R01年 いわき市崩壊事故

技術士(応用理学) 横井和夫


 この崩壊はどうやら戦時中の防空壕が犯人らしいようですが、いわき市にはもう一つ注意しなくてはならない穴があります。それは常磐炭田の廃坑です。これも陥没の素因になります。多分この崩壊地点と常磐炭田の地質は共通しているでしょう。
 昔々あるコンサルにいたころ、道路公団から常磐道の工事で常磐炭田廃坑調査の話が飛び込んできた。物探で廃坑位置が分からないかという話である。そんなもの分かるわけがないと思ったからワタクシは知らん顔をしていた。
 ところがそこへ設計屋が飛び込んできて「常磐炭田の高架橋設計だが、今道路公団の打ち合わせに行ってきた。下に穴が開いているって話じゃないか、そんなおっかないところで設計出来ない。何とかしてくれ」。こんな話はワタクシも経験がないからどうしてよいか突然には分からない。そこで公団がやったボーリング柱状図を見ると、上部は泥岩が続いているが30m程下に礫岩があるので、殆どハッタリで「ここまで深礎を下せ」といったら、設計屋は「分かった」と云って終わり。常磐道高架橋は深礎基礎で支えられることになったのである。
 さてこの件はとりあえずのハッタリだったが、後からよく考えると地質学的にも十分根拠がある。それは何かよく考えて下さい。この原理が分かると、仙台の様に戦時中に亜炭を掘りまくって穴だらけになった街の防災や、建設計画にも役に立つ。
(19/08/30)

 三日前の8/24福島県いわき市で生じた崖崩れ。原因は最初地震による・・・常磐沖でもしょっちゅう地震が起きている・・・地盤の損傷かと思っていたが、必ずしも原因はそれだけではないようだ。某報道によればこの山の下には戦時中の防空壕があり、地下は穴だらけらしい。ということは、この事故は崩壊というより陥没と云った方が良いかもしれない。
 防空壕の掘削でその周辺には緩み域が発生する。時間とともに緩みが進むと落盤が発生し空洞は拡大する。その結果更に緩み域は拡大する。つまり空洞は成長するのである。十分成長したところに地震・・・・特にスロー地震や通常地震でも低周波成分・・・や交通振動,、海の近くでは波の振動のような衝撃が加われば、緩み域の地山の力学的バランスが崩れ崩壊(陥没)する。
 過去の空洞陥没事例に比べれば、本件は特に大きいとは言えない。大阪高槻地下倉庫跡では直径20m近い陥没も起きている。なお我が国にはまだまだ旧大戦中に掘られた未発見の防空壕や軍用トンネルが残っています。これらはみな既に危険レベルに達しています。今後この種の事故は増えても亡くなることはないでしょう。
(19/08/27)