リニア新幹線の真実

横井技術士事務所
技術士(応用理学) 横井和夫


 リニア新幹線の工事について色々問題点が指摘されています。今の所マスコミレベルで出ているのは次の2点です。
1)トンネル掘削で発生する残土処理
2)トンネル掘削による地下水位低下と環境への影響 
 ワタクシは他にも色々あると思うが、世間はあまりこれに注目していない。ここではとりあえず上記2点についての所見だけを述べておきましょう。
1)トンネル掘削で発生する残土処理
 トンネル掘削で出てくる残土量は約6700万m3。一般人は物凄い量と思うでしょうが、これは関空一期工事分の約半分に過ぎない。これをどう処理するかは当然JR東海が責任を持つはずなので、筆者のような部外者が口出しすべき課題ではない。
2)トンネル掘削による地下水位低下と環境への影響 
 マスコミレベルでは、南アルプス始め巨大山脈を通過することから、かなり大量の湧水が発生すると報道されている。JR東海の湧水量予測手法がどのようなものか明らかではないのでなんとも云えないが、多分旧国鉄方式ではないかと思われる。だとすれば相当の過大値を与えている可能性がある。この方法は地山地質を均質と考え、地下水位は地表面近くにあり、トンネル掘削後の地下水位はトンネルに対し放物線状に変化するものと考えるのである。又計算の前提値として比流量の正確な測定が必要である。トンネル掘削高(以下土被りと言う)が小さい局所的変化であればこれでも構わないが、土被りが大きくなったり地質構造が複雑な場合はこの方式は適用出来ない。
 リニアルート通過区間での大きな山脈といえば、南アルプスの赤石山系、次に中央アルプスを作る木曽山系である。この中でも赤石山系はこれまで大きなトンネル工事もなく、そこに土被り1000数100mというトンネルは、いわば未知の領域なのである。従って、湧水問題もこの山系の突破に集約されるだろう。
 筆者の結論は水は出ないとは云わないが、それは予測値を遥かに下まわるだろう。つまり殆ど水は出ず環境に与える影響は・・・・坑口近くの一部を除けば・・・殆ど無いということだ。何故こういう結論になるかというと、当該ルートの地質構造を考えればそうなるのである。赤石山系は所謂西南日本外帯に属し、それを作る地層は主に白亜系四万十層群および古第三系瀬戸川層群。これはいずれもプレート付加体であって、プレートがユーラシア大陸下に沈み込むところに出来た雑多な土砂の集積体(メランジ又はオリストストローム)である。プレートの押し込みによってこの中には低角度の逆断層(衝上断層)が発生する。南アルプスではこれは主に西傾斜の低角度断層となる。
 さてリニア新幹線は概ねこの構造に対し、直交或いは急角度で斜交する関係で交差する。この低角度断層は何本もあり、従って土被りが大きくなると、トンネルの上には幾つもこういう断層があることになる。さて、トンネルを掘ったときに発生する湧水の起源は何かと言うと、土被りが1000数100mぐらいであれば、殆どが雨水・降雪などの季節水です。これらの季節水は一旦低角度断層の上に滞留するがその後次第に側方に流出していき、直下には流出しないのである。つまり南アルプスほど土被りが大きければ、トンネルの上には幾つも低角度断層があり、それはあたかも傘が被っているようなものである。だから湧水は殆ど無いといってよいでしょう.。これは何も山勘でいっているのではない。筆者が関係した国道169号伯母谷第一トンネルとか四国の寒風山トンネルが当にそうだった。と言うことで外帯特に四万十帯では土被りが十分大きければ湧水はさほど気にしなくても良いというのが結論である。
 一方こういう断層は数千万前に出来た古い構造である。第四紀に入って南アルプスは急速に隆起を始めた。これは主にフィリピン海プレートの押し込みによるものである。この結果これによる新しい断層が発生する。これは赤石山系では主にN-S方向、垂直の断層である。これによる地表水の引き込みがあり、局所的な湧水が発生する可能性は大きい。上で例に挙げた伯母谷第一トンネルでは、低角度断層の下では湧水もなく工事も順調にはかどったが、一部に新しい高角度断層があり、そこからの湧水が見られた。これはトンネルルートの外側の沢水の引き込みと考えられる。この種の水は量的には大したことは無いが、土被りが大きいと高い圧力を持つ。この圧力によって切り羽が返るというケースはあり得る。この圧力をどうするか、抜くべきか抑えるべきかいろいろ議論はある。
 以上は本抗の話だが、距離から見て何箇所か斜坑を入れて工区分割をせざると得ないと思われる。上で述べた赤石山系の地質構造の特徴から、この斜坑やアクセス道路の仮設で、異常湧水や地すべりなど思わぬ事故が発生する可能性はある。こういう場面の対策こそ筆者の最も得意とするところだ。
3)問題は他に
 上で述べたように赤石山系を作る地質は白亜紀から古第三紀に懸けてのプレート付加体。この種の地質は主に泥質基質をベースに、砂岩やチャート・玄武岩など様々な異地成岩石が混入したランダムなもの。しかしプレート沈み込み方向で規制される一定の構造は持っている。こういうところに1000数100mと言う土被りで掘削すればどういう現象が発生するか?トンネル周辺には大きな応力集中が発生する。まず砂岩やチャートなど硬質塊状岩石には脆性破壊という現象が起こる。これは所謂「山はね」である。これが発生すると、収まるまで待っておくしか方法はない。次に泥岩および泥岩優勢オリストストロームの場合だが、ここでは「山はね」現象は起こらない。その替わり泥岩部分における箭断変形が大きくなり、内空変位がなかなか収束せず、これが工程の足を引っ張る可能性は大きい。対策としては切り羽の早期拭きつけが挙げられるが、場合によっては長尺ロックボルトによる切り羽補強も挙げられる。土被りが大きく岩盤強度も上がっているのに切り羽補強とは矛盾だが、工程確保という視点では止むを得ないかもしれない。



