碓氷バイパスの雪害とその対策案

 横井技術士事務所
技術士(応用理学) 横井和夫


 先週末の豪雪以来、連日マスコミを賑わせるのが、国道18号碓氷バイパス。そもそも国道18号とは昔の中山道。中でも碓氷峠は難所で有名でした。古くは盗賊・妖怪が出没する処で、源頼光四天王の一人碓氷三郎貞光もここの出身。
 現在の碓氷峠は長野県軽井沢町と、群馬県安中市の境を作る峠。さてどんな処かと、国土地理院電子地図で検索して見ました。下はその図です。現在の碓氷バイパス周辺地形は、県境の入山峠(標高1030m)を境に、非対象な形をしています。


 長野県(軽井沢)方は標高900m級の平坦な台地が広がっていますが、群馬県(安中)方には比高200m超の急斜面が発達し、その先は利根川に続く狭い谷になっています。この様な非対象型の地形は、地形学的には風隙(WindGap)と呼ばれるもので、第四紀の地殻変動が活発な地域ではよく見られます。国道18号はこの急斜面を、所謂葛籠折れ状態のヘアピンの連続で登っています。
 今回の雪害お原因は、云うまでもなく50年に一回と云われる今冬の豪雪です。しかしこれは誘因であって本質ではない。別に素因があるはずです。その素因として挙げられるものに、
1)急斜面の連続カーブで代表される線形の悪さ。
2)地形的に、群馬県側の谷が雪の吹き溜まりになる。
3)長野県側の平坦地形も、今冬のような発達した低気圧が通過すると、地吹雪状態になり視界が悪くなる。
が挙げられます。これらは、いずれも本地域の地形発達プロセスによって作られたものです。
 今回の雪害では、数日以上も幹線国道がストップしただけでなく、雪に閉じこめられたドライバーが凍死するという事故まで起こっています。これらを将来未然に防ぐには、道路の改良が必要不可欠です。そしてその改良要件の中には、単なる線形改良だけでなく、雪害対策も含めなくてはならない。
 
1、改良計画 
 こういう場合、直ぐに思いつくのはトンネルです。中央に山があって、両側に平坦地が広がるような対象形地形では簡単ですが、200数10mもの急斜面で隔てられているウインドギャップ地形で、果たしてトンネルが可能か?という疑問が沸いてきます。では200数10mをトンネルでクリアーするには、どの程度の延長が必要か? 道路勾配を山岳地帯では普通の5〜6%として必要なトンネル長を暗算してみると、概ね4.5〜5qになります。これぐらいなら過去にも幾らでもあるし、私も関係したこともある。これならやれる、と思って幾つかの案を作ってみました。それが下の図です。
   


改良起点は軽井沢方で、現道が旧道をオーバーパスする辺りにしてみました。終点は群馬県側で、

1)、A案;軽井沢の中間からトンネルに入り、国道18号碓氷バイパスの端部で現道にタッチする案である。トンネル部は約4.5〜5qぐらいになる。
2)、B 案;A案よりトンネル区間を短くし、4q弱にする案である。群馬側トンネル抗口位置はA案より高くなるので、明かり部分は高架橋になる。又、中間に谷があるので、一部明かりになる可能性はある。この部分が雪の吹き溜まりになるから、明かりと云っても実際はトンネルの延長になるだろう。
3)、C案;B案より更にトンネル区間を短くし、3q台にする案である。群馬県側抗口位置は更に高くなり、現道への距離が不足するので、トンネルを出たところで、ループ橋を併設する。巨大構造物が出現する可能性がある。
 改良ルート案をみんな北側に寄せているのは、群馬県側の地形要素、つまり谷が狭く南斜面は雪の吹き溜まりになるおそれがあるためである。

 どれが良いかは一慨には云えない。トンネル屋ならA案を奨めるだろうが、構造屋、特に鉄鋼メーカーなどはC案に飛びつくかもしれない。工費もそう大きくは変わらない。多分、どの案も1〜2割の範囲内で収まるだろう。
 

2、施工について
(本体工)
 地山地質はおそらく浅間山系 の火山放出物(溶岩、火砕流、火山灰等)からなると思われる。地山は変化が大きく不安定で、場所により大量の湧水も予想される。施工法としては、最近よく用いられているアンブレラ工法が有効と思われる。また、A案はトンネル長が4qを越えるので、サービストンネルの併設が義務づけられる。これを先進導抗とし、地質調査、排水や注入などの補助工法作業抗に利用する。要するに、青函トンネルの山岳版だ。B、C案はトンネル長を4q未満と想定しているので、サービストンネルの必要はないが、別にやってはいけないという規定もないので、A案に準じたやり方で構わない。 

(抗口工)
 軽井沢方抗口は平坦な台地に、いきなり突っ込む計画にしている。通常はあまりこういう計画はしないものだ。しかし、別に地すべり地形でもなし、軟弱地盤でもないので工法的には十分可能である。土被りが概ね1〜1.5Dで、地山が安定するまで開削とし、以後を山岳工法に切り替えればよい。開削区間は明かり巻とし、冬季の雪の吹き込みを避ける。
 

3、維持管理
 こういう寒冷地トンネルの維持管理でもっとも重要な点は、トンネル駆体の凍上対策である。在来工法の時代はトンネル覆工と地山の間の空隙に水が滞留し、それが冬季に凍結し、凍上圧によって覆工を破壊することが多かったが、NATMの時代になって、その危険は大幅に減っている。更にアンブレラ工法を採用すれば、トンネル外周に止水壁が出きるので、これが断熱材となり、凍上防止効果が期待できる。これでも不安なら、トンネル外周にウレタン注入でもやればよいだろう。
 もう一つが霧の発生である。長野県側と群馬県側とで、200〜300mの標高差がある。この結果、群馬県側は長野県側に比べ、気温も気圧も高くなる。そのため、トンネルが出来るとそれを通じて、群馬県側から暖かい空気が長野県側に吹き込む。これが長野県の冷たい空気と衝突して、抗口付近に濃霧を発生させる。その結果は国道の大渋滞になる。名神大山崎でも、北摂山地から山崎の谷を下ってきた冷たい空気が、淀川沿いに上昇してきた暖かい空気と衝突して濃霧を発生させる。特にここには「山崎トンネル」「梶原トンネル」という渋滞名所があるため、これが名神だけでなく、周辺道路にも影響してしばしば大渋滞を起こす。似たような現象だろう。しかし、この様な現象は、今でも峠では起こっているはずなのである。それでもあまり問題になっていないと云うことは、トンネルでも大して差はない、ということだ。誘導灯を整備したり、ジエットファンで霧を吹き飛ばすことにより、対応はかのうであろう。むしろ、群馬県からの上昇気流を利用して風力発電をやれば、維持管理費の低減に繋がる。

4、結論
 以上から国道18号碓氷バイパスの雪害対策兼線形改良工事は、技術的に十分可能であると結論される。しかしよく分からないのは、筆者が30分の暗算でメドを付けた計画を、何故これまでしなかったのでしょうか?国交省関東地整など暇な役所なんだから、この程度はとっくの昔にやっていたと思うが?
(14/02/21)