているかだ。この情報が一向に公開されないので筆者も結論が出せない。ボーリングデータを全部公開してもらいたいものだ。
(20/11/22)

 今から30年以上前、大阪市住吉区の一角で突如陥没が起こった。そこは大阪市洪水対策の一環で、平野川幹線築造にともなうシールド工事地点。地下河川だから断面も15m位、施工深度も既存の地下鉄や何やかやを考えれば40m位になる。丁度今回の調布市NEXCOトンネルと同じぐらいだ。この事故マスコミには一切出なかった。大阪市やゼネコンがマスコミを抑え込んでしまったのだろう。では原因は何かということになる。実はゼネコンが某権威に頼み込んで、陥没地点に断層があったことにしてしまったのだ。
 筆者の見方は別で、丁度事故発生時期直前は正月休みで作業員がみな帰省してしまった。そこでやむなく作業を停止したが、その間に切り刃の地山が緩んでしまった。そこへいきなり水圧を加えたものだから逸泥を生じ、切り刃の土砂崩壊が続いて陥没してしまったのだ。今年は春からのコロナ騒ぎで、全国の主な工事現場はみな止まってしまった。調布のトンネル工事も同様長期間停止しただろう。その間にトンネル周辺地山が緩んでしまった可能性がある。
 さて調布の事故も断層の所為に出来るでしょうか?もしあったとすると、トンネルルートは断層に一致していたことになる。実は山岳トンネルの場合ではこういうことはよくある。それは地形的に断層は直線状の地形を作りやすいから、ルート計画でも都合がよいからである。しかし平野ではなかなかこういうことは起こらない。何故なら平野が形成されてからの時間はせいぜい数万年に過ぎない.。ということは断層が活動しても、それが平野の地形に及ぼす影響は僅かで、みんなそういうものに気を使わないからである。従って調布市のような関東平野の一画で、断層と道路計画が一致することがあれば、それはものすごい偶然である。立証は簡単ではない。
(20/11/10)

 調布市つつじが丘陥没事件で、とうとうNEXCOは有識者会議を設置。しかし本当にこれ陥没に関する有識者でしょうか?なんとなくNEXCO に責任なし、原因不明で終わらせるための会議の様に感じられます。
 それはともかく、陥没が生じるには地下に何らかの空洞がなくてはならない。空洞には色々あって、鍾乳洞の様に自然に出来るものもあるが、これは石灰岩という岩石にのみ出来る。調布は石灰岩地帯ではないからこれなない。古い下水道管など地下埋設物が原因になることは多いが、それなら行政が把握しているはずで、原因不明ということはあり得ない。そこで現在の高速道路工事が犯人扱いされるのである。
 そこで少しNEXCOの肩を持って別の原因を考えてみよう。ポイントは「調布」という場所である。調布にはかつて陸軍飛行場があった。この手の軍事施設の場合、大戦末期に軍用のトンネルが掘られていた。この種のトンネルは爆撃のショックを避けるため地下20m位に掘られることが多い。しかし戦後の宅地開発で地表部が掘削され土被りが小さくなる(極端には数mというケースもある)。そういう場合、空洞が拡大して陥没を発生する。空洞の位置が本当に地下数m程度なら、その可能性も考えられる。しかしこれでも行政(東京都)はトンネルがあるかどうかは把握していたはずである。当然それはNEXCO に伝えられていたはずで誰も分からない、ということは考えられない。又、陥没箇所・空洞とトンネルルートが極めて一致していることから、トンネル工事とは無関係と主張するのは難しいだろう。

20/11/09)

 なかなか決まらないアメリカ大統領選、なかなか真相を吐かない菅学術会議問題、そしてなかなか本当のことが明らかにならない調布市陥没事件。本日NEXCO東が会見を開き、新たに見つかった空洞の上には固い粘土層がありこれは地上三階建てのビルを支えられる強度を持っているから大丈夫と説明。これは嘘です。三階建てのビルを建てるぐらいなら大した支持力は必要ではない。せいぜい数t/㎡ある場合,N値も3~4もあればよい。しかしこれも地盤が地下に半無限状態に連続している場合で支持層直下に空洞があれば別だ。NEXCOは空洞は成長するものだ、ということを知らないらしい。
 空洞が成長する速さは一律ではないが、一般には硬い地盤ほど遅く、軟弱地盤ほど早いという傾向はある。大阪府高槻市北部丘陵には戦時中に掘られた旧陸軍のトンネルがある。この丘陵は下部最新世大阪層群と呼ばれる地層で、今から数10万年前に堆積した砂、粘土の互層。ここで昭和30年代に大規模開発が行なわれた。実は大阪府も地下にトンネルがあることは知っていた。ところが技術指導に当たった某阪大助教授が、「上にブルドーザーが走ってもなんともないから大丈夫やろ」といい加減なことを言ったものだから、大阪府はそのまま宅地として販売した。そして20~30年後、あちこちで陥没が起こって大騒ぎ。
 調布市の粘土というのは何者か?調布市は武蔵野台地と呼ばれる洪積台地が広がっている。この台地の下には武蔵野ロームなどの所謂関東ローム層と呼ばれる火山灰質土が広く分布する。NEXCOの云う粘土層とはこのローム層ではないか?これは確かに三階建てぐらいなら十分な支持力はもっているがそれは一時的なものである。所詮火山灰が固まったものだから土の構造は脆弱で簡単に潰れてしまう。空洞が成長拡大すれば知らない内に地盤がなくなってしまうのだ。強度や支持力云々の話ではない。問題はこの空洞の中にあった土が何処へ行ったかだ。
(20/11/07)

