14年広島安佐北区豪雨災害

横井技術士事務所
技術士(応用理学) 横井和夫


 広島県が今回の災害を基に土砂災害警戒基準の見直しを国に求めるらしい。どの点かというと、崩壊土砂のエネルギーと、それが構造物に与える力の算定式のことらしい。具体的にどのような式か、私もそういう小さいことは最近は関与していないのでよく判らないが、一般にはこういう式は、基本的には(1)現象を記述する骨格部分と、(2)それを補完するパラメーター部分に分けられる。
 (1)は基本的には物理法則に基づくものであって、簡単には変えられない。(2)は理論的に導かれるものもあるが、土木では過去の観測・計測によって決定されるものが多い。河川や砂防などでは地域性が大きく、日本全国一律というわけには行かない。そこで地域によって採用できる地域裁量権も認められている。
 その程度は広島県でも判っているはずだから、今回の問題提起は(1)を意味することは容易に想像できる。何故そんなことをしたのか?例えば災害原因が(2)によるものならその責任は広島県にくる。これではとてもじゃないが会計検査には耐えられない。せっかく激甚指定まで行ったのに、何にもならない。そこで思いついたのが、責任を国の基準にすりかえることである。いかにも広島の木っ端役人が考えそうなことだ。
 しかしこれは単に一広島県だけの問題に留まらず、他府県の砂防計画にも影響する。ということでこの問題、国からは取り上げてもらえず、広島県の一人相撲に終わる可能性大。ワタクシに言わせれば、単に広島県がヘタクソで、自分勝手なことをやっただけ。
 今回の災害の根本問題は、警戒基準式といった枝葉末節の問題ではなく、広島県の砂防計画・都市計画の杜撰さである。自分のミスを棚に上げ、責任を他に押し付けるのはヤクザのイチャモンと同じ。いかにも広島らしい。この体質を改めない限り、広島県はまた同じ失敗を繰り返すだろう。
(14/09/12)

 本日は「防災の日」。メデイアや政府筋から漏れ聞こえるのは「自分の命は自分で守ろう」というフレーズ。何となく戦時中の「欲しがりません勝つまでは」というナンセンスフレーズの様に聞こえてしまう。
 市民が自分の命を守るには、市民一人一人が災害の性質を理解し、それを避ける手法を身につけることが必要である。しかしそれだけではダメで、手法を実現出来るインフラが必要である。インフラには情報というソフトと避難経路や避難地といったハードの整備が必要である。そして何よりも必要なことは、災害環境に対する教育の普及である。さて果たして今の日本でこれが十分満足しているでしょうか?市民どころ か、肝心の学校や行政・政治家自身がどうも理解出来ていないようにしか見えない。その典型が今回の「広島水害」である。アベは今日「政府は国民一人一人の命を最期迄守る」と大見得を斬ったが、そう云った本人が、箱根でゴルフで遊んでいたのだ。
8月下旬の日本列島気象状況は、北部に前線が停滞し、低気圧が通過するなど10数年前の山陰水害とそっくり、列島各地でゲリラ豪雨に見舞われている。何時何処で突発災害が起こっても不思議ではない状況だった。それを考えると、総理は常に待機状態でなくてはならない。ゴルフどころではないだろう。
 「広島水害」で土砂災害防止法の欠陥が指摘されているが、これだって当初は警戒区域の一方的指定が可能だった筈である。それが不動産業界とか、それに連なる議員達が骨抜きにしてしまったのである。同法改正も新政権の視野に入っているようだが、本気で改正するなら法案作成は技術サイドに一任し、政治家の干渉を禁止すべきである。
(14/09/01)


 図-7は広島市安佐南区八木に押し寄せた土石流の一部です。土石流を作った岩石の性質を見てみましょう。図で@としたのは花崗岩、Aは流紋岩やヒン岩などの貫入岩*、Bは玖珂層群の岩石です。これらは被災地後背山地に普遍的に存在する岩石です。

(*「高野和郎邸」の看板の下の一番下の岩石は、拡大すると何らかの構造を持っている様で、B玖珂層群の可能性があります。)


