大地に刻まれた条痕(1)・・・・ブラジルミナスジミライス


上の写真は何でしょう?ただの岩盤の表面の写真ではありません。ブラジル東部ミナスジミライス州からエスピリトサント州にかけて広がる平原の衛星写真です。写真の長辺が約55q、短辺が約27qあります。写真中央部は殆ど草木のない荒涼とした平原です。ブラジルといえばアマゾンのジャングルを思い浮かべますが、こういう乾燥地帯もあるわけです。写真に沢山の筋が入っていることが判ります。この筋をリニアメントと云います。下の図はリニアメントだけを抜き出したものです。リニアメントの方向にはある規則性があります。一番目立つのは(1)NNW-SSE方向(写真の上が北)のもの。これには、一つ一つははっきりしているが間隔が大きいもの(1-a写真中央に特に顕著で実線で表示)と、間隔は小さくやや不明瞭なもの(1-b破線で表示)の2種類があります。次に(2)(1)に斜交するNNE-
SSW又はNE-SW方向のもの。(3)更にこれらに斜交するE-W方向のもの。以上、三者が確認出来ます。こういう関係を共役セットといいます。それぞれのリニアメントによって、この地域の地殻は下の図のように多数のブロックに分割されます。上の写真では、このブロックの中にも更に小さい塊があって、それらが局所的な凸部を作っています。この突起も先のリニアメントに平行に配列しています。突起の周囲を作るのは、リニアメントよりオーダーの低い節理という割れ目です。ではこういう割れ目系はどうして出来たのでしょうか?地殻の中の割れ目の種類には沢山ありますが、三方向共役セットを作るものは三方向圧縮応力による剪断割れ目しかありません。日本のような変動帯ではこのような応力場は容易に想像出来ますが、殆ど地震の無い安定陸塊であるブラジルで、何故このような剪断割れ目が出来るのでしょうか?筆者はブラジルの地質には詳しく無いので、それ以上のことは云えませんが、個人的には白亜紀末のアフリカ大陸との分離期における、南米大陸東部縁辺部と内陸との温度差による熱応力が原因になっているのではないかと考えています。この時期、南米大陸とアフリカ大陸に分かれる裂け目には、マントルプリュームの上昇があり、高熱になっていた可能性はあります。
 リニアメントがどうして出来たかを考えるのは、暇人の暇つぶしですが、このリニアメントは応用地質的には立派な意味を持っています。最近、ブラジル南部からアルゼンチンにかけて、大規模な地下滞水層の存在が明らかになっています。一方中部から北はそれから外れている。水の供給は河川の表流水に頼らざるを得ません。ところがこの地域には川も見あたらない。写真を見るとおり水に乏しい地域と思われます。それでも都市は出来、おそらく村落もあるはずです。住民はどうやって水を確保しているのでしょうか?おそらく井戸からでしょう。一方、ここで見られたリニアメントは地下水を賦存している可能性があります。特に異方向のリニアメントが交差している場所(例えばBarra de Sao Franciscoの西)当たりは狙い目です。又1-b系列の細かいリニアメントとこれに交差する(2)系統との交差部も有望でしょう。なお、ブラジルでは「ここで水が出る」といって金を集め、井戸を掘って出なければ刑務所に放り込まれるそうだから、注意が必要。かつて、水をネタにした詐欺師が横行したのでしょうねえ。
 こういうように宇宙からの情報も、結構身近なところに役に立つのです。但し、グーグルアースは可視光領域だけなので、氷河やジャングルで覆われたり、農地で開墾されたりしている地域には殆どお手上げです。そういう地域にはレーザースキャナー探査とか他の短波長領域の電磁波を使う必要があります。しかし、それはしばしば資源探査の企業秘密や、軍事機密の壁に阻まれるので、一般ピープルが覗き込むことは難しい。優秀なハッカーの手を借りれれば可能でしょうが、経費が掛かる。しかし、ここで紹介しているレベルであれば、普通の人が普通のパソコンで楽しむことが出来ます。



RETURN       一覧へ      TOP へ