次の課題は国際水紛争

 原油価格が下落しているのは喜ばしい事ですが、一つ懸念されることが有ります。某湾岸系SWFが、原油高騰で貯め込んだ資金を基に、主にアジア食糧生産への投資を始めたことです。今後食糧価格の一段の高騰が懸念されます。食糧の次は水への投資を始めるでしょう。湾岸諸国は叩きつぶして、アラビア人など、砂漠に追っ払った方が良いでしょう。(08/08/21)


 下で書いた問題(水資源を巡る国際紛争)について、もう少しまじめに考えてみましょう。まず、何故水資源紛争が起こるか?ですが、これは過去の戦争と同じく、資源の需要と供給のアンバランスが原因です。何故アンバランスが生じるかというと、原因は大きく次の二つが上げられます。
  1、発展途上国の人口増加と工業化
  2、地球温暖化
1、発展途上国の人口増加と工業化
 人間は水がなくては生きていけない。しかも人間生存に適した水の成分の幅は極めて小さく、それは地球上の水の数%しかないということです。現在の問題の一つ発展途上国、特にインド、バングラデシュ、アフリカを中心とした人口爆発があります。人口が増えれば水需要が増えるのは当たり前。更に、グローバル経済の影響で、これらの国の工業化意欲が高くなり、中国、インドのように工業化が大きく進んだ国が現れる。この二カ国の成功は、他の発展途上国を刺激せずにはおかない。従って、周辺途上国の工業化が進む。工業というものは大なり小なり水を必要とする。発展途上国が工業化の足がかりとするのは、大抵は繊維とか製鉄、金属加工などの素材産業。これらはみんな水を大量に消費する。ではITなどのハイテク産業なら水はいらないのではないか、と思うだろうが、とんでもない。ハイテク産業は重化学工業に負けず劣らず水を消費します。例えば、IC製造に不可欠な金属シリコンでは、その製造過程に大量の電気と高純度の水が必要である。以上のことから経済が現在のシステムで進む限り、水需要は増えても経ることはない。特にインドの工業化が更に進む数年後以降に、水需要はピークを迎えるでしょう。
2、地球温暖化
 中央アジアや中近東には砂漠地帯にも拘わらず、オアシス都市が発達する。オアシスとは湧水であるが、何も水が砂漠の上に吹き上げている訳ではない(昔は吹き出していた可能性も考えられるが)。大抵は井戸である。中東では井戸を掘り、それらをカナルと呼ぶトンネルでつなぎ、トンネルと井戸を組み合わせて、広域的な地下水脈を人工的に作っていたのである。ではこの地下水の起源は何であろうか?中東、中央アジアの平原の周囲には、コーカサス、カラコルム、ヒンズークシといった数1000m級の大山脈が連なる。これらの山脈に冬季降った雪は、高地では氷河を作り、水を固定する。春になると雪や氷河は溶け、そこから出た水は渓流を通じて流下し、砂漠に達すると地下に浸透する。砂漠は上から見ると一面の砂や石礫の固まりだが、地下数10mには岩盤が存在する。岩盤といってもそんなに堅くなくてよい、透水係数が10-5p/sec程度あればよいのである。これが水理基盤となってこの上に浸透水が滞留し、地下水面を作る。これがオアシスの素である。実はこのメカニズムは他の地域でも共通している。砂漠地帯では表層に草や樹木がないから、高地から流出してきた水は直ぐに砂の下に潜ってしまって見えなくなる。ところが非砂漠地帯では、高地からの水は草や樹木に補足されて一旦地表近くに滞留し、そこからじわじわと流出し、渓流や河川を形成する。ドナウ河やライン河はヨーロッパアルプス、長江はチベット高原、ガンジス河はヒマラヤ、ミシシッピーはロッキー、利根川は上越山地に降った雪がその素になっている。琵琶湖の水も素はといえば、比良、伊吹に降った雪なのである。
 ではこれに地球温暖化というメカニズムが作用するとどうなるか?当たり前だが、冬季の降雪量は減少し、氷河は縮小する。その結果、砂漠地帯では地下水位、非砂漠地帯では河川流量の低下となる。結果として水不足になる。これが続くと地球上から水がなくなるんじゃないか、とうろたえる慌て者がいるが、そんなことはない。地球上での水循環を考えれば、全体の水に変化はない。それどころか、彗星などの地球外からの水供給があるから、地球上の水は増えることはあっても減ることはない。では陸上で減った水はどこへ行ったのか?温暖化によって最近、ハリケーンや台風は年々大型化し、局地的にとてつもない大雨を降らす。またヨーロッパや北米で、季節はずれの大雨が降ることがある。陸上では分からないが、海上ではもっと雨が降っているはずだ。このようにして、地球上の水のバランスはとれているのである。ところが雨は雪と違って、直ぐに海に流れてしまう。従って、一過性の大雨は安定な水供給源にはならない。この結果、温暖化による水不足はボデブローのように効いてくるのである。
 