 
リニア決定で、日本中大騒ぎだ。ワタクシはバブル崩壊後の90年代不況の時こそ、リニアをやるべきだった、と考えている。それをやっておればその後のようなデフレは無かった。第一次大戦後バブルが潰れた昭和不況時こそ、満州などに行かずに列島改造をやるべきだった。そうすれば対中米戦争はやらずに済んだ。経済政策は同じことでも、タイミングを間違えば全く逆効果を生むという例。
(13/09/20)

 リニア大阪ルートでいまだに京都タッチ案が残っている。そもそもの中央新幹線ルートは奈良ルートだったのが、ある時京都タッチ案が出てきた。ワタクシがそれに気が付いたのは、未だダイヤコンサルタントにいた今から25年程前。隣の部署が北陸新幹線の地質調査を担当していたが、その中に、とってつけた様に琵琶湖南部地域が入っていた。そこでヒョットという気がしたのである。その後、ある会合でゼネコンに行っている大学先輩から、リニアのルートは判らンかと囁かれた。そこでワタクシは、ヒョットして京都タッチもあるかもしれん、と囁き返した。お互い技術士同士だから(守秘義務が懸かっている)、大きな声は出さない。
 段々生臭い話しが表に出てきそうな具合です。
(13/09/19)

 リニア新幹線東京ー名古屋間の駅候補地が発表されました。25年程昔、大林の本店土木設計部に行ったら、土木営業の誰やらがやってきて、「東京ー大阪間500qを50工区に分割して、そこへゼネコン50社を割り当てれば、リニアなど10年で出来る」と云ったものだから、設計部長が「もの凄い計算するなあ!」と吃驚したのを憶えている。
 それはともかく、リニア新幹線を長いアンテナと考えると、リニアが通る度に周囲に超低周波の地電流が流れる筈。これを観測する事により、中部日本特にフォッサマグナ周辺の深部地下地質構造、特に地熱構造がより詳しく判るようになる。無論、地震予知にも使えます。
(13/09/18)