水島シールド事故の教訓
史上サイテーのお粗末事故

 


これから 

岡山県倉敷市水島コンビナートでのJX日鉱シールド工事で岡山地方労働基準局が、施工者のカジマと一次下請け業者を書類送検。理由は施工基面が施工計画書の計画基面と異なっていたからだ。どの程度異なっていたかは報道では判らない。
 施工誤差の許容値は15pで、施工面はそれを上回っていたということだ。労基の見解では、施工面が施工計画書どおりであれば事故は起こらなかったことになる。果たしてそうだろうか?施工誤差が仮に数10p単位あるいは1〜2m程度であれば、事態は殆ど変わらない。筆者は当初の施工計画そのものが誤っていたと考えている。筆者の計算によれば、本ルートで安全に施工するためには、トンネル施工基面をもう5m深くすべきで、1〜2m程度では事態は殆ど変わらない。
 労基がこんなとぼけた結論出した背景にはカジマやJXによる働きかけがあったことは容易に察せられる。カジマの言い分など、殆どヤクザの居直りにしか見えない。もっとも岡山や広島の役人など、これ自身ヤクザみたいなものだから、同病相哀れむといったところだろう。
 人身事故が起こっているから、警察は当然業上過失致死容疑で捜査すべきだし、検察もその線で起訴すべきなのだが、岡山とか広島など中四国筋の警察や検察は、行政や業者に丸め込まれているから、何処まで事故の本質に迫れるか、はなはだ心もとないのである。平成版火盗改めが必要なのだ。
(14/11/22)

 シールド本体と、後続のセグメントが回収出来たので、これから警察の現場検証が本格的に始まる。立件内容としては、業務上過失致死だが、その責任を何処まで遡るかが争点になる。裁判の行方を簡単に占って見る。カジマ側は事故は予見不能とし、不可抗力で争うだろう。根拠として@約30m上流で、1期工事を無事完成させている。A測量の結果、1期工事区間と、本件工事区間の地盤の相違を伺わせる具体的根拠は見られなかった。B追加工事で地盤調査を行はなくてはならない法的根拠はない。C当該水路は国際航路であり、船舶の交通が多く、長期間水路を占有しなくてはならない地盤調査を行うことは事実上不可能である。
 問題はこれに警察・検察がどう反論出来るか?裁判所がどう判断するか?である。これ結構難しく、意外にウヤムヤで終わってしまう可能性がある。以下は、筆者が検察側鑑定人になったとして、一つ一つ検討してみよう。
@は一見その通りだが、筆者が検察側鑑定人だったら、、1期工事施行記録の開示を求める。
Aは測量結果そのものに疑問があり、虚偽の疑いがある。13/08/28記事の図-3を見てみると、事故地点でのトンネル土被りは10m近くあり、且つ地山も洪積層になっている。しかし事故後、海上保安庁が行った調査では、せいぜい5mだ。これは大違いである。13/02/09記事で筆者が示した計算では、土被りは5mではアウト、7mでギリギリ、やっと落ち着くのは10mとなって、事故を説明出来ている。カジマが出した地質縦断図は、1期工事のそれをそのまま転用した疑いがある。つまり元請けゼネコンがやるべき、安全確認義務違反の疑いがある。鑑定人としては、当然図-3の作成経緯・根拠の説明を求めます。
Bもその通りかもしれないが、こんなことを云っているようでは、カジマはその辺の田舎ゼネコンと同レベルと思われても仕方がない。
Cこれは非常に重要な争点になる可能性がある。確かに長期間航路を占有するボーリング調査などを計画すれば、それこそ港湾管理者(岡山県港湾部)がOKを出さないケースは十分考えられる。このときカジマなりJXが、こんなデータがありますよ、と1期工事の資料を出せば、岡山県のクズ役人など、直ぐそれに載った可能性はある。この場合はカジマ・JX・岡山県港湾の共同正犯になる。鑑定人としては、この間の官・民のやりとりの記録を請求する。
 ではボーリングをやらなくては、トンネルルート下の地盤情報は入手出来なかっただろうか?とんでもない、筆者が12/02/20記事で述べている、サイスミックプロファイラーという道具を使えば、800m位のトンネル断面データを採るのは、せいぜい数時間。なんの問題も無いのである。カジマは「いやそんなもの存在は知らなかった」と、しらばっくれる可能性もあるが、カジマがそういう道具を知らない筈はない。知らなかったとすれば大恥だ。こんな物、物探会社の営業記録を見れば直ぐに判る。カジマに出入りしている地質調査会社に事情聴取すればイチコロだ。
 以上は起訴出来るかどうかまで。実は問題は起訴出来ても、担当する裁判官の資質によって、事態は大きく変わります。例えば、カジマが裁判所に、「これ以上問題が広がれば、日本の建設行政や政治体制にまで影響を与えます」なんて泣きついたら、裁判官もギクット来るかも知れない。筆者はこういった土木関連災害では、裁判官は結構後ろ向きになってきたのではないか、と疑っているのである。
(13/08/31)

教訓

 これは本年7月に引き上げられたセグメント。如何にも薄っぺらい感じがする。これで十分な鉄筋が入るのでしょうか?筆者もこんな薄いセグメントは見たことはない。頂部センターに何やら亀裂らしいものが見えるが、これが何かは写真だけでは判らない。もしクラックなら、セグメント頂部に強い鉛直圧が懸かったことになる。それは水圧以外に考えられない。下の黒っぽい土砂は、トンネル内に溜まった砂と思われる。粒子が揃った綺麗な砂で、如何にも沖積層らしい。もし洪積層なら、事故が起こってから長時間経ち、トンネル内でも水流が発生しているので、粒度淘汰が行われるため、むしろ砂では無く、礫の集合体になっているはずである(この点は下で吟味)。


図-1

 ネットを見ていると、面白いデータが見つかりました。図-2は事故後、海上保安庁が測定した事故現場付近の海底地形。図-3は、その後カジマが公表したトンネル縦断の地質断面図、図-4は地盤調査の結果です。

