有馬温泉の謎

技術士(応用理学) 横井和夫


 有馬温泉の「温泉資料館」という施設で死者が出ました。施設内の酸素濃度が低下しているということですが、その原因は炭酸ガスです。つまりこれは炭酸ガス中毒死です。炭酸ガスは致死性有毒ガスです。
 筆者はこのところ有馬にはすっかり御無沙汰で、この施設がどこにあるのかよくしらないが、多分以前NHKブラタモリでやっていた、豊臣秀吉ゆかりの屋敷を改装したものだろう。その中に岩風呂があった。事故はこの岩風呂で起こったらしい。ブラタモリでの映像から見ると、この温泉は床を一段掘った地階にあり、さらに岩風呂はこれから更に掘り込んでいる。つまり全体として凹地になっている。岩風呂は石組みで隙間は多いと考えられる。
 さて問題の炭酸ガスだが、これがどうして岩風呂に溜まったかである。炭酸ガスが何処でどういうメカニズムで作られているかは未だ不詳である*。
1、有馬温泉のメカニズム
  有馬温泉中心部の地質は、中心部では地下数mぐらいは洪積層の段丘層。その下は後期白亜紀有馬層群と呼ばれる中生代の火山岩。この2者は温泉地熱活動には寄与しない。有馬層群の下に、やはり後期白亜紀の花崗岩が貫入する。有馬温泉の熱と炭酸ガス(それと鉄)の起源がこの花崗岩にあることは間違いない(但し金泉の食塩はこれだけでは説明できない)。
 花崗岩中で先ず重炭酸ナトリウムが生産され(多分地震が関係している)、地下水に溶ける。地下深部の熱源(花崗岩)によって地下水が加熱され、炭酸ガスが分離する。地表が表土で覆われていると、炭酸ガスは地下水位と表土との間に滞留する。
2、炭酸ガス中毒の発生メカニズム
 炭酸ガスが何らかの理由で、地表に湧出してきたとする。これは空気より比重が大きいので、風がなければ地表近くに滞留する。中でも凹地は最も滞留しやすい。このとき気を付けなければならないのは、炭酸ガスは色もなければ臭いもないことです。例えば炭酸ガスが腰から下に滞留していても、経っている限りは何の問題もない。しかしこしをかがめると、あっという間にあの世行きです。つまり凹地では、決して姿勢を低くしてはならないことです。
 以上の点から今回の事故を眺めてみると、まず何らかの理由で地下の炭酸ガス圧が上昇し、岩風呂の隙間を通じて炭酸ガスが岩風呂に侵入してきた。それが岩風呂の中に滞留した。犠牲者は猫を追いかけて、うっかり岩風呂の中で姿勢を低くしてしまった。その結果炭酸ガス中毒死となった。
 本件事故の最大の問題は、犠牲者を含め神戸市事態が有馬温泉の性質を理解していないことである。上記の問題点はいまから30年程昔、神戸市下水道有馬汚水幹線築造工事に際し、散々神戸市にもレクチュアしてきたことで、別に(神戸市にとって)目新しいこtではない。単に工事が済んだからといって、みんな捨てるか忘れてしまう役人体質が問題なのである。
 なお対策は大したことは必要ない。炭酸ガスは引火性ではないから不用に恐れることはない。例えば凹地(基礎の掘削孔とか人工的なものも含まれる)で何らかの作業をする時は、炭酸ガス用の検知管というものがあるから、作業前にこれで炭酸ガス濃度を測ればよい。もし基準値を越えておれば、換気を行う。下水道の点検と同じくダクトを入れて換気すればよいだけである。但しダクトの吸入口は地表に設置すること。天井にぶらさげていては何にもならない。
*ブラタモリでは温泉研の誰かが出てきて、プレート論を使って有馬温泉のメカニズムを講釈していましたが、あれはまちがいです。だから信用しないように。
(18/02/22)