平成19年中越沖地震と断層
1、平成19年中越沖地震断層(1)
2、地震は何故断層の端っこで発生するのか?・・・誰でも出来る簡単震度予測法
3、近畿地方にもこんな断層があるのか?


1、平成19年中越沖地震断層(1)

 図−1は今回の地震震源付近の地質図です。図の右に(F1)とした赤い線があります。この線と(F1)は筆者が勝手に入れたものです。この赤い線が今回の地震の引き金となった海底活断層とされるものです。長さは約30q図の中央の赤い☆印が今回の地震震源位置です。随分離れているではないか、断層と地震は関係ないのでは無いかと思うでしょうが、実はそうではない。震源を挟んで(F1)の反対側に(F2)とした断層群があります。これは「長岡平野西縁活断層群」と呼ばれるもので、三年前の中越地震との関係が疑われる断層帯です。


図−1

 下の図(図−2)は、地震後の柏崎沖合の余震分布です。☆印が震源位置、中央の赤い四角が東電柏崎原発です。図中(F1)とそれに該当する赤線、記号(F2)は、筆者が東大作成の元図にかきこんだものです。柏崎海岸の沖に余震の集中域があります。これが今回の地震で活動した断層の範囲です。余震の分布パターンを見てみると、ある幅を持って、概ねNEーSW方向に配列していることが判ります。この方向が断層の走向です。そしてそれが(F1)断層、(F2)断層帯にほぼ平行していることが判ります。又、図−1と見比べても判るように、この余震配列は、この地域(西頸城山地から日本海)全体の地質構造に平行でもあります。


図−2

 つまり、今回地震を発生させた断層は、(F1)断層、(F2)断層帯に密接な関係を持っていることが判ります。なお、震源位置が断層の端っこにあることに注目して下さい。何故、震源が断層の端っこに出来るか、それが皆さんの安全にどういう関係を持っているかは、後ほど説明します。
 では、図−1と図−2はどう結びつくのでしょうか?それを解く鍵が、下の図−3です。図−3は上で述べた余震帯(地震断層)の走向に直角方向に切った、地質断面に余震分布を重ね合わせた(筆者作成)ものです。但し、余震分布と本震位置はは、07/07/26更新分を採用しています。




図−3


 この図で、赤破線は筆者が勝手に書き込んだ推定地震断層。これには(1)図の右上(日本海)から、左下(頸城山地)に傾斜する右下がりのものと、逆に(2)図の中央(丁度柏崎海岸線付近)から右上がりになるもの、との2系統があることが判ります。地質断面の位置と余震位置とのずれがあるのでぴったりは繋がりませんが、(1)を延長するとF1断層に、(2)を延長するとF2断層帯に連続するようです。そして、本震の震源はほぼ両者が交叉した位置に相当するようです。つまり、今回の地震は、F1とF2の二つの断層系が交叉したところで発生したわけです。断層の性質としてはいずれも逆断層です。又F1、F2の内、どちらが先に発生するかは判りません。ほぼ同時に発生した考えて良いでしょう。余震の時系列解析では、F1相当とF1の下に左下がりの余震域が時間と共に広がる様子が見られます。これは物体が破壊を生じた時に普遍に現れる現象です。F1、F2の様に異なる方向の断層(割れ目系)が同時に発生する断層を、地質学では、”共役”断層系と呼びます。では、このような断層は珍しいでしょうか?いいえとんでもない。ざらにある現象です。岩石やコンクリートのテストピースに一軸圧縮破壊試験を行うと、必ずこのような共役割れ目系を作ります。だから、これらの断層はプレート境界断層ではなく、地殻内の岩盤破壊で出来る普通の断層と云えます。
 問題はこのような地質構造が現時点で予測可能だったかどうか、です。結論を云うと、現在我々が持っている物理探査の技術では殆ど不可能だろうということです。理由は探査深度が深くなればなるほど、低周波の(言い換えれば波長の長い)波を使わなくてはならない。10数qを調べようとすると、地震探査では1HZとかそんな低い周波数の波を使うことになる。そんな波をどうやって発振するのか?その点の技術的課題がなおクリアー出来ていない。当分は自然地震を使った強震記録に頼らざるを得ないのである。
*1;その後10q前後に修正。そうすると、震源位置から余震分布まで、全部のデータを見直さなくてはならない。