図-2 図-3 図-4

1、まず図-2から見て行きます。これは顕かな陥没です。陥没はその下に何らかの空洞が無ければ起こらない。この空洞とは、シールドトンネルですが、トンネル覆工が安定なら空洞にはならない。空洞が形成されるためには、トンネルの何処かに欠陥が生じる必要がある。つまり、陥没が出来る前に覆工の一部が破壊され、瞬時に海水とトンネルが導通状態になったと考えざるを得ない。ここでトンネル地山が沖積層であったか、洪積層であったか、が問題になる。
2、図-3と図-4は一体で考えなくてはならない。実はこれらの図面の根拠は、極めてあやふやなのである。まず図-2と図-3とでは、陥没地点の高さ(=土被り)が倍ぐらい違っている。又、図-4のボーリングの位置が何処かよく判らない。ヒョットすると、30m離れている一期工事のデータを、そのまま流用している可能性もある。つまり図-3は信用出来ないのである。
3、図-3では表層に明るい褐色、その下を濃い茶褐色の2層に分けている。前者を沖積層、後者を洪積層として、トンネルフォーメーション設定に間違いはなかったと云いたいのだろう。図-4にトンネル位置を単純に重ねると、確かにトンネル位置はGL-30〜35m付近に分布する洪積の砂礫層になる。しかし@トンネル発進点に対し、ボーリング位置が上流にある可能性、山側から海への地層の自然傾斜を考えると、層位的にはもっと上の地層になっている可能性がある。A図-3は沖積/洪積の境界を、単純に水平線で表しているが、そうなる根拠は何もない。沖積/洪積の境界は、約1.3万年前に出来た海面の停滞面を意味するだけである。この停滞面は当然浸食を受けるから凹凸が生じる。この内凹部は所謂「化石谷」*と云われるもので、ここには沖積層が堆積する。従って、沖積/洪積層境界が水平直線である保障はない。Bボーリングでは、洪積層は砂礫質である。図-1を見てみよう。ここでトンネル本体に残っていた土砂は、淘汰の良い砂である。崩壊地山が洪積層なら、その残土は砂礫質になるはずである。更に、事故後縦坑で揚水するから、事故地点から陸上方向への流速が生じる。これによって粒土淘汰が行われるため、細粒の砂は陸上部に押し流され、事故地点には粗粒の礫しか残存しなくてはならないはずである。処が現実は、事故地点には砂しか残っていない。つまり、陥没した土砂は洪積層ではない、ということだ。前に述べているが、水島地域の沖積層は、どちらかというと砂質土、又は砂混じりシルト層が多い。この場合、細粒のシルトや粘土分は洗い流されるので、図-1のような粒径均一な砂が残存する。C事故は異常が発生してから、せいぜい数分で発生している。岩盤でも陥没が起きるときは瞬時だが、それは切り羽のケースである。今回は切り羽より後ろのセグメントで陥没が生じている。これはトンネル背面の緩みでしか生じ得ない。地山が洪積層であれば、緩みが5m上の地表に達するのに、数分ということはあり得ない。洪積層である大阪層群に掘削された、大阪近郊の旧陸軍トンネル跡では、陥没が生じるのに数年〜数10年懸かっている。

 以上から今回の事故の真の原因を考えてみましょう。筆者は次の二つを挙げます。
 1)極度のコストパフォーマンス主義
 2)工法過信

1)極度のコストパフォーマンス主義
 バブル崩壊以降、この業界にも広がったのがこれです。持ってきたのはアメリカ帰りの三流経済学者竹中平蔵。それを田原総一郎のようなインチキジャーナリストが持ち上げ、それに自民橋本や、アホの経団連が騙されて、世間に広がった。これを更に輪を掛けたのが、00年以降のコイズミ・竹中改革。鹿島もコイズミ支持企業だから、NOとは云えない。竹中やオリックス宮内とか、引っ越し屋の女オーナーの云うとおりに、一所懸命社内リストラに励んだのでしょう。そのあげくがこのザマだ。この主義では、直接売り上げに関与するか、代替不可能な部分以外は全て社外外注にするべきと説く。日本の事業会社やゼネコンでは、地質・地盤関係技術者は直接工事に関係しないから、代替可能と判断され、特に90年代を通じて、みんなリストラされてしまった。
2)工法過信
 70年のオイルショック、その後の円高から70年代には、重機械メーカーが建設産業に目を付けだし、建設工法の機械化・自動化が始まった。更に90年代になると、これにコンピューターが加わり、建設工事のIT化の時代となった。こうなると建設工事の実態は、ブラックボックス化してしまう。更に技術者のリストラが進むと、物事を批判的に見ることが出来なくなる。ここにメーカーが、「これさえ使えば問題はみんな解決ですよ」と売り込んでくれば、みんなそれに乗ってしまうのである。今回の事故でも、泥水加圧シールドが最も安全と言い聞かされると、ルートの地盤調査もせずに、「これさえあれば大丈夫」と、思いこんでしまったのである。同じ安全性でも、工法の安全性と施工の安全性は全く違う、と言うことがいつの間にか消えてしまったのだ。これが「工法過信主義」である。福島第一原発の海上汚染水漏れ事故でも、ある一カ所でLWの効果があったと思うと、全部にそれを広げてしまった事が過ちの原因である。どんな工法にも万全と言うモノはあり得ない。それが能力を発揮出来るには、施工者がその限界をわきまえる事が重要なのである。
(13/08/28) 


JX日鉱水島シールド事故

 昨年2月に起こったこの事故から丁度1年。昨日毎日新聞には下の画とともに「薄い壁面 原因か」と言う見出しで、事故原因についての記事が掲載されていました。それによると、使用されていたセグメント(RC製)は実績のない広島の業者が製造したもので、通常のものより2割ほど薄かったという。その結果、強度が標準品に比べ著しく低下していた、と鹿島が説明。このセグメントは広島の業者が作ったものを、事業者なり施工者(鹿島)が採用したのか、それとも鹿島の要求に合わせて業者が作ったものかは、記事だけでは判別出来ない。
 なお、事故発生直後のネットには「韓国製セグメントを使っていた」というカキコミがあった。しかし製品が必要断面・強度を満たしているかどうかについては、元請けであるカジマが一意的に責任を負っているわけだから、何処製かどうかは問題ではない。子供の言い訳にもならない責任転嫁はやめておいた方が良い。それはさておき、セグメントの強度不足だけが事故の本質的原因かどうかについては、筆者はなお疑問を持っている。セグメントの断面不足は被害を助長拡大した可能性はあるが、これが原因でシールドの破断には繋がらない。


