福島原発事故汚染土対策

横井技術士事務所
技術士(応用理学) 横井和夫


 先日環境省から福島事故での、汚染土中間貯蔵施設建設計画の概要が発表されました。新聞でそれを見たときの第一印象は、こんな物、プロの技術屋の考える事ではない、大学生の夏休みレポートのレベルだ。

1、施設の概要は法切りオープンカットで、地盤を掘削し、そこにフレコンバッグ(所謂トン袋)詰め汚染土を収納しようというもの。
2 、この工法の利点は
1)最も単純な工法で、誰でも出来る(土木のシロウトの東電や環境省でもだ)。しかし出来るのは形をなぞるだけで、本質は真似出来ない。
2)比較的コストが低い。
と言うことぐらいしかない。しかし長期的に見れば、必ずしも低コストとは云えない。
3、逆に問題点は
1)まず用地確保が問題。行政は納得しても個々の地権者は別。一人一人と個別に交渉して行かなくてはならない。これは途方もない時間と労力を要する。
2)明かり工事だから、工程が天候によって左右される。施工中の雨水排水が大変。
3)図では施設を地下水面の上に設置することになっている。この地下水面は自由地下水面だから、季節によって大きく変動する。それによって掘削高が規制される。そもそも日本で、こんなに地下水位の低い場所があるのでしょうか?
3)最上部には覆土する事になっているが、ここにも雨水の浸透がある。結局、最後は雨水排水で、今の福島第一原発のように、アタフタするのではないか?
4)雨水は図では、排水管により河川又は海に排水する事になっているが、果たしてこれが地元の納得を得られるか、これも問題である。それとこの排水管は地山の中に設置されるが、どうやって施工するのでしょうか?排水管と施設ヤードとは連結しないのでしょうか?
5)汚染土と言っても放射線を出す。その地表への影響はどうか?覆土厚が小さければ、地表は地下の汚染土の影響に曝される。何のための中間処分か判らなくなる。覆土厚を十分大きくとろうとすれば、恒常的に地下水を汲み上げ、地下水位を下げなくてはならない。その点の配慮がこの図には全く示されていない。

 何となく、この施設概要図は都合の良いところだけを集めてでっち上げた、只のマンガにしか見えないのである。

問題はまだまだある。環境省副大臣の桜田が「中間貯蔵施設は人の住まない福島へ」などと発言して、菅が口頭注意したが、これなど官邸の本音を反映した典型ヤラセ発言。つまり民意を測るアドバルーンである。自民党の得意技だ。もし桜田発言が政府の本音なら、本施設は福島県内の汚染地区に設置されることになる。そうすると、貯蔵施設の掘削で新たな汚染土を発生させることになる。その処理のために、又貯蔵施設が必要になるから、いつまで経っても作業は終わらない事になる。
 最大の問題は用地取得である。掘削底面をあくまで地下水面上とするなら、おそらく膨大な面積が必要になる。これを巡ってあちこちで綱引きが始まり、その内・・・・いや既に始まっているかもしれないが・・・・政治家や、或いはヤクザの介入を招きかねないのである。逆に言うと、自民党とアベ内閣はそれが狙い目なのかもしれない。自民党福島支部と不動産屋、地元ゼネコンには大歓迎の工法である。

 これに対し筆者が考えているのが、地下空洞収納法である。地下に大断面空洞を掘削し、そこに汚染土(や汚染水)を収納するものである。

1、地下30〜40m付近以下に大断面トンネルを掘削し、それを汚染土(汚染水)の貯蔵施設とする。
2、用地が東電所有地内なら問題はない。民地の場合でも、地下40m以深であれば大深度法が適用出来るので、用地買収の必要はない。つまり政治家やヤクザの介入余地はない。
3、トンネル工法はNATMとし、防水シート・ロックボルトで遮水・補強を行う。いずれも既に実績が多く成熟した手法である。
4、掘削対象地山は上部仙台層群相当の軟岩であるが、ロックボルトやアンカー等の補助工法を併用することにより、十分施工は可能である。
5、地上に十分な土被りを採れば、これが天然バリアーとなって雨水浸透を防げる。

 この種の大規模地下空洞掘削工事例として、兵庫県平木鉱山のサブレベルストーピング法と、カット&フィル工法の例を示す。本鉱山では中生代白亜紀有馬層群中の熱水変質帯を対象に、カオリナイトの採掘を行っている。採掘済み部分を岩石ズリで埋め戻している。


 本工事の特徴の一つに、一辺8mのピラー(鉱柱)による仮支えがある。この概要を下図に示す。ピラーはカオリナイトをそのまま使い、2mのロックボルト、更に天盤にはケーブルボルトを使うシステムボルテイングにより切り羽を補強している。カオリナイト岩盤の強度はというと、ハンマーで叩けばボソッと言うだけ(これは筆者が実際に試したのだから、間違いない)の、云ってみればD級の上ぐらいの程度である。上部仙台層群相当なら、それ以上の強度は持っているはず。このピラーは盛り立てと平行して撤去される。
 既に何10年も前から、この様な大規模空洞掘削が行われているのである。何故この様なアイデアが出てこないのか、不思議でならない。みんな怖がっているのか。今こそ勇気あるトンネル屋の登場を願うものである

 この方法を拡張すれば、今の原発直下数10〜100mぐらいの深度に中間貯蔵施設、地下数100m付近にハイレベル最終処分地、という考えが出て当然なのである。何故廃棄物発生地と処分地を分けなければならないのか?その必要は全く無いのである。これで儲かるのは、実は自民党。電力会社と地元が揉めれば揉めるほど、政治家の出番が増えてくる。それが政治利権に繋がるのである。そしてそれを左派反原発部落民が、結果的に支援しているのである。「核廃棄物は、発生源の地下で処分する」という原則を法律で規定すれば、何の問題も無くなる。アホのコイズミ純一郎の馬鹿発言も雲散霧消なのである。
(13/10/11)