図-7

 礫の径は平均で30〜50p程度、かなり大きい。しかし概ね礫の角は取れ、丸みを帯びている。これはどういう事でしょうか?礫径が大きいと言うことは、これらの礫が本流の中下流域で形成されたものではないということです。又礫が丸みを帯びると言うことは、これらの礫が今回の洪水で地山から矧がされて形成されたものではなく、過去に何回かこの様な洪水を経験していることを意味しています。これらの点から、これらの礫は太田川本流の更に上流域、或いは支流で既に形成されていた土石流堆の一部が崩壊したものと考えられます。要するに、土石流の始まりは、ずっと遠いところから始まっていると云うことです。将来の土石流対策は、今の被災地ではなく、その地点から始めなくてはならない、ということです。判りますかダニエル君。
(14/08/31)


 図-4は産総研「活断層カタログ」にシームレス日本地質図を重ねたものです。図でピンクは「広島花崗岩」。中央上を左上から右下に延びる黄緑色の帯は、ジュラ系玖珂層群。非変成の泥岩・砂岩チャート、同起源のオリストストロームを主とする堆積岩。両者の関係は主に貫入です。図の中央上の赤線が「上根活断層セグメント」、その下が「已斐ー広島西縁活断層セグメント」。図-1と比較してみます。図-4では両セグメントの間の突出部に、空白区間を設けています。一方図-1ではこの突出部の左右にリニアメントを引いています。この区間のリニアメントは、その前後に比べ不鮮明であるのは確かだが、やっぱり見えるのである。

図-4

 図-5は安佐南区八木の被災地の一部です(毎日新聞)。この位置は上述の突出部に当たり、図-4では断層が引かれていない地域です。図-5の右はまともな(と言ってもCM級の)花崗岩。図の中央に直線状に谷が入っています。渓流基礎地盤が全体に右のようなまともな花崗岩なら、こんな直線状にえぐれた谷は出来ません。何らかの弱線が入っていると考えるべきです。なお、左河岸の土石流堆積物の下に、黒褐色部が見えます。これが一体何でしょうか?図-6は主な被災地の分布です。太田川右岸山麓に沿って直線状に並んでいることが注目されます。

図-5 図-6

 別に活断層が死者を作ったとは云わないが、今回の土石流被害と地質構造を重ねると、断層に伴う岩盤の破砕帯が土石流発生域、被害域と密接に関係があることが判ります。そしてこれは今回が初めてでは無く、兵庫県六甲山系で過去繰り返された山地災害と、全くパターンは同じです。つまり、日本の土木は、過去の経験を何も生かしてこなかった、という例証です。

 なお広島だけでなく、山口・岡山など中国筋には、土木系役人はいても土木技術者がいない。木っ端役人が永年に渉って、議員や業者(やヤクザ)とつるんで勝手なことをしてきたツケが今回の災害です。従って14年広島災害はお粗末人災として記憶されるべきでしょう。
(14/08/29)


1、始めに 
 一昨夜来広島市北部では、かつて無い豪雨に見舞われました。その結果、各所で斜面崩壊や土石流災害が生じた。死者は今のところ39人ですが行方不明者を合わせると、もっと増えるでしょう。このとき総理大臣のアベ晋三は別荘でゴルフ三昧。役所から一報が入ると、「現状の確認と被災者救助に万全を期せ」と型通りの指示を出しただけで、又ゴルフに舞い戻り*。ゴルフ病かもしれない。アベの指示など、国交省の役人がこさえた何時も通りの作文。コピペ総理の面目躍如だ。なにせ成蹊裏口入学だから、自分独自の文章を作る能力が無いのだろう。

*アベの師匠のコイズミ純一郎が、明石歩道橋事故にも拘わらず、箱根の別荘で息子(進次郎か?)とキャッチボールをしていたのを思い出します。そしてこのときもマスコミはこれを全く採り上げなかった。師匠が師匠なら、弟子も弟子。

2、被災地の地形
 図-1は08/19〜20の豪雨で被害が出た広島市安佐北区の被災地区の空中写真です(毎日新聞)。マスコミでは今回の災害を、豪雨とマサ土の所為にしたがるが、それだけではありません。図の破線(リニアメント)A、Bの間は顕著な地形変換点です。斜面崩壊はこの間で起こっています。これは花崗岩中の破砕帯です。