断層傾斜角から、断層を作る地殻応力は、ほぼ水平面内にあると考えられる。共役断層系が発生した時、二つの断層面がなす角は、モールクーロン基準を適用すると
          α=90゜−φ
                 φ=90゜−α
                 α;断層面のなす角
                 φ;地殻の内部摩擦角
         
  図−3より α=82゜を得る。従ってφ=8゜

 新潟県日本海沿岸部での地殻の平均内部摩擦角はφ=8゜となります。別にびっくりするような値ではありません。φ=0になるのではなかろうかと期待していました。地熱環境を考えれば、φ=0が当たり前で、φ=8゜はやや大きかったかなあと思います。


2、地震は何故断層の端っこで発生するのか?
 2007年中越沖地震では、地震は断層端部で発生しています。1995年兵庫県南部地震も震源も、野島断層の北端近くで発生しています。このように地震は断層の端っこで発生する癖があります。決して真ん中では発生しないのです。
 一般に物体の破壊と言う現象は、次のように考えられています。物体内に微小クラック(グリフィスクラックと呼ぶ)があって、そこに力が作用する。この時クラック端部に応力集中が発生し、これが物体の破壊強度を超えると、逐次破壊を生じる。それが次々と伝播し、遂に全般破壊に至ります。このことは今世紀始めにJagerという人によって解析的に示されています。その後、切り欠きを持つ金属片への引っ張り伸張試験や、有限要素法を使った数値解析でも証明されています。つまり、破壊はクラックの端っこから始まるのだ。
 

グリフィスクラックに応力が作用すると、端部で発生する引っ張り応力は理論上無限大になる。現実にこんなことはないが、少なくとも端部に発生する応力は周囲の数100倍ぐらいにはなる。この結果、端部で破壊が進行し、クラックは次第に成長する。
 断層は地殻内のグリフィスクラックに相当します。だから断層は地震の度に成長するのです。

3、地震動の簡単予測法
以前、カミサンの友人N子さんが、自宅を改築したいのだが「”活断層”が気になって仕方がない。横井さんに見て貰いたい」と云うので、「一度来て下さい、場所を見てみましょう」と返事。と言うわけで、来て貰って、N子さん宅の場所を教えて貰いました。場所は寝屋川市の山手の造成地。国土地理院「都市圏活断層図(市販している)」によれば、数q程離れて「交野断層」が走っている。結論は
   1)家は断層から離れているので、地震で断層が動いたとしても、それで家がずれる様なことはない。
   2)宅地は切土盤なので、家がひっくり返る様なことはない。無論液状化は問題ない。
   3)但し、震源は近いので地震時では相当激しく揺れる。新築するなら耐震性の高い構造のものが良いだろう。
 N子さんは安心して帰りました。その後、電話があって家は某大手家屋メーカーのプレハブにしたそうだ。大手メーカーの製品が全て安心だとは云いませんが、もし何かがあって、損害賠償請求となったとき、相手は大手だから逃げも隠れも出来ない。N子さんの御主人は弁護士。間違いなく損害賠償を巻き上げられる。ではどれぐらい激しい地震が予想されるでしょうか?
 
 
 この原理を使えば、素人でも比較的簡単に、家の近所でどの程度の地震が起こるかを予測することが出来ます。手順は以下の通りです。
1、活断層に関する資料を入手します。上に挙げた「都市圏活断層図」や「日本の活断層」なら、大手の書店に行けば売っています。
2、家に近い活断層を見つけてその長さ(L)をスケールで測ります。数qという大雑把な値で構いません。
3、断層の端部から家までの距離(D)を図上で測ります(これも数qで構いません)。断層の端部は左右2カ所あります。どちらが先に動くかは判りません。この時は近い方の距離を採ります。
4、次式で地震マグニチュードを求めます。
    M=(LogL+2.9)/0.6
5、断層延長が10〜20q、マグニチュードが6.5〜7.5クラスであれば、兵庫県南部地震(M7.2)に基づく下図を用いて、最大加速度α(ガル)が求められます。但し元データはばらつきが大きいので、上限値と下限値との幅を持たして表現してあります。

6、上図で加速度が求められれば、これを用いて気象庁震度階が推定出来るので、大雑把ですが下表により、揺れの大きさが予測出来ます。   

震度 0
T U V W X Y Z
無感 微震 軽震 弱震 中震 強震 烈震 激震
加速度(ガル) 〜0.8 〜2.5 〜8.0 〜25 〜80 〜250 〜400 400〜

