海外の地すべり
14/05/02

横井技術士事務所
技術士 横井和夫




 これは先月中国内モンゴル自治区の露天掘り炭鉱で発生したのり面崩壊のj状況。崩壊は下から数えて三段目のベンチで発生しその下が崩壊した。崩壊部の右端に、のり面に直交する断層が見られる(図中の破線)。又これに斜交する断層が見られ、これらがくさびを作る。その下を盤下げ掘削したため、土塊が安定を失い崩壊にいたったものと思われる。
 この種の崩壊は一旦始まると、見る見る内に進展する。従って対応としては、とにかく逃げる他はない。しかしその前に頂部にクラックが入ったり、小崩壊とか落石が発生するなど、前兆現象が必ずある。これがあれば、作業員を直ちに退避させなければならない。そうしなかったことが16人もの人命を失った原因である。
 何故か?習近平によるゼロコロナ政策の急速転換で石炭需要が急増したため、鉱山会社が操業強化を急いだためではあるまいか。そうだとすると、これは明らかに共産党の政策ミスによる人災である。
(23/03/28)  



 最近中国雲南省で起きた地すべり。先日挙げた貴州省での列車脱線事故の原因となった雨と同じでしょう。山地から張り出した台地の末端斜面が崩壊を起こしています。筆者が何故中国の地すべりをよく取り上げるかというと、日本のそれによく似ているからです。この地すべりなど、日本では西南日本外帯のジュラ紀〜白亜紀付加体で見られる地すべりにそっくりです。だったら日本の地すべり対策技術を売り込むチャンスだ。
 それはともかく、地元当局はこの地すべりの背後により大きな地すべりがあると推定しています。それはこの写真だけからでも見て取れます。昔タッチした四国横断道(高知自動車道)法皇トンネル川之江方坑口にそっくりです。大滝ダム白屋地すべりも同じ。
 さて対策工はどうすればよいでしょうか?少々金はかかりますが、難しくはありません。教科書的地すべりです。
(22/06/12)


 土石流で列車が脱線し、死者が出た中国貴州省の高速鉄道トンネル坑口。あまり良い坑口とは言えない。坑口が突出しているのは明かり巻きのせいか?坑口背面の台地はそのための抑え盛土かもしれない。
 それはともかく、土石流は向かって右の狭い沢で発生し、坑口手前の施設で阻まれて線路に雪崩れ込んだ。そこに列車が突っ込んだ、というパターン。
 原因としては
1、設計上の問題
2、運用上の問題
 の2点が挙げられます。

1、設計上の問題
 トンネル坑口での側方からの崩壊や地すべりは、日本でもよくある現象で、計画時には坑口の設定、実施設計では坑口工設計で十分な検討が要求される。写真を見た限りでは、右の沢では澤水の末端処理が行われていないようだ。貴州省のような豪雨地帯・・・日本では紀伊半島とか四国に匹敵する・・・で、沢水の末端処理が行われていなかったとすると、これは問題である。土石流は沢水の流れに沿って発生する。つまり土石流を防ごうと思えばば、沢水を如何に制御するかを考えなくてはならない。何も大規模な河川改修や調整池を作る必要はない。例えば線路脇に沈砂池をつくるなり、下流の河道拡幅を行うなりして、流路を鉄道用地外に誘導するだけでも安全性は随分違う。要は高速鉄道という重要インフラの防災に、どれだけ金を使うかの問題だ。
 この件でいえば、坑口右上の小さな斜面が問題。土石流はこれを飛び越えて線路敷きに雪崩れ込んだとみられる。この斜面が何の意味かよくわからない。上で述べた「水を制す」という考えに基づけば、この部分はむしろ開削とし、その下は線路より低い河道を作ってそこに流し込んだほうが良い。
2、運用上の問題
 当日の降雨の状態と列車運行の関係が今一つ明確ではないが、雨が降りやまない状態で運行を強行したとすれば問題である。中国での列車運行規則がどうなっているのか知らないが、わが国の鉄道では時間降雨量が50m/mを超えれば列車の運行は停止。又雨がやんでも、累計降雨量が規定値を越えておれば、保線区が点検して安全をしなくてはならない。そうでなければ運転は再開出来ない。重要な目安は累計降雨量で、あるまとまった雨で、累計降雨量が200m/mを越えると、土砂災害が発生しやすくなるという経験的事実がある。降雨時列車運行管理にはこの二つを組み合わせてコントロールしなければならない。
 事故当時、雨はどうだったのか?雨は未だ止んでいなかった。線路上に土砂が雪崩れ込んできたが、運転士は構わず突っ込んだ。何故か?列車を停止させてはならないという圧力が、どこかから掛かっていたのだろう。10年前のJR西日本福知山線脱線事故と同じパターンだ。但し日本では死んだ運転士は過失運転致死障害、但し被疑者死亡。中国では「英雄」になった。彼を「英雄」にしなければならない事情があったのだろう事実をあきらかにすると。習近平の三選にも影響しかねないからか?