 調布市つつじが丘町で新たに見つかった空洞箇所。ズバリこの原因は直接的には、トンネル裏込め材の流出です。問題はそれを作った要因です。緩み範囲は既に相当広範囲に及んでいると考えられます。但し地下の空洞をどうやって見つけたのでしょうか?それが興味ある。物理探査法では結構難しい問題。
 シールドトンネルは、先端の掘削体の外径とそれに接続するトンネル本体径(セグメント外径)とは異なる。後者は前者より10数㎝程小さい。つまりトンネル本体と地盤との間には10数㎝程の隙間が空く。これを埋めるために裏込め注入というのをやるが、それが上手くいかないことがある*。その結果、隙間が地山の緩み域に、更には空洞に成長し、陥没を起こす。ま、そんなところではないかと思う。
*その理由は色々ある。実態は上手くいく方が珍しいのだが。裏込め材流失防止には2~30m毎に隔壁を設け、圧力ゲージをセグメントに取り付け、圧力を見ながら注入せなあかん、と昔々大林組のトンネル屋に教わったことがある。
(20/11/05)

 昨日いきなりフジテレビの「めざましテレビ」というのから電話が懸かってきて、何事かと思えば、東京調布市で生じた陥没事故に関し意見を聞きたい、というのでしばし応対。やや説明不足の点もあったので、本日朝不足点をメールしておきました。ここで改めてこの事故に関する所見をまとめておきます。
 事故の顛末は既に報道されているのでポイントだけまとめると
1、事故地点は調布市内の住宅地で、幅5mの市道に幅5m程の陥没が発生した。
2、事故地点の40m地下ではNEXCO東が高速道路用のトンネルを掘っていた。
3、フジによると現場では数時前から何らかの異変(前兆現象)があったらしい*1。
 この手の事故は過去何度も起きており珍しくはない。施工があまりにもお粗末で下手過ぎるということ。ズバリ言えば話にならない、擁護もできない。何故か?
1、地盤について;事故発生地点の地盤は地下水が豊富な砂地盤*2と考えられる・・・そうでなければ陥没は生じない。高速道路だから最低でも断面は10数mはある。こういう地盤に大断面トンネルを施工するには何らかの補助工法の併用が必要だが、それを無視している。
2、工法について;工法はシールドだ。これは深さ(大深度法のギリギリ)と地表条件(密集した住宅地)から見て、これ以外に選択肢はない。但しシールドでも色々あって、採用した工法が地盤に合っているかどうかは別。
 採用した工法が地盤に合わなかったり、坑内のトラブル・・・例えば電源が落ちてポンプが停止するなど・・・で排泥システムが損なわれると、地盤の緩みが発生する。地盤が緩むと地下水流動が加速され、さらに緩みが広がり、最終的に陥没を起こす。
3、問題点と対策;地盤の緩みは時間をおけば置くほど拡大する。深さを考えると最終的には影響範囲は150~200mに達すると予想される。要は、そうならない内に緩みの拡大を防ぐことである。
 対策としてはとりあえず地上と坑内からウレタンを注入して地下水の流動を抑える。地下水流動が止まれば地盤の緩みも抑えられる。その間に次の対策を考える。対策としては「凍結工法」などが考えられるが、何を使うにしても難しい。
 多分現場はパニック状態なので、最も避けなくてはならないのは、国交省の役人とか政治家が余計な口出しをして混乱に輪を掛けることである。落ち着いて頭を冷やして考えること。その時の必須アイテムは正確な地質情報である。周辺地域に入念な地質調査を行い、事故地点及び前方の正確な地質断面図を作成し、それと相談すること。頭の悪い土木屋同士が幾ら相談しても拉致は開かない。
*1;ある報道によると現地では今年2月頃から、異常な振動や音が発生し、住民から苦情が出ていたらしい。深さ40数mのシールド工事で、地上までそんな騒音・振動が発生するとは普通は考え難い。大抵は全く気が付かない内に通り過ぎるものである。原因としては掘削地盤の土質が硬質岩塊を不均質に含む砂礫層でシールド本体が振動を起こしたり、切り刃で崩壊が既に始まっていたというような現象が考えられる。
*2このような地盤が偶然に現れるというのは考えにくい。例えば洪積層中に「化石谷」があって、そこに地下水が滞留していた可能性も考えられる。このモデルの方が今回の陥没事故を上手く説明できる。谷の幅を何らかの方法で決められれば、対策工でも、・・・工法は別にして・・・その所要区間長を決められるので話が早くなる。
(20/10/20)