 ではこの図がどれぐらい当てになるかを、今回の中越沖地震の柏崎原発に当てはめて見ましょう。中越沖地震の震源位置、マグニチュードは判っているので、上記1から4の検討は省略します。
1、中越沖地震のマグニチュードはM6.8。一応上図は使える範囲と考えられます。
2、震源から柏崎原発までの距離は約9q。ちなみに柏崎市街地までの距離は約20qです。
3、図8、9から読みとれる最大加速度と、柏崎原発での最大観測値との関係は次のとおりです。

場所 適用 水平加速度(ガル 図8による) 鉛直加速度(ガル 図9による)
柏崎原発 予測値 500〜1000以上 400〜1000
実測値 680 408
柏崎市街地 予測値 300〜1000以上 250〜700

 今回の中越沖地震の規模は兵庫県南部地震に比べ、かなり小さいので、下限値近くの値を採用すると、柏崎原発付近で水平加速度は500〜700ガル、鉛直加速度は400〜500ガルと見込まれるので、かなり実測値を再現しているように見えます。柏崎市街地では震度Y強程度になりますが、これも実際の傾向と大きく外れていません。
 但し、この方法で今のところ私の持ち合わせている加速度〜震源距離の関係図は、上に挙げた兵庫県南部地震のものしかありません。又、地震は断層の端っこで起こると断定していますが、実際はアスペリテで起こる(特に海溝型地震)。この種の図表を地震マグニチュードや地域別に整理・整備し、各断層のアスペリテ分布を整理すれば、より精度の高い予測を誰でも出来るようになります。  

2-2簡単予測法(その2)
 上で挙げた方法は、あまりにも当てずっぽうなので、あまり信用出来ない、もう少しましな予測法はないでしょうか?なくはありません。ここではJoiner&Booreによる単純距離減衰法を説明します。
これによると、ある活断層からDだけ離れた地域の最大水平加速度は次式で与えられます。
    logA=-1.02+0.249Mw-logr-0.00255r  ・・・・・・・・・・・(2.2.1)
        r=(D2+7.32)1/2             ・・・・・・・・・・・(2.2.2)
        A;最大水平加速度(G)
        Mw;モーメントマグニチュード
        D;地表面に投影された断層からの最短距離
 これらのパラメーターは次のようにして求められます。
(1)D
 これは既往文献、例えば「日本の活断層」とか、「都市圏活断層図」などの文献によって、問題にしている活断層との距離をスケールアップで求めます。qオーダーで構いません。
(2)Mw
 モーメントマグニチュードMwは地震モーメントM0の関数として求められます。一方、Mwは断層破砕域(断層面積)ともリニアーな関係を持っています(下図参照)。

図2.1

 断層面積(rupture area)は、地表面に於ける断層長さL×断層幅Wで表されます。断層幅Wは、通常の直下型地震では最大20qで飽和します。と言うことは、普通の活断層を対象としたとき、破砕域の面積Sは、S=20×Lを最大値と見ておけば安全側の仮定になります。これにより、地表面に於ける断層長さLが決まれば、破砕面積が決まり、図2.1によりMwが求められ、最大水平加速度が2.2.1式で求められます。Joiner等はこれの0.65を設計震度とすることを推奨しています。要するに、2.2.1式では過大値が出てくるので、6〜7割掛けにしておくのが無難だろうということです。
(3)震度の推定
 昔は加速度が決まれば、それで震度も決まったのだが、今はそうは行かず、地盤の振動特性(固有周期)も考慮しなくてはならなくなっている。それに対し、気象庁は次のような図を示しています。

図2.2

                                                             
 ここで周期はどう求めればよいのでしょうか?我々が感じる地震動は、地盤の振動と建物のそれが合成したもので、その過程は非常に複雑になります。上の図は地盤に設置した計測震度計の特性値なので、この図で震度を求める時には、地盤の振動だけを考えて良いでしょう。地盤の固有周期だけを考えます(図2.2の周期)。では地盤の固有周期はどうやって求めればよいでしょうか?これには大きく二つの方法があります。
1)直接測定法
 地盤に地震計を設置し、(1)直接強震記録を採るとか、(2)常時微動を採るとかの方法です。(1)は強い地震が来なければ記録が採れないので、一般的とは云えない。(2)も昔に比べれば随分簡単になりましたが、それでも誰でも出来る訳ではない。専用の地震計とか、フーリエアナライザーなどの解析機器(フーリエアナライザーがなければ、A/Dコンバーターとフーリエ解析ソフトとパソコン)が必要になります。
2)間接測定法
 地盤の固有周期は、地盤のS波速度(Vs)に依存していることが判っているので、Vsを求めればよいことになる。Vsの求め方にもいろいろあって、これだというのはありません。一般には地盤調査(ボーリング、S波探査)によります。これも価格の面から一般の人が自分で行うのは難しい(よっぽど金と暇があれば別ですが)。