 まず地形的な特徴を見てみましょう。
1)リニアメントAの右上では斜面勾配がやや急になっています.。写真右上に二股の谷が入っています。この上流はかなり急斜面になるので、地山はまともな花崗岩と言ってよいでしょう。その下から破線(A)までの間は、地山岩盤はそれほど良いとは云えません。
2)リニアメントAとBとの間では、なだらかな斜面が続いています。この斜面は一体何でしょうか?河岸段丘とも考えられますが、その割りには地形が平坦ではない。背後の山地斜面の崩壊土砂が堆積した崖錘斜面とも考えられます。しかしこれまでの報道映像では、崖錘を彷彿させる証拠はない。専門家と称する皆さん、マサ土、マサ土のオンパレードです。
 本当にこの斜面の土質がマサ土であれば、これは新鮮な花崗岩体ではあり得ません。しかもそれがある幅を持って直線状に分布することから、破砕帯と見るべきです。そして重要な事は、今回の土砂災害を引き起こした渓流崩壊は、このゾーンの中で発生しているのです。
(リニアメントA);これは地形変換点の連続が根拠になりますが、それ以外に、幾つかの渓流(例えば写真右下の崩壊渓流)に僅かだがオフセットの傾向が見られることです。オフセットのセンスは左ズレ。
(リニアメントB);これは住宅地内に点々と残る分離小丘の連続です。これにもオフセットの傾向が見られます。
3)リニアメントBの下は現在の住宅地です。古い造成地と考えられます。固い岩盤を無理矢理開削して宅地を造成したとは考えられないので、沖積平野か2)の延長の破砕帯と考えられます。



図-1

 図-2は以上から想定した、当地区の地盤断面図です。


図-2

1)平坦地;現在の住宅地。地下には若干の沖積堆積層があるかも知れないが、大した量ではない。基盤は花崗岩であるが、全体として破砕・変質している可能性が大。
2)緩斜面;花崗岩の破砕帯と考えられます。地山の花崗岩は圧砕され、細粒化が進みます(ウルトラカタクラサイト化)。熱水変質の可能性も考えられます。今回の災害はこのゾーンから発生している点に注目。
3)準山地;2)より斜面勾配がきつくなっているゾーンです。地山の花崗岩は割れ目が発達し、割れ目に沿って酸化・変質が進む。所謂カタクラサイト化ゾーンです。
4)山地;花崗岩中の割れ目間隔は大きくなり、場所によっては密着する。地下深部ではフレッシュな花崗岩に移行する。
5)リニアメント;ここでは断定はしませんが、筆者はこれらは断層の可能性が大と考えています。断層だったとして、それが今回の災害にどう関係したのか?それは断定は出来ませんが、これに沿って熱水変質帯が形成されておれば、必ずしも無関係とは云えません。
 リニアメントA、Bは安佐北区だけでしょうか?図-3は広島市北部の主なリニアメントを、グーグルアースで読みとったものです。NE-SW方向に平行なリニアメントが幾つも発達していることが判ります。これは中国地方西部の特徴的な現象です。安佐北区にはこれらの内、中央のリニアメントが通っています。そしてこれは南部では「已斐ー広島西縁活断層セグメント」に、北部では「上根活断層セグメント」に連続します(図ー4産業総合研究所「活断層カタログ」)。