 ではどういう形で国際紛争が起こるだろうか?これはおおむね次の2段階が考えられる。
 1)国際河川での水利用権の争奪
 2)他国領地内の水資源の強奪
1)国際河川での水利用権の争奪
 国際河川とは複数の国の領内又は国境を流れる河川で、代表的なものに、ドナウ川、ライン川、ガンジス河、メコン河などがある。これらは、国際水路であると同時に、関係各国にとって貴重な水源でもある。これの水位が低下すれば、上流の国は支流にダムを造って囲い込むことを考えるだろう。そうなれば下流の流量が小さくなるから、下流の国にとっては死活問題である。そこに国際紛争が発生する可能性が出てくる。
2)他国領地内の水資源の強奪
 1)が更に進行すると隣国の河川を強奪しようか、というケースが出てくる。非現実的に見えるかもしれないが、必ずしもそうではない。例えばある国か地域で旱魃が進むと、農民は土地を離れ流民化する。国境が繋がっている場合流民の越境流入は避けられないそこに国際紛争が発生する。現在のスーダンダルフール紛争も、その原因は温暖化に伴う砂漠化の拡大である。

スーダンでは北部にアラブ系遊牧民、南部にアフリカ系農民が住んでいた。遊牧民と農民は、そもそも生活スタイル、サイクルが異なる。遊牧民は季節によって変化する水場や牧草地を求めて定期的に移動する。一方農民は一定地に居住して農作物を栽培する(焼き畑の場合は移動するが、土地が痩せるまでは定住する)。これも水の確保が命である。遊牧民と農民の居住範囲が重なるとどうなるだろうか?遊牧民の家畜によって農作物は食い荒らされる。逆に農民は土地を柵で囲いたがるから、家畜の自由な移動が出来なくなる。又、かつての牧草地が農民によって農地に変えられることもある。こうなれば家畜は餓えるしかない。これを防ぐために、遊牧民と農民とは生活空間を住み分けていたのである。温暖化によってサハラの砂漠化が進行すると、水を求めて双方が移動を始める。そして双方が接触する。本来接触してはならないものが接触する事によって紛争が始まるのである。


 ではこのような国際紛争は避けられないだろうか?知恵を働かせば、避けられないことはない。その最もよいモデルは実は日本なのである。戦国時代、日本は100年にわたって抗争を繰り返したが、抗争の原因はそもそも領土争いである。領土争いとは、実は水争いなのである。徳川幕府はこのややこしい問題を如何に解決したか?それから学べば何とか解決法が見つかるでしょう。
(07/11/02)

 今、将来の水資源争奪戦が一部で話題になっている。4、5年前のことだが、偶々NHKBSワールドニュースを見ていると、「20年後に、世界中で水資源の争奪に伴う紛争が発生する。そのための準備が必要である」という意味のCIAレポートが、先月大統領(ブッシュのこと)に提出されたことについてのデイべートがあった。それから暫くして大阪で国際水会議があった。前日に国連主催の国際シンポジウムが同志社であるから見に来い、という連絡が世話役の吉岡竜馬さんからあったので、久しぶりに京都まで出かけた。一応講演が終わって、何か質問という問いかけに、筆者は上記のCIAレポートを引いて「将来水を巡って国際紛争が生じた場合、国連はどう対応するか?」と発言した。それに対し国連側は「・・・当事国同士でよく話し合って解決してほしい」などと、なんとも締まらない回答。全く危機意識がなかったわけである。尤も今頃これを取り上げる日本の評論家もいい加減なもの。筆者など数年前からこんなことは知っていた。但し、その当時こんなことを云っても、気に止める人間は世間にはいなかったので、そのうちこちらも忘れてしまったが。
(07/10/30)


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