 そこで甚だ乱暴なやり方ですが、エイヤー法をご紹介しておきましょう。これは、自分が住んでいる場所の地盤がどういう性質(種別と云ってよい)かで、固有周期をエイヤーで求める方法です。「道路橋示方書」では、地盤種別と地盤特性値(固有周期)について、次のような基準を示しています。

地盤種別   沖積層厚HA・洪積層厚HD 地盤特性値TG(秒)
T 2HA+HD<=10m <0.2
U 2HA+HD>=10m 0.2≦TG<0.6
V HA>=25m 0.6≦TG

                   表2.1

 自分の家の地盤が概ね沖積地盤なのかどうか、沖積地盤であれば、沖積層の厚さがどれくらいあるか。それらに見当が付けられれば、上の表からエイヤーで地盤特性値のオーダーが決められるという方法です。但し、この表は本来TGをS波速度をか何かの方法で求めておいて、それから地盤種別を決定するのに用いるのであって、そもそもこれからTGを求めるのは邪道です。                                      

 それはともかく、とにかく上記の方法を使って、N子さんの家で今後どのような地震動が予測されるかを、やってみましょう。

1、断層パラメーターの決定

 N子さんの家は大阪府東北部、枚方丘陵の一画(プライバシーがあって、家の詳細は示しません)の造成地です。近くの断層としては西約1.5qに枚方撓曲(L=7.0q)、東約2.0qに交野断層(L=12.2q)があり、交野断層の南には生駒断層(L=9.2q)があります。
 (2.2.2)式より 
 枚方撓曲を対象としたとき   r=(1.52+7.32)1/2=7.45q
 交野断層を対象としたとき   r=(2.02+7.32)1/2=7.57q 
(モーメントマグニチュードの推定)
 枚方撓曲を対象としたとき   S=20×7.0=140q2     図2.1よりMw=6.1
 交野断層を対象としたとき   S=20×12.2=244q2     同じく   Mw=6.6
 生駒断層も考慮したとき    S=20×(12.2+9.2)=428q2 同じく   Mw=6.7

2、最大加速度及び震度の推定
 2.2.1式より
 ケース1)枚方撓曲を対象としたとき    logA=-1.02+0.249×6.1-log7.45-0.00255×7.45=-0.392    A=0.405G=405gal
 ケース2)交野断層を対象としたとき    logA=-1.02+0.249×6.6-log7.57-0.00255×7.57=-0.275    A=0.530G=530gal
 ケース3)生駒断層も考慮したとき     logA=-1.02+0.249×6.7-log7.57-0.00255×7.57=-0.250     A=0.60G=600gal

 但し、交野断層と生駒断層との関係はかなり複雑なので、これらが同時に活動するか否かに付いては意見が分かれるところだろう。

Joinerらの云うとおり、設計加速度をこれの65%とすると、予想最大加速度は260〜390gal程度になります。N子さんの家は洪積世大阪層群の切り土地盤。従って沖積層HA=0、但し洪積層厚HDは数100mはあるので、地盤種別としてはU種とするのが妥当でしょう。従って、地盤固有周期は0.2〜0.6秒となります。図2.2から予想される地震震度は表2.2のようになります。
 

ケース 0.65A(G) 固有周期(秒)
0.2 0.6
1 260 震度5 震度6弱
2 345 震度5〜6弱 震度6弱〜6強
3 390 震度6弱 震度6強

           表2.2 地震震度の予測結果
  

 最大でも震度6強で収まりそうなので、地震保険に入っておいても大丈夫という結論になります。何故なら、震度7は通常は地震保険の適用外だからです。詳しくは、保険契約の定款を見て下さい。