 今回の事故は、坑内に一気に海水がなだれ込んだことで発生している。と言うことは、トンネルと海底との間に何らかの連結があったことを意味する。下記1、2はいずれもセグメント本体だけの問題であって、海水は無関係である。従って、これは本件事故原因とは見なされない。従って3のみが候補として残る。問題はその緩みが如何にして発生したか、である。
 筆者の率直な見解では、トンネル土被りを2D、海底から10m程度確保する設計なら、地山はずっと安定し、問題なく施工出来たような気がする。根本的には、トンネルの計画ミスである。

 セグメントの強度が不足していたとして、何に対して不足していたのか、が報道では読みとれない。強度不足でセグメントが破壊する原因には次の3者があげられます。
1、セグメントのバックリング(座掘)
 上図の様にシールドマシンは背後のセグメントを反力として推進します。このとき、シールドの推進圧が従来通りで、セグメントが薄ければ、セグメントに懸かる軸力はセグメントの圧縮強度を上回り座掘する可能性はあります。しかし幾ら何でも、そんな初歩的なミスはないでしょう。設計段階でセグメントの断面積は判り、それに合わせてマシンを設計するから、許容応力以上の力がセグメントに加わることはあり得ない。
2、セグメントのねじれ
 トンネルの軸線に対しマシンが偏心するとセグメントに偏荷重が懸かる。これはトンネルに対し曲げ応力を発生させる。このときセグメントの断面が小さければ、セグメントの曲げ破壊を生ずることがある。マシンの制御系に異常が発生すれば(これは全くないとは云えない)、一般にはマシンの推進はコンピューターで制御され、マシンの推進方向は地上の中央制御室にあるコンピューターデイスプレーに表示される。従って異常値が出れば直ぐに警告音が出る。しかしそういう情報はない。従ってこれも考え難い。
3、過大な外力によるセグメントの圧壊
 トンネル覆工に加わる外力の代表的なものは地圧です。地圧は地表からの土荷重ではなく、緩み地圧です。緩み地圧とはトンネル掘削による応力解放で、トンネル外周に発生する緩み域による地圧で、次式で表されます。


 ここではこの緩み高さを、上式によって概算求めてみましょう。
1)基準面
 とりあえず地表面をEL±0とします。
 (1)縦坑底面     EL-34m
 (2)トンネル頂(PH)    縦坑にはベースコンクリートが1m位は打っているはず。それのトンネル管径4.8mを加え、縦坑底面より6m上がりとし
              PH=EL-28mとする。
 (3)海底面高    トンネル頂より土被りHを加えた値とする。
 (4)海面高      地表面より2m下がりとし
             EL-2m  とする。
2)地盤定数
 (1)土の単位体積重量     γ=20KN/m3
 (2)地盤の粘着力  事故発生後直ぐに陥没が発生しているから事実上粘着力は無視出来る。
             C=0KN/m2
 (3)地盤の内部摩擦角 
  これは「道路橋示方書」式で求める(但し旧基準)。
             φ=√15N+15             
 瀬戸内地方では海面下30数mの深さに、沖積基盤層としてN値50以上の密実な砂礫層が分布することが多い。こんな密実な砂礫層が簡単に崩壊する訳がない。この上にN値20〜30位の砂・砂礫・粘性土の互層が分布することがある。今回の崩壊層はここで始まった可能性が高い。N値を中間の25とすると
             φ=√15*25+15 ≒34゜
 管径r0を2.4mとすると、作用荷重幅B1は次の通りとなる。
             B1=2.4*cot((45゜+17)/2)=2.4*1.664≒4.0m
3)換算土被りH1の計算
 上載荷重P0は海水面からの水圧とする。
              P0=γw・Hw=γw(PH-H)=10.0*(28-H)
 計算はH=5、7、10、15mの4通りで行った。

H(m) P0(KN/m2) P0/γ(m) H1(m)
5 230 11.5 16/5
7 210 10.5 17.5
10 180 9.0 19.0
15 130 6.5 21.5

4)緩み高さの計算
 緩み高さ計算式で
         η=ーK0tanφ(H1/B1)とする。
 (1)H=5.0mのとき    H=16,5m
   η=-tan(34)(16.5/4.0)=-2.78
    eη=0.063
    h0={(4.0*1)/(tan34)}(1-0.063)+(230/20)*0.063=6.29m>5.0m       Pe=20*5.0=100KN/m2                           
 (2)H=7.0mのとき    H=17.5m
   η=-tan(34)(17.5/4.0)=-2.95
    eη=0.052
    h0={(4.0*1)/(tan34)}(1-0.052)+(210/20)*0.052=6.17m<7.0m       Pe=20*6.17=123KN/m2                          
 (3)H=10.0mのとき    H=19.0m
   η=-tan(34)(19/4.0)=-3.2
    eη=0.041
    h0={(4.0*1)/(tan34)}(1-0.041)+(180/20)*0.041=6.07m<10.0m      Pe=20*6.07=121KN/m2                            
 (4)H=15.0mのとき    H=21.5m
   η=-tan(34)(21.5/4.0)=-3.63
    eη=0.027
    h0={(4.0*1)/(tan34)}(1-0.027)+(180/20)*0.027=5.95m<15.0m      Pe=20*5.95=119KN/m2

