逆断層の例

近畿地方中部の中央構造線


 奈良県東部、吉野郡大淀町の国道169号芦原トンネル、吉野方抗口の南約1.5qに、中央構造線の露頭があります。下の地図の赤丸印が露頭の位置。但し、今でもこの露頭が残っているか、どうかは判りません。

位置図

 図-1

                    
以前、国道脇のコンビニから西の方を眺めると、下の写真のような風景が見えました。

図-2
                              

 写真中央の水平に置かれた、ブルーシートの少し上で、露頭の色が変わっています。上の暗灰色部分は、破砕された白亜紀「和泉層群」、下は第四紀「竜門層」。和泉層群が竜門層の上に衝上(スラスト)しています。
 下の写真は、その近景です。
                         

図-3
                              

 写真上の黒色部が、中央構造線の断層粘土、下が竜門層の砂礫。両者の境界は、角度数゜の低角度逆断層になっています。この断層は、今から20〜30万年前の活動で生じたものです。数年前の台湾の地震で、地震波解析から、震源断層は傾斜が20゜程の逆断層であることが判りました。20〜30万年前の近畿地方の地殻応力の状態は、今の台湾と同じようなものだった、と考えられます。

 では、竜門層とはどんな地層でしょうか。

                              


図-4


 ハンマーの下が竜門層ですが、全体として淘汰の悪い花崗(閃緑)岩質の、砂礫からなっています。この露頭の直ぐ北には、和泉層群の礫岩が分布しますが、その幅は狭く、100m位しかありません。その北には、領家帯の花崗岩が分布しています。竜門層は、今から数10万〜100万年ぐらい前の地層です。このことは、昔は北の領家帯から南の紀ノ川〜吉野川流域が、直接繋がっていたことを意味します。今は北に向かって流れている奈良県の川は、昔は逆に南に流れていたのです。

 この低角度スラストのある尾根の背後に、東西性の谷が走っています。この谷が背後断層(back fault)で、次ぎに中央構造線が動くとすればこの断層上に沿ってでしょう。


図-5

 道路の反対側の露頭です。標高がかなり低いので、上の低角度スラストの下の状況が現れています。中央のMTLとしたゾーンが中央構造線の本体。右は龍門層。左は和泉層群。和泉層群の中には、南落ちの逆断層が発達します。



図-6

 図-5のアップ写真です。中央がMTLに伴う主破砕帯。右のQは第四紀の龍門層。MTLの中や、左に南落ちの断層(f2〜f4)があります。MTLはこれらの断層を切断しているので、これらはMTL以前の断層で、応力場がN-S系だった頃、南からの圧力で作られたもの。このときは、南側の外帯側が北の内帯側に押し上げていたということです・・・少なくともこの地域では。一口でMTLと云ってもその中身は、結構複雑だと言うことが判ります。



図-7

 これは南側の龍門層。中央に灰色の線が垂直に入っていますが、これも断層です。灰色の線は後に熱水が上昇してきたことを表しています。


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