基礎のパイピング災害

技術士(応用理学)   横井和夫



これは一昨日漏水で水道供給に支障を来した、愛知県豊田市の矢作川取水堰(毎日新聞05/18)。上流も水位が下がったので、どちらが上流でどちらが下流かわからない。多分右下が下流。
 漏水を起こしたなら、その水はどこかに出てくるはずだ。写真右下の水叩きのようなコンクリート構造物の下に、白いしぶきのようなものが見えます。これが漏水の末端だとすると、漏水は堰の下を通って発生していることになります。これは堰の基礎と地盤の境界、あるいは基礎地盤中に空洞ができたため、つまり”パイピング”という現象です。
 パイピングに対する安定性は”クリープ比”という数値又は上下流間の動水勾配と地盤の透水係数で決まりますが堰高は小さく、なかなかパイピングは考えにくい。元々堰のコンクリートの仕上がりが悪く基礎地盤との間に小さい隙間があったとか、、長期間の間に基礎地盤の内、細粒分の流出が継続していたのかもしれない。本当は管理者である愛知県や東海農政も、うすうす感ずいていたのではないか?問題はとりあえずは先送り、ことが起こってからやおら騒ぎ出す。これは日本の役人の得意技だ。
 この場合の対策は、上流側に不透水層まで止水壁を打設し、透水路長を稼いでクリープ比を大きくすること。止水壁はとりあえずは鋼矢板でかまわなが、地盤に合わせて適切な工法を選ぶこと。。なお止水により、上流の何処か弱点があれば、そこからの二次的な漏水が発生することもある。貯水池全体の地盤の様子をよく調査しておくことが肝要。

(22/05/19)


 豪雨で増水した天竜川に懸かるJR飯田線の鉄橋。中央が沈下していますが、これは中央橋脚の基礎地盤・・・多分沖積世の砂礫・・・が洗堀され支持層が流失した結果。原因は橋脚の上流水位が一時的に上昇してパイピングが生じたこと。古い橋・・・特に昭和30年代以前・・・にはよくあります。復旧は出来ないことはないが、高くつきますねえ。
 今後もっと大きな洪水が発生するかもしれない。それを考えると、下手な復旧を考えるより、中央橋脚も撤去して、思い切って1スパンで跳ぶのも手だ。但し、両岸橋台の補強は必要。
(21/08/17)

 一昨年の台風21号(T1721)で、南海電車の橋脚が沈下した。写真はその三年前に住民が撮ったもの。最近になって、やっと事故検討委員会が「橋脚周囲の水叩きの補強をして居れば事故を防げた」と結論。そんな簡単な答えを出すのに、なんで委員会を作ったり、1年半以上も掛かったのか?その点が面妖。何故橋脚が沈下したのか、見ればわかるのだ。結論は南海電鉄という会社の、とんでもないボンクラと無能・無責任です。写真を見る通り、この叩きは表面に数㎝程度のコンクリートを張っただけで、その下はモルタルと豆石の混合材があるだけの安っぽいもの。南海電鉄は「振動衝撃試験」*を行って安全性を確保したというが、「振動衝撃試験」とは何者か?そんな試験など聞いたことがない。多分、ハンマーで表面を叩いて、これは大丈夫といった類だろう。
 昨年大阪府北部地震で高槻市内小学校ブロック塀が倒壊し、女児が死亡した事故があった。このとき学校側が(塀が倒れるかどうかの)安定性の確認を求めたにもかかわらず、高槻市教育委員会がやったことは、なんの資格もなく訓練も受けていない職員に、音楽指揮棒を持たせ塀を叩いただけで「安全だ」と結論したのである。その結果が女児の死亡事故だ。南海電鉄の対応も似たようなものだ。ここに共通するのは、一つは全体の安定性と、局所的な強弱との区別が出来ていないこと、もう一つはとりあえず形だけやって後は他人に任せるという、木っ端役人根性である。
 この本質を見ないで表面だけ見て帳面面を合わせるという風潮が出来たの何時のころか?バブル崩壊後か?いやその前の50年代円高不況時代に、既に種はばら撒かれていたような気はする。しかしこの時代は、企業も国も未だ前時代の貯えが十分にあったので、表に出なかっただけの話だ。それが顕著になったのがコイズミ改革以降、特に現在の第二次アベ政権下で著しくなっている。コイズミ改革時は悪党竹中平蔵の所為で企業業績のみが強調され、施設の安全対策のような目に見えない分野への投資は、投資家への背信行為とみなされ、銀行の融資対象からもはずされた。南海電鉄もその例外ではない。特にこの当時話題になったのが、村上ファンドによる阪神電鉄株買い占め事件。南海としても気が気ではなかったはずだ*。阪神の二の舞にならないためには、いやでも収益率を上げなければならない。そのためには安全対策費は犠牲にしなくてはならない。
 第二次アベ内閣ではどうか?この政権のバックボーンを担っているのは経産省。国交省とは犬猿の仲である。リニアのような先行投資型事業には熱心だが、インフラ強化には乗り気ではない。だからインフラ強化は遅れに遅れを重ね、今回の統計インチキ事件の様に「・・・問題はありませんdえした」という報告が続く。その結果上で挙げた高槻市ブロック塀事件の様に、いざというときに大問題を起こすのである。それが何時かというと、ずばり南海トラフ地震。南海電鉄本線は関西最古の私鉄。設備は老朽化を極めている。大阪府南部では、南海沿線は地震と津波でまずイチコロ、阪和線まで来ると、地盤も洪積層となってまともになってくるし、地形的にも台地のうえだから、津波にも大丈夫。これから大阪府南部で住むなら、阪和線より東にしなさい。
*水叩き下の空洞探査なら、いくらでも方法はあります。要は南海電鉄が、それをやるだけの見識を持っているかどうかだけだ。
 *この橋梁の基礎対策は問題の橋脚だけでは済まない。問題の橋脚だけでなく、橋梁全体の構造を見直さなくてはならないから、関連工事や仮設を考えればざっとン10億円の投資になる。南海も二の足を踏むはずだ。
(19/02/03)

これは今度の台風21号による増水で橋脚が沈下した南海本線男里橋梁の様子。原因は河川増水による橋脚基礎の洗堀です。出来て100年以上というから明治時代の作品。地盤は砂地だからこの程度で良いだろうと、基礎などろくなことはやっていなかったのでしょう。
 今から40年以上前に、東海道本線大井川橋梁が増水で流されるという事故がありました。これも基礎がまともな支持層に着いていなかったことが原因です*。
 この橋梁は線路だけでなく、基礎から含めて抜本的にやり直す必要があります。それは将来の南海トラフ地震への備えでもあります。しかしケチの南海電鉄がそこまで金を出すでしょうか?
*設計図面ではウェルが入っていることになっているのに、実態は木クイで誤魔化している例もあります。
(17/10.26)