3、近畿地方にもこんな断層はあるのか?
 中越沖地震の特徴の一つに、地表面で見る限り、地表活断層とは全く別の場所で地震が起こっていることです。これは地震を引き起こした断層が逆断層で、断層面が水平面に対し傾斜しているからです(1の図−3参照)。このような断層では、見ただけでは震源の位置を想定出来ません。しかし、断層には色々なタイプがあります。代表的なものが(1)逆断層と(2)横ずれ断層です。(1)逆断層は、断層面が傾斜しているのに対し、(2)横ずれ断層では、断層面が殆ど垂直だと言うことが違いです。つまり、逆断層が動く時の震源は、地表断層の位置よりずれますが、横ずれ断層の場合、震源は殆ど断層直下にあります。これらの特徴を図にまとめると下図のようになります。

実際に逆断層か横ずれ断層かの認定は、専門的な知識と経験が必要ですが、一般の人には無理です。しかし、これまでの研究成果から断層カタログが沢山出版されているので、それを参考にすれば良いでしょう。近畿地方の地質構造、特に断層の配列を考える上で「近畿トライアングル」という概念を抜きには語れません。「近畿トライアングル」とは、東は伊吹・養老山地、西は丹波山地、南は紀伊山地に囲まれた三角形状地域(概ね下図の白抜き部分)で、これは過去100万年の間に、北のユーラシアプレート、東の太平洋プレート、南のフィリピン海プレートによって圧縮されて出来た部分である。
 まずこの絵を見てみよう。
@近畿トライアングルの境界を作る断層は、概ね横ずれ断層である。
A近畿トライアングル内部の断層には、南北方向と東北ー南西方向の2種類がある。
B南北方向の断層は概ね逆断層である。
C東北ー南西方向の断層は逆断層が主であるが、横ずれ性のものもある。
つまり、近畿地方中軸部では、中越沖地震と同様、地表断層の位置と実際の震源がずれている地震が、起こる可能性があると云えます。



 

 では具体的にはどれ位になるでしょうか?大阪平野最大の逆断層は大阪市内を南北に縦断する「上町断層」です。これが活動したときには、M8級の巨大地震になると予想されています。上町断層の位置は現在かなり確定されています。南北両端の位置については、なお曖昧な部分が残っていますが、ここでは北端部で地震が起こると仮定して、どの辺りが震源になるか、を探って見ましょう。
 国土地理院「都市圏活断層図」では、上町断層の北限を淀川辺りにしています。これはその北のデータが無いため、とりあえずそうしているだけで、あまり意味ははありません。しかし、これしか具体的データが無いので、北端位置をとりあえず新大阪付近とします。上町断層の傾斜角についてははっきりしていませんが、ワタクシの知り合いの誰かが、60゜というハッタリをかました(大阪府の委員会ではこれが通ったらしい。これだけ見ても大阪府のレベルがしれます)のですが、ワタクシは全く信用していません。一般には、地表付近の浅い部分では高角度でも、地下深部では低角度になる。それは数年前の台湾中集地震でも、今回の中越沖地震でも、奈良県に残されている中央構造線の露頭でも証明されているのです。そこで断層傾斜角を60゜、45゜、30゜の3ケースで震源位置を予想してみると、断層傾斜角を60゜のケースで新大阪から東へ約6q(守口)、45゜のケースで同じく約10q(寝屋川南部)、更に30゜では同じく約17q(生駒山地下)という事になります。いずれのケースでも大阪平野北部(河内平野から摂津南部)は壊滅的被害になるでしょう。特に東大阪の軟弱地盤が地震被害を拡大します。つまり、上町断層は大阪市内の断層だから関係ない、と高をくくっているととんでもないことになるのです。
 南方延長で堺市百舌鳥付近を南端とすると、震源位置は同じく松原から柏原あたりとなるので、大阪府南部は壊滅的になります。今般、シャープが堺の新日鐵跡地に、世界最大級の液晶工場を建設すると発表しましたが、勿論この工場も被害を免れません。上町断層地震のおかげで、世界の液晶市場が混乱するでしょう。松下も尼崎にプラズマ工場を建設しますが、これも無事では済みません。中越沖地震ではリケンの工場が被害を受けて、日本の自動車生産が影響を受けました。これらは、集中の負の側面です。日本の様な災害列島では、重要な生産設備は集中よりは分散しておく方が安全なのだが、未だそれが判っていない経営者が多い。


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