大阪平野で何故温泉が出るのか!      



 バブル期以降、大阪近辺で盛んに温泉が掘削されるようになりました。その数は把握はしていませんが、おそらく200本以上にのぼるでしょう。そもそも、大阪という地域は温泉と縁遠いものでした。大阪で温泉に行こうと思えば、近場では兵庫県「有馬温泉」、府下では摂津の一庫温泉、泉南の「犬鳴温泉」や「山中渓温泉」位しかなかったのです。ところが今では少し郊外に出ると、あちこちに天然温泉の看板が立っています。今では郊外どころか、梅田のど真ん中にも温泉があるのです。一体、何故温泉がいっぱい出るようになったのでしょうか。これには、大阪平野の特異な地質構造が関係しているのです。
 温泉が温泉であるための、最低必要条件は次の2項目をクリアーすることです。
 (1)地下水
 (2)熱又は温泉成分
 この内どれが欠けても温泉にはなりません。但し(2)は温泉法で規定がありますが、(1)地下水の量には何の制限もありません。500l/分でも、2l/分でも温泉は温泉なのです。この点、大阪平野はローリスクで温泉を作るのに適した地質構造を持っていた、と言えるのです。
(1)地下水
 温泉は地下から熱せられた水が地表に湧出する現象です。だから、地下に地下水を貯留できる地質構造が存在していることが必須条件になります。地下水を貯留出来る地質構造を滞水層と呼びます。滞水層にはいろんな種類がありますが、最も信頼出来るものは、空隙が多く、且つ広範囲に広がる未固結の砂や砂礫層です。
(2)熱又は温泉成分
 現行温泉法では、口元湧出点での水温又は湧水の成分によって温泉か否かを規定します。例えば、温泉成分がなくても、湧出点温度が規定値(25゜C)以上であれば温泉になります。地下水の温度は一般には深さとともに上昇します。この割合を地温勾配と呼びます。地温勾配は場所によって異なり、まだら状になりますが、日本での平均値はおおよそ0.02゜C/mです。
 以上の条件を大阪平野に当てはめてみます。
(1)地下水
 大阪平野の地形を大雑把に眺めると、摂津や河内といった標高0〜10数m級の中央の低平地と、それを取り囲む様にそびえる北摂・生駒・金剛・葛城といった山地の対立が典型的に見られます。しかし、もう少し細かく見ると、低平地と山地との間に千里・泉北・泉南といった標高数10〜200m級の丘陵が連なっていることが判ります。この丘陵を作っている地層を「大阪層群」と呼んでいます。昭和30年代以降の研究で、大阪層群は丘陵部だけではなく、大阪平野全体の地下に厚く分布していることが判りました。その厚さはかつては1000mといわれましたが、最近の研究では大阪平野中心部では2000m近くに達することが明らかになっています。


 大阪層群とは、今からおおよそ数万年から100数10万年前に大阪平野とその周辺に堆積した新しい地層で、主に未固結の砂・砂礫・泥の互層(地層の繰り返し)からなっています。上部数100mは泥の多い部分ですが、その下は砂・砂礫が多くなります。砂・砂礫は代表的な滞水層です。大阪平野の地下には、このような地下水を豊富に貯留する地層が普遍的に存在していると考えられます。
(2)熱又は温泉成分
 大阪平野中心部には1000数100m以上の滞水層があることが判りました。これに基づいて、地下の温度を試算してみます。計算は次式を使います。
              θ=θ0+αZ
                 θ;深さZでの地温(゜C)
                 θ0;地表面温度
                 α;地温勾配(゜C/m)
                 Z;深さ(m)
 ここでα=0.02゜C/m、θ0=15゜Cとします。計算結果は次のとおりです。
                 Z(m)         θ(゜C)
                 1000         35
                 1300         41
                 1500         45
 これに揚湯時の温度ロス(揚湯管の材質や揚湯量によっても相当変動はあるが、1000m級なら概ね1〜10数゜C前後)を考慮しても概ね口元温度25゜Cはクリアー可能と考えられます。又、深さが1000数100mになると、地下水も何らかの成分を含んでいます(一般にはCl-やHCO32-)。だから温泉成分もクリアー可能。つまり、大阪平野では、ある程度深くなると確実に滞水層があり、1000m以上になると、少なくとも温度はついてくる。これが、大阪平野でローリスクで温泉を開発出来る仕組みです。又、大阪層群は未固結の砂や泥で出来ているので掘削も比較的容易であり、周辺山地の岩盤を掘削しなければならない温泉に比べ、ローコストで済みます。
 よく、新聞やTVで「地下1000mから温泉が沸き出した」などと報道されていますが、これは嘘です。ポンプで汲み上げているだけです。無論、いかにも温泉が沸き出しているように見せかけるのは簡単です。これを業界用語で「温泉演出」というらしい。皆さんも是非騙されないように。
 なお、大阪では地盤沈下のおそれがあるから、地下水の汲み上げは禁止されているのではないか、という疑問をもたれる方もあるかもしれません。しかし、ご心配なく。大阪府・市の公害防止条例による地下水汲み上げ規制は、ある深さより上の地下水を汲み上げてはいけない、というものです。その深さは地域毎に異なりますが、最大でも大阪市西区の650mです。温泉はこれより深いところから地下水を汲み上げますから、公害防止条例にも引っかかりません。ノープロブレムです。
 但し、狭い地域に多数の温泉が乱立したとき、井戸の相互干渉が生じて揚湯量が低下するリスクは避けられません。吉良温泉と同様の目に遭うのです。全ては自己責任です。
 


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