図-3

3、災害の原因
 これを次ぎの二つの要因で検討しましょう。
       1)自然要因
       2)人為要因

1)自然要因
 今回の崩壊タイプには次の二つがあります。
 (1)渓流崩壊
 (2)斜面崩壊

(1)渓流崩壊;これは上で述べているように、リニアメントA、B間の緩斜面間で生じています。これが土石流となって下の住宅地に押し寄せたのが、被害を発生した原因です。なお土石流の中に、直径数m代の転石が含まれているので、中には土石流が基盤の花崗岩まで巻き込んだのではないか、と思うアホ専門家もいる。中国地方の花崗岩中には、風化や破砕に取り残された「核岩」*1というものがある。これは直径数mに達するのも珍しくはない。又マスコミ報道では、崩壊土砂や岩塊の中に流紋岩*2があって、これが災害の原因だ、などと云うのもいるが、こんな物はなんの関係もない。これを岩盤が崩壊したと勘違いするのは、中国花崗岩を見たことがない無学な関東地方の教科書学者・土木屋の特徴である(ノーナシ鹿島を見よ)。
(2)斜面崩壊;緩斜面と住宅地との接合部に幾つか斜面崩壊が見られるが、たいしたものはない。
 総じて云って、自然要因については大したものはない。前の山口豪雨や03年の紀伊半島災害に比べれば、崩壊規模は遙かに小さいのである。しかし、災害規模(死者・行方不明者)の数は比べものにならない。では何故、こんな災害を起こしたのか?それが 2)人為要因である。
*1これは近畿〜中国地方の花崗岩の中では普遍的に見られる現象である。奈良県飛鳥の石舞台古墳の石材も、奈良県中部に分布する領家花崗岩中の核岩を利用したものである。但し高松塚古墳の石材は違うだろう。
*2広島市北部山陽自動車沿いには、幅数10mの流紋岩脈が長さ数qに渡って延びている。この岩脈は筆者自身、30年以上前に調査しているから間違いない。偶々流紋岩の核岩かカケラが混ざっていただけである。
2)人為要因
 まず現況を見て驚いたのは
(1)崩壊発生渓流と住宅地との間に、殆ど距離がない。
(2)渓流に殆ど砂防施設が整備されていない。
(3)斜面先と住宅地が直結してしまっている。
 という点である。つまり、斜面と住宅地の間に災害を防止するような空間・施設が全く見られないということだ。この様なことではちょっと大きな雨が降れば、あっという間に災害を発生する。しかしどのような雨だったか?筆者の記憶では、小さいとは云えないが吃驚するほど大きい雨とは思えない。要するに、全体としての自然環境と都市整備の矛盾が本質的にあるように思われる。
(1)崩壊発生渓流と住宅地との間に、殆ど距離がない。
 これでは山地に発生した土石流が、住宅地に入った途端、拡散してしまって直接住宅を襲うことになる。渓流出口と住宅地との間に余裕があり、更に出口か上流に(2)砂防施設が整備されておれば土石流の勢いを減勢でき、被害を低減出来たと思われる。
(2)渓流に殆ど砂防施設が整備されていない。
 これまでの報道映像を見る限り、崩壊を起こした渓流に、砂防ダム他の砂防施設が系統的に設置された形跡は伺えない。小規模でも良いから、砂防ダムや渓流工を整備しておけば、被害はもっと低減出来たと思われる。
(3)斜面先と住宅地が直結してしまっている。
 図-1を見て判るように、山地斜面と住宅密集地が直結してしまっている。だから斜面が崩壊すると、土砂が直ちに住宅に押し寄せ、被害を拡大する。これは昭和30〜40年代造成地によく見られた光景だったが、これらの地域の大部分は現在「待ち受け工」で防護されていることが多い。ところが、安佐北区ではそのような防護工が見あたらない。

 以上から、今回の広島市災害要因は、自然要因もさることながら、人為要因が半分以上が占めると考えられる*。要するに、これまで不動産業者と一体になって、いい加減な開発行政をやってきた、ヤクザ顔負けの広島県土木が作った人災のようなものだ。対策は大して難しくはありません。土木の防災工学ならいざ知らず、応用地質学なら初級レベル。答なら既に云ってあります。
 判りますねえ、ダニエル君!

*昔籍を置いたことがある、某ダイヤコンサルタントという会社の岡山出張所長が云うには「岡山というところは、災害がないので・・・地質調査に関する・・・意識が低いんですよ」とぼやいていた。これは広島や山口のような瀬戸内筋でも共通の発想である。災害の無い地域の発想では、地質調査や土木設計の意義は、直近の・・・つまり予算要求に直結する・・・工事費算出に関連するものに限られ、余計な事は考えないことになる。これは技術屋の想像力を奪う発想である。だから中国や四国筋の土木屋・地質屋は、二流呼ばわりされるのである。
(14/08/22)