 以上のように土被り高Hが5〜6m程度では緩みによって切り羽や天盤が崩壊する危険が大きく、7m程度でも余裕はない。概ね10m(2D)以上でやっと落ち着くようだ。又、緩み地圧はH>h0の状態でも120KN/m2前後が作用する。地山が未固結土砂で、土被り高に余裕が無いと、緩みで発生した僅かなクラックが地表に到達する事がある。本件のような海底トンネルでそのようなことが起きると、トンネルには海面からの水圧がまともに作用する。その値は概ね10*(28ー2)=260KN/m2となり、緩み地圧の倍以上の値に達する。これではセグメントの厚さが少々分厚くても歯が立たない。あと5〜10mフォーメーションを下げれば、おそらく問題なく施工出来ただろう。その理由は土被りが稼げる事もあるが、トンネル地山がもっと安定な洪積層に変わることが期待されるからである*。それに要する費用は縦坑が少し深くなるだけで、トンネル本体には殆ど影響しない。一番安上がりの方法である。
*これなど、縦坑できちんとしたボーリングをやっておれば、一目瞭然なのである。カジマはそういう初歩さえ、手抜きしていた可能性がある。東電福島第一原発事故がなかなか拉致がが空かないのは、東電が土木をカジマなどという官僚主義二流会社にマル投げしていたからだ。
(13/02/09)


 JX日鉱日石水島基地でのシールド工事で異常出水が生じ、犠牲者も出たため大騒ぎ。しかし、筆者はこれは単純ミスによる、お粗末事故と見ています。土木屋が過去の経験を過信し、現実を把握することを怠ったことが原因です。これをカバーするのが企業内技術士です。鹿島には技術士がいなかったのでしょうか?そんなことはない。掃いて捨てるほどいるはずです。技術士に技術士本来の仕事をさせない企業風土があるのでしょう。この事故の根本的問題はそこにあります。
 本シールドは、岡山県水島工業地帯にある石油コンビナート内の、二つの工場を連結する河底トンネル。発進側に34mの縦坑を掘削し、そこからシールドを発進している。シールド外径は4.5m。トンネルが横断しようとした水路は、おそらく国際河川だろう。これが様々な意味で工法選定等を制約した可能性はある。

 
(02/08 NHK)

        02/09毎日新聞


 セグメントが破断していた。本日の報道である。シールド本体後方のセグメントが破断していたことが確認された。 何故破断したのか?新聞ではあれこれ云っています。例えば原因不明の力が作用したとか、裏込め注入をやっていなかったとか。力に原因不明はありません。裏込め注入は一般にはセグメント建て込みと同時にはやらないもので、いくらかのタイムラグがあるのは当たり前。しかし、周辺が安定(自立性)地山なら、注入が遅れたと云って直ちに崩壊に繋がることはあり得ない。そもそも裏込め注入とは掘削壁とセグメントの間に出来る隙間を充填するもので、セグメントの強度を補強するものではない。あんなものちょっと水圧を加えれば簡単に座掘してしまう。又、切羽や天盤の崩壊が始まっていれば、幾ら裏込め注入をやってところで、薬液が漏出するだけで何の意味もない。セグメントの破断の原因は、海面からの水圧が、セグメントに直接作用したことは顕かである。これが発生するには、シールドと海底面を繋ぐ経路が形成されていなければならない。つまり、セグメント破断前の段階から切羽崩壊が始まり、それが海底に連結したことが、坑内への出水、海底面の陥没の原因となったのである。しかし、このメカニズムは筆者が02/10に説明している。それから何の進展もない。
(12/02/21)

 この事故を最初眼にしたとき、昔あったヘルゴランド海峡トンネルを思い出しました。ヘルゴランド海峡トンネルはデンマーク領ヘルゴランド島とスウェーデンを結ぶ海底トンネルで、英仏海峡トンネルとほぼ同時期に着工されました。工法は日本が最も得意とする大口径シールド工法(マシンは日本の川崎重工製じゃなかったか?)。ところが、海峡の途中で切り羽が止まってしまった。理由は海峡の真ん中に氷堆石(チル)が堆積していて、それにぶつかったのである。氷堆石とはかつての氷河時代(おおよそ2万年前)、海水面が低下し氷河が前進してくると、氷河は周囲の岩盤を削り取って、岩石を運んでくる。その後気候が温暖化すると、氷河は後退するが、氷河が運んできた岩石はその場に取り残される。これが氷堆石である。一般には雑多な岩石の集合体で、空隙も多く固結していない。その後の海水面の上昇で、これは海底の泥土の下に埋もれる。
 これにシールドがぶつかると、湧水・切羽崩壊が始まって掘進が不可能になる。対策としてコンサルタントのベクテルが提案したのは、氷堆石の部分を埋め立てて人工島を作り、そこから薬液注入を行って、地山を固結しようとするものだった。しかし、このような工法が採用されたとは思えない。何故ならヘルゴランド海峡は国際海峡で、そこに人工島を作れば航行の自由を妨げることになる。人工島は当然海峡の自然環境を悪化させる。海峡両岸のデンマーク、スウェーデンは、世界でも屈指の環境保護団体パワーの強い国である。両国とも容易にOKは出さないだろう。最終的にどうやったのか承知していないが、私なら日本流のアンブレラ工法(青函トンネルでやった工法)を採用して氷堆石区間を突破します。
 さて問題は、何故これの存在を事前に気がつかなかったのでしょうか?北欧の第四紀気候変動に関する初歩的知識があれば、氷堆石が存在する可能性に気づいたと思われますが、やはり事前の地質調査を省略したからでしょう*。その理由の一つに国際海峡があります。地質調査でも一時的に航路制限が必要だから、関係各国の協議・合意が必要になります。その手続きは面倒だし、合意が得られる確証もない。だから面倒なことは省いてしまった。もう一つは、日本の場合と同じ、土木屋の驕り・慢心が背景にあったものと推察されます。その結果が工事のストップ、工期の遅延、コストアップに繋がったのです。
*弾性派探査だけでもやっておけば、ここに何か異常層がある、ぐらいの見当は付けられた(氷堆石層と周囲の沖積層との弾性派速度には十分な差があると考えられる)。
 では、何故鹿島もJXも地質調査をしなかったのでしょうか?理由はヘルゴランド海峡のケースと同じ、航路制限に伴う諸手続きがネックになったものと思われます。特にボーリングなどをやろうとするものなら、航路管理者は岡山県だから、端から相手にされなかったケースもあり得る(自分があれこれ書類を持って歩くのが面倒だから、「調査しなけりゃ工事はでけんのかのー!」などと脅されたかもしれない・・・中国筋にはよくある話し)。更に例え地質調査でも、山陽筋ではたちまち漁業組合がやってきて、「漁業補償をしろ、さもなきゃ地質調査はさせんぞ」なんて脅しを掛けるケースもある。特に岡山・広島辺りは、本四で相当味を占めている。又、国際海峡の場合、水深は20〜30mになる。ボーリングでも相当大がかりな設備が必要(一日あたりリース料が100〜200万円ぐらいになる)だし、船に衝突されるおそれがあるから保険にも入っておかなけりゃならない。そしてここでも登場するのが漁業組合。やれ設置に必要な潜水夫、やれ警戒船だ、と言ってぼったくられるのである。それが嫌で地質調査をやらなかった可能性は大。
 では、どうしても出来ないのか?私なら航路部の地質調査を音波探査でクリアーします。特に最近では、サイスミックプロファイラーという高エネルギー・高分解能の便利な機械が開発されているから、相当細かい地層の分離も可能です。これによる反射断面図と、陸上部・・・縦坑・・・でのボーリング結果を付き合わせれば、十分精度の高い地質断面図が得られたはずです。現地作業はせいぜい1〜2時間。船が通らない時間帯を狙えば問題ない。しかし、この程度のことは鹿島なら十分ご承知の筈。何故やらなかったのでしょう?それが疑問です。それとせっかく最新技術で地質を判読しても、それを読みとる眼、それを設計・施工計画に反映させる知恵が無ければ無駄である。調査は調査、施工は施工、という思い上がりが現場にあれば、どんなことをやっても、ネコに小判、豚に真珠の例えで、何にもならない。
 それでも、トンネルフォーメーションをせめてあと5m下げておけば・・・土被りを2D以上稼いでおけば・・・、おそらく問題なく施工出来たでしょう。
(12/02/20)