 問題は日本のトンネルがこの事故を他山の石として、設計なり列車運行の安全指針に取り入れるかどうかだ。事故・災害に国境はない。
(22/06/08)


 これは先週ブラジルで起こった滝の落石現場。これで生じた波でボートが転覆し、何人か犠牲者が出ている。画面を見る通り、岩盤には縦の割れ目が発達し、水平方向の割れ目と重なってブロック状になっている。このブロックが何かのはずみで落下した。この落石が水中に水の揺れを作り、それが水面では波となり、その波ででボートが転倒したと考えられる。一種の津波である。
 割れ目そのものは岩盤に密着した不連続面が元々あり、それが長年の間に開口して出来たもの。玄武岩の柱状節理などが典型。開口の理由は色々考えられるが、多いのは継続して生じる振動である。地震もあるが、場所がブラジルだから考え難い。犯人は滝である。滝から落ちる水が低周波の振動を発生する。これが度重なると割れ目が次第に開く。そこに水が入ってきて冬に凍結すると、割れ目は更に開くこれが永年繰り返し継続する。そのうち何かの拍子にズドーン。日本では華厳の滝、那智の滝などが似たようなもの。これらの滝の崖下には落石が多く転がっていますが、これらも同じようにして落下したもの。くれぐれも面白半分で滝のそばには近づかないように。
(22/01/15)

 6月以来の大雨で中国貴州省で発生した大規模地すべり。このあたりは中国でも有数の地すべり地帯。しかし始皇帝から毛沢東に至るまで中国歴代王朝はこういう災害を無視してきた。今の習王朝はどうでしょうか?
 写真を見るとこの付近の地形は」、川を挟んで非対称だということが分かります。写真左側の斜面はなだらかで、これは地層が流れ盤になっていて、所謂「流れ盤すべり」を作ります。右側は急斜面で、これは「受け盤」構造を意味します。「受け盤」だから安全か、というとそうではなく、こういう斜面ではしばしばトップリング崩壊を生じます。こういう「流れ盤」-「受け盤(トップリン)」の組み合わせは日本でもよくみられ、珍しいものではありません。この地域は典型的・・・教科書的・・・な地すべり地形を示しています。
 なお三峡ダムの上流にも大規模地すべりがあります。こんなことを公にすると国家安全維持法に引っかかるおそれがあります。
(20/07/10)


 これは日本の何処かの造成地ではありません。記録的豪雨で大災害を出したブラジルのある街。今ブラジルは夏で雨季、日本でいえば梅雨時だ。これに乱開発が加わっての災害。
 見たところ日本でいえば神戸や芦屋の山の手風情の住宅地。やっていることも、日本のかつての無秩序開発と変わりない災害も。かつての42年災害や三年前の広島豪雨と同じ。つまりブラジルと同様、日本も一向に進歩していないということ。
(20/01/26)

 これは先日中国雲南省で起こった斜面崩壊。崩壊地は周りから独立したドーム状小丘の斜面です。崩壊部には柱状節理が見られることから、この小丘は玄武岩か安山岩の岩頚(ネック)と考えられます。つまり溶岩が火道を通って上昇する過程で、冷却固化したものです。周囲の緩斜面は噴火に伴う火山砕屑岩です。崩壊はまず下方の火山砕屑物上で起こり、それが上のドーム斜面に拡大したと考えられます。このように中国南部は火山地帯=地熱地帯です。西遊記にある「火炎山」はこういう火山をヒントにしたのかもしれません。
 そこで問題が一つ。今中国は日本の地熱開発技術に注目している可能性があります。中でも地下深部の地熱構造探査技術が危ない。うっかり中国人の誘いに乗って、地熱探査などするとそれこそスパイ疑惑で拘束される恐れがある。ご用心。
(19/07/29)

 

 ブラジル鉱山地すべりの動画が公開されました。写真はその一部。崩壊の形態は典型的な地すべり。防災教育の教材に使いたいぐらいだ。しかし動画だけでは原因はわかりません。
 なおこの動画は斜面のほぼ正面から撮っているので、事前に用意されたもの。ということは、かなり以前から地すべりの兆候はあったと考えられます。
(19/02/03)

昨日南米コロンビアの違法金鉱山で崩壊事故が起こり、30人ほどが生き埋めになったという報道。南米金鉱山とはどういう状況か、とネット(Jiji.com)でみてみました。


これは救出状況を不安げに眺める鉱山関係者でしょう。写真の上半分は赤いラテライトの様な土壌(火山灰質土の可能性もある)が堆積し、その下は黒灰色の地層になっています。この地層の中には点々と礫状の様なものが見えます。両者の境界には何か異質な地層が見えますが、これが何かは写真からでは判りません。群衆がいる台地の下は尖った出っ張りになって、その左右に凹状の窪地が見られます。これが崩壊跡でしょう。

