大分県耶馬溪の斜面崩壊

技術士(応用理学) 横井和夫


本日未明、大分県中津市で発生した斜面崩壊。規模や被害の程度を別にすれば、一見ごく普通の斜面崩壊です。しかし他の映像と比較すると、なかなか興味のある崩壊です。(18/04/11) 

 まず全体を見てみましょう。下図左の図-1は斜め写真です。崩壊形状は典型的な馬蹄状で、最上部に上部滑落崖、側部には側壁が見えます。崩壊斜面上部にはずり落ちた斜面の一部が残っています。この部分と滑落崖との中間に、水平の崖が続いています。崩壊はこの崖から始まったと考えられます。子の崖を左に延長すると、斜面内の傾斜変換点に続きます。この下は植林で、ややなだらかになっています。この上は急な崖で岩盤が露出しています。
 耶馬溪には第四紀の火山活動で出来た溶岩台地が広がっており、上の急な斜面は溶岩で、主に安山岩で出来ています。その下のなだらかな部分は、火山活動に伴う火砕流でできています。崩壊部の左に隣接する火砕流斜面内に、大きな岩盤の塊がいくつか見えますが、これは上の安山岩溶岩が崩壊して斜面内に留まった転石と考えられます。
 下図の図ー2は崩壊斜面を上から見た映像。斜面中央にガリが出来、水が流れています。この点から、今回の崩壊は地下水が関与していることは、容易に推察できます。問題はこの水が、一体何処からどうやってやってきたか?です。

   
 図-1 図-2 

 地元住民の話では、①ここしばらく雨は降っていない、②2、3日前から谷川の水が濁ったり、ゴーッという音がしていた、ということだ。崩壊メカニズムモデルはこれらの現象も説明できるものでなければならない。ではどういうモデルが考えられるか、やてみましょう。

   先ず最初です。今年の冬は全国的例年になく、厳冬で、豪雪に見舞われた。大分日田山地もその例外でなく、雪は多かったと考えられる。雪は雨と異なり、直ぐに流出したり、地下に浸透せず、地上の固定される。
 その結果、背面斜面下の地下水位は低下する。
   三月に入ると、気温は急上昇し、雪が解けだす 。解けた水は、大部分は沢沿いに流下するが、残りは溶岩の割れ目や気泡の中に貯留される。
 更に、その下の火砕流の中に浸透し、次第に地下水位は上昇する。しかし、元々の地下水位が下がっているため、この浸透は「不飽和浸透」となり、地下水位の上昇にも、長時間を要する。
 つまり、雨も降っていないのに、地下では地下水は動いているのです。これを左右するのが「不飽和浸透」という現象です。
   上の状態が続くと、地下水位は溶岩との境界まで達する。すると地下水は逃げ場を失って、斜面前面の崖錐堆積靴中に流入する。
 この結果、崖錐の剪断強度が低下して、崩壊に至る。 

 以上のように、今年の異常な豪雪と「不飽和浸透」を考えに入れれば、長い間雨も降らない春先に、何故山崩れが生じたのか、という現象が説明できる。ではこのような現象は珍しいものでしょうか?西日本では珍しいが、東北・北陸地方では珍しいものではありません。西日本の地すべりは、台風の影響が大きいので、一般には9~10月にかけて発生することが多い。東北地方の地すべり地帯は、脊梁山脈の中腹に発達することが多い。4月になると、山頂部には雪は残っているが、中腹部では大体解けてしまう。地すべりが顕在化するのは、これから1~2ケ月遅れの5~6月頃である。この遅れも「不飽和浸透」による地下水位回復の遅れと考えれば説明がつく。
 今回の大分耶馬溪崩壊は、エルニーニョによる気候変動により、北九州地区の気象が一時的に東北化した結果と考えられる。
(18/04/13)