ローマ コロッセウムの沈下
技術士 横井和夫

 今朝何気なくネットを開くと、ロイターなどで「ローマコロッセウムで40pの沈下が発生」というニュース。 1時間ほど外出してもう一度見てみると、何処のサイトもみんな削除されているようで、さっぱり要領を得ない。ひょっとしてあのニュースは、ガセネタだったのでしょうか?しかし、コロッセウムが今の時代に沈下・傾斜することは、別に不思議でも何でもありません。むしろそういうことがあるということを、前提として保存・修復に努めるべきでしょう。
 前のニュースでは、いろんな筋の話しとして、周辺の交通量の増加で、その振動の所為だという説があった。又、基礎に亀裂が入っている、という情報もあった。しかし、少々交通量が増えたところで、ここ1年で40pも沈下したり、基礎にひびが入ったりするでしょうか?他に考えられる原因は、
1)コロッセウム自身の老朽化
2)地下の地盤の問題
の二つが考えられる。
1)
コロッセウムは実は煉瓦積みというか、コンクリートブロックを積み上げたようなもので、そもそも構造体としては脆弱である。だから、永年の間には少しずつずれてくる。一番大きい要因は季節毎の温度変化だが、地盤が軟弱な場合は交通振動も関係する。しかし、これは飽くまで外壁の話しであって、基礎の沈下には関係はない。
2)コロッセウムの地盤が東京・大阪並みに軟弱で、支持力を失って沈下した、という仮説。しかし、本当に軟弱地盤なら、2000年近く昔に作られたあんな大規模な構造物が、今まで立っていられたはずがない。築造途中で倒壊していても不思議ではない。それとローマの地盤はそんなに軟弱なんでしょうか?ローマの地盤を構成するのは、主に新第三紀の凝灰岩。これは自立性は高いが脆く削りやすい。そこで太古からローマでは、多数の洞窟が掘削された。古くは住居もあるが、その後地下墓地・地下教会・地下牢・下水道などが、各時代毎に築造されている。大戦中は防空壕も作られたかもしれない。というわけで、ローマの地下はいわば穴だらけなのだ。その中には、未だに存在が確認されていないものもあるはずだ。もしこのような古い洞窟がコロッセウムの下にあれば、1000数100年も経つと空洞周辺の緩みが進行し、地盤が沈下する可能性は高い。これに自動車交通による繰り返し荷重が加われば、洞窟周辺の変状は更に増大する。更にこの種の変状の危険なところは、単に地盤沈下に留まらず、ある日突然の洞窟崩壊=陥没を引き起こすことである。そして、これはコッセウムだけでなく、ローマ市全域にそのような危険があると云ってよいでしょう。陥没の予測は全く不可能ではないが、関係者がそのつもりで、周辺の観測を続けない限り、不可能と云ってよいでしょう。

 では、この種の洞窟は見つけられないでしょうか?それほど難しくはありません。コロッセウムで云えば、仮に40pの沈下が洞窟の所為だとすると、その洞窟の深さはせいぜい数m程度。断面も人間が十分入れる程度の大きさは持っている。それに地下水位は十分低いと仮定すると、地下レーダーや定常振動法探査で見つけられるでしょう。それ以前に、まずローマ市全域で、洞窟及び洞窟を掘削出来そうな凝灰岩の分布を調べることです(こんな初歩的なことは既にやられているとは思うが、それをやらないのが役人の東西共通した特性)。

(12/07/31)