 斜面下部で働くバックホウ。おそらく遺体捜索をやっているのでしょう。周囲に見られるのは未固結の砂礫層。

 斜面の低地と思われます。男が一人いますが遭難者でしょうか?テントがあるので、一人で砂金掘りをやっていたのかも知れません。見たとおり、この鉱山の地山は未固結の砂礫、それも河床礫です。それは礫がみんな丸みを帯びていることから判ります。丸みを帯びると言うことは、運搬の過程で衝突を繰り返し、角が摩耗した証拠です。又、礫径が不揃いなことから、この礫層は中下流ではなく、上流の扇状地堆積物と考えられます。なお礫を詳しく見ると、殆どは掘削によって破壊されていますが、写真左上の礫の配列を見ると、僅かにインブリケーションが残っている箇所もあるようです。山勘的に云うと、この礫層を作った古水流の方向は、写真左から右方向と思われます。河床の年代は具体的な資料はありませんが、日本の類似地層と比較すると、せいぜい数万年といったところです。

 金(金属)鉱床には概ね次のようなタイプがあります。
1、岩脈型の接触交替鉱床(スカルン型);地下の岩盤に岩脈が貫入してきて、両者の接触部に重金属が濃集するタイプ。甲州金山や鹿児島の菱刈鉱山、生野鉱山、世界遺産の石見銀山もこのタイプ。
2、火山型熱水鉱床;火山活動で、地下から熱水が上昇し、熱水中の重金属が岩盤の割れ目に濃集・沈着するタイプ。佐渡金山が代表。
3、層状海底熱水鉱床(キースラーガー型);堆積層の中に、それと整合的にAu・Ag・Cu・Pbなどの重金属が濃集する地層が挟まれていることがある。これの成因は永年不明とされてきたが、1980年代以降の深海探査により明らかになった。太洋に於ける中央海嶺では火山活動が活発で、マントルから重金属を含む高温熱水が吹きだしている。これが海流に乗って周辺に拡散し、海底に堆積する。これが生物作用により濃集したものである。日本では四国三波川帯の別子鉱山や、秋田の黒鉱鉱山などがこれに該当する。
4、団塊鉱床(ノジュール型);プレートサブダクション帯にしばしば見られるもので、要するに玄武岩の塊である。連続性はなく、いきなり現れる。但しMn、Ni、Crなどの重金属を高品位で含む。金も含まれる事がある。日本では丹波マンガン鉱床があるが、大戦中に掘り尽くされ、現在稼鉱している鉱山はない。
5、堆積鉱床型;後背地に上記1〜4に該当する鉱床がある場合、或いは花崗岩バソリスなどの低品位でも金を含む巨大岩体がある場合、浸食でそこから発生した金が下流の扇状地の下部に堆積する。これが更に再浸食により河床表面に現れると所謂砂金になる。19世紀末〜20世紀初頭の北米・アラスカのゴールドラッシュを支えたのは、この種の堆積鉱床である。日本で最初に金が採れた奥州黄金沢もこのタイプである。なおこの種の鉱床には、しばしばウランが伴うことがあります。
 写真を見ると、鉱山の地山は未固結の河床礫層である。従ってこの鉱山は5、堆積鉱床である。では何が問題かと言うと、上記1〜4までのタイプはいずれも不規則に変化する鉱脈を追跡しながら掘っていかねばならない。これには豊富な経験と熟練した技術が必要である。一般に坑道掘削となるので危険を伴う。従って、これは限られた技術集団の独擅場になる。一方5、は金鉱床さえあれば、後は只単に掘っていけば良いだけだから、誰でも参加出来る。極めて民主的なシステムだ。しかしそこに落とし穴があるのだ。この民主主義を動かす原動力(現代ではモチベーションと云う)は欲望である。欲望には限度はない。だから幾らでも深く掘っていく。採掘量を増やすには採掘面積を最大にする必要がある。そのために、掘削斜面勾配も限度一杯まで急にする。ところが、斜面が安定を保つためには高さ・勾配に一定の限度がある。これは地山の強度から決まる。この限度を超えると崩壊が発生する。自然は人間の欲望に、何時までも付き合ってくれないのである。まあ命を的のバクチだ。
 そしてこの誰でも参加出来るという民主主義がもたらしたものは、ヨーロッパによるアジア・アフリカ・中南米の植民地化です。しかし、日本は近世以降、鉱山業への一般参入を禁止した。つまり今で云えば岩盤規制である。これは一般には豊臣家や徳川幕府による鉱山利権独占体制のためと云われるが、このお陰でヨーロッパ資本の参入を阻止出来、幕末・明治以降も独立を維持出来たのです。それに引き替え、規制を全くせず、外資のやりたい放題にさせた、アフリカ、東南アジア諸国は、みんなヨーロッパの植民地になってしまった。

 では日本にはこんな砂礫層はないでしょうか?金があるかどうかを別にすると、例えば関東平野の武蔵野台地とか、北関東の利根川上流域、甲府盆地。西日本では濃尾平野北部、京都府福知山盆地などが挙げられます。甲府盆地など、近くに甲州金山があったのだから、深く掘ると砂金が見つかるかも知れません。確かに富士山周辺は資源の宝庫とも云えるのです。
 なお、金鉱脈には上に挙げた5類型だけでなく、埋蔵金、裏金融鉱床、タックスヘヴン経由の隠匿鉱床、ビットコイン鉱床など様々なバリエーションがあります。
(14/05/02)