 どうも鹿島の発表を見ていると、鹿島自身が事態の本質、つまり地盤状況を把握出来ず、それによって対策が混乱しているように見える。
1、当初は当該地盤を軟弱地盤とは見ていなかった。それはシールドの設計が軟弱地盤対応ではない(鹿島の説明)ことから顕か。
2、その後、水島地区が軟弱地盤と認識していなかったと説明。これがノーズダウン説に繋がる(02/14)。
3、ところがまた一転して掘削地盤は軟弱地盤ではなかったと説明(02/15)。
 仮に、トンネルルート上で地質調査は行われていなくても、縦坑ではボーリングぐらいやっているはずである。それもやっていないとすれば大問題だが、それでも縦坑掘削時で土質判定を行えば・・・何も大げさなことではない。ちょっとコツを呑み込めば誰でも出来る・・・おおよその地盤構成ぐらいは掴める。それによってシールド地盤の見当・・・軟弱地盤かそうでないか、砂か砂礫かの違い・・・ぐらいは付けられるのである。しかし鹿島の説明では、それすらも行われていなかったようだ。
 その原因として考えられるのは、バブル崩壊後の過度の効率至上主義が上げられる。昔のゼネコンには土質や地質という間接部門の技術者(社内コンサルタント)がいたものだ。これがバブル崩壊後みんなリストラされてしまって、残るは工事屋と営業屋・経理屋ばっかり。工事屋も地盤がどうという本質的な問題は無視し・・・そうしないと社内で出世出来ない・・・、土方のケツの追い回しと毎日の出来高稼ぎばっかりになってしまった。土木屋が建築屋のまねごとを始めたのである。
 その結果が今回の事故に繋がったのだろう。自業自得だ。
(12/02/17)

 鹿島は掘削データからノーズダウンを否定。掘削データでは、シールドは安定な砂礫層を掘削していたとされる。問題はこの中身である。掘削データで判るのは、ジャッキの反力とか、シールドの回転速度、推進量など、全体のトータル量でしかない。例えば、シールドの下3/4が安定層で、上1/4が崩壊層であったとしても、その違いは掘削データには現れない。それは02/10記事で表したとおり、シールド天端に僅かでも崩壊層があれば、天盤崩壊は生じるのである。
 何よりも重要なことは、事故直後の保安庁調査で、シールド先端付近に確認された窪地である。これがシールド先端部分で生じた切羽崩壊によることは疑う余地はない。安定な砂礫層でこういう現象が起こることもあり得ない。シールド盤付近に緩い砂質土層があって、それによる逸泥や地山の緩み拡大が今回崩壊の原因になったのである。
(12/02/16)

 鹿島は土圧だけを考えて、世の中には水圧というものがあることに考えが及ばなかったようだ。しかし、これ中学校か高校の理科の問題。本日報道の鹿島の説明では、シールドマシンは、シールド前面には土圧しか作用しないという前提で設計されたようだ。これはシールド前後の力のバランスを有効応力だけで考え、全応力を無視した結果である。どうにも評価のしようがない。水島地区は軟弱地盤ではないと云ったり、どうも東京の人間は西日本の地盤を理解していないようなのだ。
 鹿島はノーズダウン現象が起こった、などという説明をしているが、私はこれまでこんな言葉を聞いたことがない。鹿島が勝手に作ったか、外国にある言葉を我田引水で引き抜いてきたのではないか?そもそも鹿島は、当該地盤を安定な砂礫層で軟弱地盤ではないと考えていた。通常軟弱地盤は安定層の上に分布する。その境界に突っ込んできたのなら、シールドは上向きになるはずである。つまり、ノーズアップはあってもノーズダウンはあり得ない。
(12/02/15)

