14年アメリカ ワシントン州の地すべり

横井技術士事務所
技術士 横井和夫


 昨日ある読者からメールを頂きました。その中で、この地点では6年前に地すべりが生じたらしい。図ー1に示した今回の地すべり斜面の両脇に見られる緩斜面の内のどちらか、或いはその両方か?でしょう。つまり、この地域は昔からの地すべり地帯だったのだ。
(14/03/27)

 この地すべり、既に死者不明が合わせて176人に上り、オバマが緊急事態宣言を出す騒ぎになった。この災害は、地すべりの一次災害と云うより、地すべり崩壊ブロックが泥流化し、それが下流の集落を襲った二次災害の可能性が大の様に思われる。
(14/03/26)

 アメリカワシントン州シアトル北方の山地で、3月22日(現地時間)地すべりが発生しました。当初CNNやその他で写真が流れましたが、どれもパッとした物がない。要するにどれが地すべりなのかよく判らないのである。これは現地に行った記者やカメラマンが、地すべりがどういう物か、よく判っていなかったためでしょう。だから何処からどうやって撮れば地すべりを表現出来るかが、判らないのである。その中で、本日見つけたのが、下図に示すjiji.comの写真。これが一番良く地すべりの状況を捉えている。


図ー1 地すべりの全貌(jiji.com)

 この地すべりは平坦な台地の末端が崩壊した者で、斜面下には河川が、両脇には緩い斜面が発達する。この写真を見て気が付いたのは、形状が08年岩手・宮城内陸地震で生じた「荒砥沢地すべり」にそっくりだというです。「荒砥沢地すべり」は、栗駒山系の第四紀火山放出物が崩壊したものです。どちらも、地すべり発生の初期段階の典型を現し、そういう意味で注目されます。崩壊斜面の向こう側に、緩斜面が広がっています。これも見ようによっては、古い地すべり斜面にも見える。
 地すべりの頂部滑落崖の上段に薄い線があり、これにより地すべり背面地山の地質は、上下2層に分かれます。この様子がもう少し詳しく判る写真が見つかりました。


図ー2 頂部滑落崖の地山((CNN)

 これはCNNによる頂部滑落崖上部の近接写真です。写真下、台地表面から30〜40m下に(台地上の樹木の高さから推定)何か地層の境界が見えます。上は白色細粒の砕屑物のようで、堆積構造もなく、礫もみられない。従って、河川成堆積物ではないようです。と云うことはこの台地は河岸段丘ではなく、別の成因で出来たことになります。その下は褐色の地層ですが、これも顕著な堆積構造は見られません。縦に褐色の帯が幾つか見られますが、これは割れ目からの地下水や表流水が流れた跡です。
 全体としての印象は新しい火山倣出物の集合体です。色調から見ると石英安山岩質の火山灰や火砕流、溶結凝灰岩の類ではないかと思われます。この辺り、確か数10年ぐらい前に火山噴火(セントヘレンズ火山か?)があったように記憶している。意外に新しい火山岩があるのかも知れません。

 さて問題はこれの後始末です。アメリカだから土地は幾らでもあるから、日本みたいにこせこせしなくても良いのではないか、と思いがちですが、必ずしもそうとばかりいえない。下の写真は地すべり池から下流を臨んだ写真です(AP)。下流には河川と、それと平行に何か直線状のものが走っています。この周囲に集落があり、これが今回の地すべりで被害を受けた地区でしょう。先に述べた直線は水路では無いかと考えられます。これの右側に平行する筋が見えますが、これは道路か鉄道でしょうか?地すべりの末端に、膨大な土砂が堆積しています。これらは、今後大雨が降れば、間違いなく土石流となって、下流を襲います。後始末は、この土石流をどう始末するかに懸かってきます。


図ー3 地すべりと下流域の全貌(AP)

 これらのインフラや下流域の重要度が今後の対策に効いてきます。ロシアなら間違いなく、住民を移住させるだけで後はほったらかし。日本では莫大な予算を使って対策工をやる。アメリカはどうでしょう。はっきり言ってよく判らない。地すべり対策工というのは、必ずしも一元的に決まる物ではなく、その地域の特性(文化や経済)にも依存するのです。
 なお地すべり下流の右岸側に、池が幾つか連なっています。それらの境界は低い堤防になっていますが、この池はかつての河川の蛇行の跡です。洪水が起こると、上流から大量の土砂が流れ込み、それが元の河の流路を防ぐ(自然堤防)。その結果流路が変更する。その後、又洪水が来ると前の自然堤防を突き破って、新しい流路を作る。これが何度も繰り返され、非常に複雑な流路を作る。
 日本では近世以降の河川改修で、古い流路は殆ど残っていないが、大陸では・・・例えばアラスカユーコン河の様に・・・この様な原始河川の跡が残っていることがある。しかし日本でも、地表には残っていなくても、地下に堆積物として蛇行河川の跡が残っている事がある。