上北山村(国道169)崩壊

 本件崩壊について奈良県は事故調査委員会を設置し、原因究明と対策工検討に乗り出すよし。被害者には申し訳ないが、奈良県ではこの程度の崩壊はしょっちゅう起こっています。だから、対策工の設計など地元のコンサルでも十分に出来る。委員会の目的は会計検査対策と裁判対策のみあるのは見え見え。だから、会計検査院は奈良県の設計を、委員会答申は無視して厳密に検査する必要があります。なお、信号設置協議や見張り員配置について、県側に不利な証拠が出てきています。検察も委員会答申を無視して、捜査立件する必要があるのは言うまでもありません。
 なお、第一回目か二回目の崩壊の後に、おそらく地元のコンサルか測量屋が現地に入っているはず。従って、その報告書があるはずですが。
(07/02/26)

これは、先日(01/30)国道169号奈良県吉野郡上北山村で発生した、斜面崩壊の報道写真です。崩壊そのものは、それほど大きなものではありません。但し通行車が土砂崩壊に巻き込まれ、人身事故に至ったことが社会的問題になっています。この崩壊のメカニズムを、写真から読みとれる限り読みとってみましょう。
1)崩壊土砂は岩屑、岩塊で泥流ではないので、今回の崩壊の直接要因 に水の影響は考えられません。
2)何らかの原因で、斜面内土塊の力学的バランスが失われて発生したものと考えられます。地山の地質は四万十帯の付加体。岩相は泥岩リッチのオリストストローム。構造は北フェルゲンツ。一部報道映像では、その中に流れ盤の分離面の発達が認められ、これが崩壊の素因とも考えられます。
3)01/17及び01/21に前兆的崩壊が発生しています。これにより、斜面全体のバランスが失われ01/30の崩壊に至ったと考えられます。
4)問題は前兆的崩壊がどうして起こったか、ですが、アメダス(上北山)データによれば、それぞれの崩壊の前に10o前後の降雨があります。崩壊地点ではおそらく雪だったでしょう。雪は日中気温が上がると、溶けて岩盤表面の割れ目に浸透します。最低気温は氷点下になっているので、割れ目中の水は凍結し、岩盤を緩めます。そのまま凍っておれば良いのですが、今年は例年にない暖冬。これが溶けると、水に変わり、緩んだ処に間隙水圧が働いて剪断強度が低下し、部分的崩壊に至る。下図参照。
 ひょっとすると、この崩壊も地球温暖化の影響かも知れませんよ。
1)一時的な降雪の雪解け水が岩盤の風化帯やゆるみ域の割れ目に浸透する。 2)法面表層に局所的な間隙水圧が発生する。剪断強度が低下し、流れ盤割れ目を利用して局所的な崩壊が発生する(01/17〜21の前兆崩壊)。 3)前兆崩壊により土塊のバランスが失われ、全面崩壊に至る。
問題点1)崩壊は予知出来たか?
 難しい問題です。予知には(1)長期的(定性的)予知と、(2)短期的(定量的)予知の2種類があります。(1)は過去の道路防災点検で指摘済みのはずである。この結果は今回の崩壊とは直接結びつかない。本件事故捜査と裁判は、(2)の内、特に@前兆崩壊後の二次崩壊予測が可能だったか、Aその規模が予測可能だったか、B安全確保処置が適切だったか、といった点に重点が置かれるでしょう。県側は不可抗力を主張するでしょう。最近の判決の傾向から見て、裁判もその方向で収束しそうな気はします。そうではない、という具体的な証拠が見つかればなんとか出来るかもしれませんが。遺族は僅かな見舞金を貰って、泣き寝入りがいつものパターンです。
(問題点2)対策工
 この法面の復旧対策だけなら簡単です。崩壊法面を整形し、法面上部はアンカー、下部はロックボルトで補強して終わり。法面表層処理を何でやるかは好きずき。ただこの路線自体の線形が、平面でも縦断でも非常に悪い。要するに道路構造令に抵触している区間がかなりある。だから本当は、道路全体の改良計画の中で、本区間をどう処理するかを考えるべきなのですが、なかなかそうはいかない・・・これが問題。うっかり恒久的対策をやってしまうと、何年か先に道路改良をするときに、ここがコントロールポイントになってしまって、悪い線形が何時までも残ることになる。
 なお、この道路の国土計画上の位置付けはあくまで、来るべき第2南海・東南海地震の時の、尾鷲・熊野方面への緊急救援道路だということです。だから、道路改良計画に当たっては早期実現が可能であること、一方道路構造物については十分な耐震性を有することが必要です。特にトンネル抗口の耐震性が重要。
(問題点3)他にこういう場所はあるか?
 今回の崩壊の原因は(1)当該法面が1:0.5、H=30mに及ぶ無対策法面で、(2)地質は四万十帯の泥岩リッチゾーン、且つ流れ盤地質構造、(3)一時的な降雪があり、それが暖冬で溶けてしまった、といった要因が複合したものと考えられます。(3)は誘因であって、根本的な要素ではないので、検討から除外します。ここで(1)に該当する法面は R169には幾らでもあります。(2)の問題は法面地質によって、評価が大幅に変わります。崩壊区間から下流にも同じような法面がありますが、ここは巨大な砂岩クラストゾーン(直径数100m位はあるか)なので、切土でもトンネルでもなんら問題はない。つまり同じ四万十帯でも、地質によって様々な対応策を選択しなければならないということです。
(07/02/03)

RETURN     TOPへ