 事故時、ブレーカーが跳んで電源が切れたという報道がある。あたかも、電源のダウンが出水原因とするようだ。果たしてそれだけだろうか?電源ダウンで出水が発生したのか、出水によって電源がダウンしたのか、判らないのである。
 シールドトンネルの場合、切羽には常に水圧が作用する。トンネルの深さを水面下30m付近と仮定すると、切羽には30t/uの水圧が作用する。これを泥水圧とか泥土圧でバランスを採って、切羽を安定に保って推進するのがシールド工法の現在の主流である。電源がダウンすれば、ポンプも停止するので、地山側と坑内との水圧差が大きくなる。この水圧差で切羽付近の地山が崩壊し、最悪の場合陥没に至る。しかし、通常シールドマシンの運転系には非常用電源が併設されており、メインが切れたところで、一気に全システムが稼働不能になることはない。メインが復旧するまでの時間稼ぎは十分可能なのである。この点は鹿島だって十分準備しているはずである。していないとすれば、話しにならない。更に電源が一時的に切れたところで、それが直ちに陥没に繋がるわけではない。実際、トンネル内電源トラブルはしょっちゅう起こっているが、その度に陥没は生じていない。陥没原因の殆どは、施工と地山との不具合である。電源などゴミみたいなものだ。
 又、土被りが十分あって、地山が安定で、天盤に不透水層があれば・・・これがない場合には、薬液注入等地盤改良によって人工的に作る・・・、出水や土砂流出はあったとしても、それは局所にかぎられ、陥没に至ることはまずない。陥没が発生するのは、改良をやっていなかったり、不完全であった場合なのである。本件で云えば、当に切羽地山が不安定だった、と云わざるを得ない。
 問題は、電源のダウンが異常出水の原因なのか、異常出水が電源ダウンを招いたのか、である。卵が先か鶏が先か、の話しに近いが、技術の世界は卵と鶏を厳密に区別しなくてはならない。
 報道(02/10毎日新聞)によれば、
1)正午過ぎ現場責任者の淵原さんが、現場作業員一人と伴にトンネル内に入った。淵原さんは通常地上勤務だった。
2)0時17分淵原さんから地上に「漏電」「ブレーカー」「とにかく来てくれ」という連絡を送っていた。
3)連絡を受けた作業員が縦坑に駆けつけると、縦坑内は水没した状態だった。
 そもそも地上勤務だった淵原さんが、何故(大急ぎで)トンネルに向かったのか?それも作業員を伴ってである。正午であれば一旦職場はくつろぐ時間帯である。それを中断して、作業員を伴って坑内に入るということは、通常の巡回とは考えられない。おそらく、既に切り羽では何らかの異常事態が発生し、それが淵原さんの携帯に連絡されたためではないだろうか。つまり、淵原さんらが切羽に到達した時点で出水は生じており、これが坑内電源のダウン・・・坑内電気系統が防水仕様になっていたかも問題・・・に繋がったと考えられる。
 以上から想定される事故状況は次の通りである。
1)正午前から切羽の崩壊が始まっていた。その原因は不明だが、なんらかの理由による逸泥の可能性が大。
2)切羽崩壊が始まると、出水量が排泥(水)管の容量をオーバーするので、水や泥がチェンバーから坑内に流出する。これは異常事態である。これを現場は地上の淵原さんに連絡する。そこで、淵原さんは大慌てで切羽に駆けつける。
3)この状態は、時間の経緯と伴に加速度的に進展する。淵原さんが切羽に到着したときには既に遅く、出水により電源がダウンしていた。
4)切羽崩壊が海底迄達すると陥没になる。陥没が起こると、水や土砂が一気に坑内に流入する。そうなればもう助からない。電源喪失などどうでも良いゴミ問題なのである。
5)あるシロート学者は「想定が甘かった」とか「避難マニュアルがなかった」とか、他人事みたいなコメントを発しているが、水底トンネルで切羽崩壊が始まれば、あとはマニュアル云々の問題ではない。
 つまり卵は異常出水だったのである。
  
 これを判りやすく図で説明しましょう。仮に地盤が崩壊層と安定層の2層構造で、その境界付近にシールドが突っ込んできたとします。図の(イ)は事前に地質調査を行い、両者の境界を確認し、トンネル天盤地盤を薬液注入等で固めたケースです。この場合、天盤の崩壊が無いのでシールドは安全に運転出来ます。安定層でも水で飽和した砂礫などでは崩壊することがあります。その場合でも、崩壊部分は図の破線とシールドに挟まれた部分だけになるので、掘削は困難するが大事故には繋がらない。
 一方地質調査も行わず、シールド切羽が崩壊層と安定層との境界に、メクラ滅法突っ込んで来たとします。そこで起こるのが切羽崩壊です。これが一旦始まると止めることは出来ないので、あとは成り行きまかせ。崩壊が地表に達すると、地表面の陥没になります。

 この差は非常に際どい話しですが、この際どさを如何に事前に予測し、対策工でクリアーするかが、天国と地獄の分かれ目なのだ。土木も決していい加減な世界ではない。場合によっては、p、oを争うこともある。そこが判っていない人間が増えてきたのではないか?

 誰がどう云おうと、現象から見てトンネル切羽と海底が繋がってしまった。しかもこれは陥没を伴っている。施工中の事故だから、本件事故の根本原因に、海底及び、トンネル区間での地山評価に問題があったことは疑いようがない。日本土木技術の劣化の象徴である。
(12/02/10) 

  しかし驚きましたねえ。このトンネル工事、10年前も今回もルート沿いでは地質調査をしていなかったらしい。私はせめて1期工事でもやっていたと思っていたのですが。鹿島の言い分は
1、A工場とB工場は”比較的”近かった。
2、1期工事では問題は起きなかった。
3、地質は1期工事と大差なかった。
4、地質調査をしなくても法令には違反していない。
 盗人猛々しいとはこういうことを云うのでしょう。殆どヤクザの居直りに匹敵します。
1、について
 A工場とB工場との距離は約800mもある。山岳トンネルではあるまいし、都市トンネルで800mはとても短いとは云えない(山岳トンネルでも、800mもあれば弾性波探査や先進ボーリングで地質調査をやる)。陸上部でさえ、数10乃至100数10m置きにはボーリングを行う。
2について 
 単に運が良かっただけではないか?本当に問題がなかったのかどうか、今後検証が必要*。
3、について
 地質調査もしていないのに、今回工事での地質が1期工事と大差がなかったと、どうして云えるのか?矛盾撞着も甚だしい。
4、について
 確かに法律は地質調査のピッチとか、方法とか時期のような細目は決めていないが、それは足らない部分は技術者の経験に基づく判断・良心によって埋め合わせるべきだ、という考えに基づいている。また、法律がそういう曖昧表現を採ることは、実は技術者側からの要望でもあったのだ。あまり法律が細目まで規定すると、技術者が法律さえ守れば事が済むという安易な気持ちに陥り、却って技術の堕落を招くからである。そういういきさつを無視して、責任を法律不備に持っていくなど、とんでもない会社だ。法令通りでトンネルが掘れるなら、現場事務所長は弁護士か司法書士にやらせばよい。

 鹿島も「まことに申し訳なかった」、と素直に謝れば、少しは同情してやってもよかったが、本日の鹿島会見で全ては帳消しだ。法律には違反していなくても、「トンネル標準示方書」に抵触している可能性はある。示方書も護れない会社は技術力が無い証拠**。こういう会社は1年ほど指名停止にして、公共事業から追い出せばよい。おそらく民間企業でも鹿島見直し気運が高まってくるだろう。何故日本人はこうなってしまったのか?素直に謝れないということは、係争になったとき・・・当然本件は刑事・民事の係争になる***・・・自分が不利になる根拠を残さないためである。謝ってしまえば、莫大な慰謝料・・・アメリカではそうだが、日本では大したことはない・・・もあるが、株価が下落するとか、株主代表訴訟が起こってしまうので、それが怖くて謝れないのである。これも又、コイズミ改革以降の市場原理主義経済の影響である。市場原理主義は、個人の権利など無視するのが当然。ヤクザの居直りが正当化されるシステムなのである。その結果、犠牲者はマネー(損失)で換算される。
 そもそも鹿島はJXに対し、地質調査の実施を要求して良い立場にあったのだ。何故しなかったのでしょう。例えば、ライバル会社と合い見積もりになったとしましょう。プロポーザル段階でライバル会社が、地質調査の必要性を指摘したとする。800m近い国際航路で地質調査をすれば、あっという間にン千万のコストが必要になる。そこに鹿島が、ウチの工法なら地質調査は必要ありませんよ、と売り込みに行けば、JXのようなアホ会社相手では結果は見るまでもない。現実はこんなところでしょう。この理由も、上に挙げた市場原理主義経済の副作用なのだ。

*1期工事との離隔は30mほどあったというから、前工事による地山の緩みの可能性は無いでしょう。おそらく地盤の不均質性によるものでしょう。
**なおこんなことを云う二流人物は、企業だけでなく役人にも増えている。特に岩国市とか、中国筋に多い。
***今現場では濁水の浄化作業が実施されているが、この後潜水夫が潜って遺体を確認すれば、警察は直ちに捜査に着手するだろう。容疑は業務上過失致死。捜査対象は鹿島工事事務所だけとは限らない。支店・本社も対象となる可能性もある。JXも他人事ではない。但し、捜査が鹿島本社に及ぶか、は疑問。何処かから、ちょっかいが入る。当たり前だが小沢一郎辺りからだ。
(12/02/09)

 水島地域の地盤は、筆者自身は40年程前に、中国電力水島火力増設工事でプレシオメーター測定に行ったことがあるだけで、あまり詳しくはないが、要するに瀬戸内沿岸によく見られる河口デルタ地帯・・・水島は高梁川のデルタ・・・で、典型的な軟弱地盤地帯である。軟弱地盤を構成するものは、新しい沖積層だが、沖積層の厚さは30mぐらい、40mを越えることはない。その下には安定な洪積地盤が分布する。場所によっては、基盤の花崗岩が沖積層の中に突出する事もある。沖積層も、この付近は高梁川の河口デルタだから、古高梁川の河道変動で、地盤は短距離で大きく変化することがある。但し軟弱地盤でも、土質が粘性土か砂質土かで挙動は異なる。筆者の記憶では水島工業地帯は、どちらかと言えば、シルト質の細かい砂が優勢な、ちなみに液状化しやすい砂っぽい印象があった。
 シールド工法の詳細は伝えられていないが、現在の常識なら、おそらく泥水加圧か泥土圧(土圧バランス)工法。いずれも工事実績も多く、技術的には成熟しており、最も安全性の高い工法である。しかし、これは施工環境が一定の条件を満たしている場合であって、何時もそうとは限らない。環境が安全条件を満たしていなければ、それに応じた対策を採らねばならない。
1、トンネルまでの土被りが5〜15mと云われる。これが一つ問題である。通常のトンネルでは、有効土被りは1〜1.5D(D;トンネル直径)以上が必要とされる*。これは山岳トンネルへの値であって、軟弱地盤ではより大きい値が取られるべきである。仮に掘削径が4.5mで土被りが5mそこそこであれば、陸上部でも逸泥を発生し、切り羽崩壊・陥没発生の危険性が大になる・・・みんな経験済み。薬液注入やらなんやらで、ガチガチに固めて施工する。果たして薬注は行われたのでしょうか?行われたとしても、どのような方法で、どの程度おこなわれたか、が問題である。
2、隣接して1期工事のトンネルがあった。既設トンネルとの離隔がどの程度あったか、既設トンネル施工時になにか異常がなかったか、既設トンネル工事では薬注が行われていたか、などが問題として残る。
 一般に双設トンネルの場合、双方の応力干渉を防ぐために、一定の離隔を設けることが必要である。旧日本道路公団設計要領では、これについてctcを原則3D以上とし、これ以下については、別途検討を行うか補助工法を適用することを求めている。本トンネルでは4.5×3=13.5mとなる。これは山岳トンネルについてで、シールドトンネルは別だ、という考えもあるが、シールドでも掘削部分とセグメントの間にはクリアランスがあるので、周辺には緩みが生じる。これがそれぞれに影響を与えることになる。無論、裏込め注入はやるのだが、あんなもの気休めで、まともに信用しているものは誰もいない。1期工事との間隔は最低15mは確保すべきで、それ以下ではかなりの危険を覚悟しなくてはならないということだ。
3、トンネルに流入した水は海水である。当初、陸水の可能性も考えたが・・・この場合はメカニズムが全く異なる・・・、報道では海水ということだ。であれば、切り羽と海底が繋がってしまったということだ。こういうケースは海底地盤が粘性土ではあまり考え難く、砂質土層の場合に起こりやすい。
4、本日NHKの報道で、トンネル先端付近の地盤に、直径およそ20m、深さ最大3.5mの窪地があることが保安庁の調査で判った。この窪地が始めからあったものか(例えば浚渫工事で出来たものか)、工事で発生したものか、が問題になる。
 本水路は国際河川と考えられるので、港湾当局は定期的に浚渫を行う、と同時に測量もやっている。又、事業者であるJX日鉱日石も、施工者である鹿島も、工事計画時にルート沿いの測量を行っているはずである。もともとあったものならその時点で把握されていたはずで、それは施工計画にも反映されていなければならない(例えば抑え盛土をやるとか)。それがないとすれば、この窪地は工事によって生じたものと考えざるを得ない。

 以上の点から考えられる崩壊メカニズムは以下のとおりである。
1、1期工事で周辺にゆるみ域を発生させた。周辺は緩い砂っぽい地盤だった。
2、そこへ、無対策でシールドを発進させたところ、切羽崩壊を生じた。このメカニズムは少々ややこしくて、例えば泥水管理が不味かったとか、過剰な泥水圧を掛けたとか、幾つかの要因は考えられるが、あまりたいした話しではない。とにかく地山を緩ませたのが最大要因と考えられる。そのポイントが上記2の1期トンネルとの離隔である。
3、一旦切羽崩壊が始まると、ズリは出てくるが、切羽は一向に進まないという状態になる。この時点で施工者は異常に気づくべきなのだが。切羽崩壊は重力の法則によって、上方に拡大していく。
4、これが継続すると、切羽と海底面とが繋がってしまい、坑内へ大量の水と土砂が流入する。要するに陥没である。これが見かけ上の窪地形成に繋がる。

 何故、こういう事故が発生したのか?おそらくJXも鹿島も1期工事が問題なく施工出来たので、2期工事もその延長で行けると思いこんでしまった。誰もそれに疑問を差し挟まなかった。これさえなければ、別にどおってことのない工事なのだ。問題は思いこみである。つまり空気だ。事業者との打ち合わせ、施工会議など、そこにある種の空気が入り込むと結論は一方向に向かってしまう。私だって過去に幾らでも経験している。ここいら辺りに事故の本質が隠されているのではないか思われる。

 なお、鹿島の所長は自殺する危険性がある。一刻も早く身柄を確保すべきである。何故なら、今から35年程前、大阪市2号線陥没事故では、鴻池組の土木主任が自殺しているからだ。

 さてこの先どうすべきなのだが、私ならルートを変更する。このルートは水平方向ではなく、垂直方向だ。上に述べたように、水島地区では、概ね地下30m以下では、安定な洪積地盤が分布する。ここまで縦坑を延ばし、トンネルレベルをマイナス40m付近に持っていく。1)方法としては、縦坑を新設する、2)現立て坑を利用し、鉛直方向に増堀する、の2案が考えられるが、増堀工法をどうするか(現縦坑内に鋼管矢板を打ち込むか)、縦坑やトンネル内の排水をどうするか、工事中に再び出水すれば大惨事、という問題があるので、1)の方が却ってやすいかもしれない。まさか、今の縦坑とシールドマシンとトンネルを利用して、再発進しようと云うんじゃないでしょうねえ**。

*最低土被りは5mで、これは水路中心の最深部の値だろう。丁度1Dだから、どうやらこれを基準にトンネル高さを決めたものと思われる。しかし、どういう訳で水島という軟弱地盤地帯で、1Dという際どい値で縦断を決めたのか不思議です。トンネル長は同じだから少々深くなったところで、トンネル工事費には大きく影響しない。むしろ、立て坑工事費を縮減するためにギリギリの値を使った疑いが濃厚。では、誰がこんな方針を打ち出したのでしょうか?JXか、何処かのコンサルか、それとも鹿島か?それとも全体の会議の”空気”がそうさせたのか?
**この場合はシールド区間を薬注か固結改良で固めて行かなければならない。工費は別としても、この水路は国際航路だから、港湾当局が許可を出すかどうか疑問。そこは鹿島の政治力でねじ伏せるか。しかし、今時のゼネコン政治力は往時ほどではない。役所だって、ハイそうですかという時代ではないのだ。
(12/02/08)


高知市下水道事故

 この事故、縦坑では問題は起こっていない。と言うことは縦坑では薬注が行われ、その効果はあったということだ。通常縦坑の薬注は(1)土圧軽減と、(2)止水の二つの目的で行われる。(1)の目的の場合、薬注範囲は底盤から主働土圧角(一般には水平から60゜)で延ばした範囲。底盤位置をGL-9.2m、注入深Hは余裕を見て12〜3mとすると、注入範囲は(12〜3)/Tan(60)=7〜7.5m。今回の事故発生位置は、縦坑からほぼ8mとされている。オーダーとしてほぼ一致している。つまり本件事故は縦坑薬注範囲からその外に出たところで発生しているのである。これは偶然とは考えられない。又この薬注も(1)土圧軽減が主で、(2)止水はあまり重要視されていなかった疑いがある。しかし、そんなこと信じられるでしょうか?縦坑には必ず地盤調査が行われる(行っていなかったとすれば道路管理者を含め、大問題だ)。それにより周辺の地盤状況は縦坑だけでなく、周辺管路部分も含まれた筈である。その結果、管路設計にも薬注の必要性が反映されていなければならない。果たして、管路部の設計がどうであったか、が今後の関心事になるだろう。
 無論本件事故は人身事故を伴うから、刑事事件として立件される。事故責任が何処まで及ぶかが、関係者の関心の的だろう。とりあえずは発注者(高知市)、コンサルタント、施工業者の三者が立件対象になる。もし薬注が設計に反映されていなかったとすれば、この三者全員が刑事責任を問われることになるでしょう。薬注が設計に組み込まれていた場合は少しややこしくなる。発注者の管理責任が問われることになり、施工者と同罪だ。
(12/10/30)

 高知でトンネル工事中に土砂流出事故で2名生き埋め。トンネルといっても推進工法だから少し違う。原因は倉敷のJXシールド事故と同じ、薬注をやっていなかったか、注入ミスによる人為事故。先端には既に大きい空洞が出来ているので、中から土砂を撤去すると空洞がますます拡大し、最期は道路まで陥没を起こす。事故現場周辺を直ぐに薬注で固めておかないと、うっかりしたことをすれば二次災害になる。
(12/10/28)


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