21’熱海土石流災害と土石流対策


 

 熱海土石流起点の盛土崩壊面。県は二次崩壊を防ぐため計測するとしている。多分地形屋の入れ知恵で、GPSを使った地表面変位測定だろう。我々地質屋なら、まず対策工を考える。
1、斜面末端に大型土嚢を積んで二次的土砂流出防止を図る。
2、斜面にはとりあえず吹付をやって雨水浸透を防止する。更に鉄筋挿入工を併用して二次崩壊を防止する。19から22mm位の異径鉄筋を2から.1.5mピッチで打てば良いのではないか?
3、その間に恒久対策を関係者(県、市、所有者)間で協議する。それを取り持つのがコンサルの仕事。
 その効果確認や、施工のタイミング決定に上に挙げた変位測定を利用すれば効果はある。ところが県当たりの土木屋はその役割を理解できていないから、計測は計測、対策とは対策とバラバラになり、結局はタイミングを逸して二次災害。何時もの光景だ。
(21/07/22)

土石流対策を物語る前には、まず土石流とはどういうものか、どうやって発生するのかを理解する必要があります。まず典型的な例を見てみましょう。


 上図は2014年、中国地方西部の集中豪雨で広島市阿佐地区に発生した土石流です。中央右に大きな土石流が発生していますが、その脇にも土石流の発生や土石流跡と見られる地形が発達しています。つまりこの地域は過去にも、最近にも度たび土石流を発生しており、土石流の名所のようなところだ。こんなところに宅地開発を進めてきた広島県や広島市の感覚が疑われる。それはともかく、土石流発生の様子を知るには都合の良い写真でもある。
 土石流は山地崩壊の一形態です。山地崩壊の原因は多くがあって、例えば火山の噴火、氷河の浸食などもあります。地すべり、斜面崩壊は重力崩壊の一種です。山地斜面には通常雨水浸食に起因する渓谷が切れ込んでいます。渓谷周辺の地形は渓谷中心に向かう凹状斜面を作り、これらに挟まれた部分は外に張り出した凸状斜面を作る。凹状斜面の中心にある渓谷で発生するのが渓谷崩壊で、その崩壊堆積物が泥流化し平野まで押し出してきたのが「土石流」である。一方凸状斜面で発生するのが斜面崩壊(表層崩壊、深層崩壊)とか地すべりである。これらも状況によっては末端部又は全体が泥流化することがあり、土石流と区別しがたい事もあるが、本質に異なるものである。
 さて実際の土石流のメカニズムはどういうものか。下図はその様子を模式的にあらわしたものです。


 豪雨が継続し、雨量が渓流の流下能力を越えると、周辺の地下水位が上昇し、まず渓流の源流部で(a)一次谷頭崩壊を生じます。これまでの事例を見ると、この崩壊は一般に小規模で、後から見ると「なあーんだこんなものか!」と云ったレベルです。しかし渓流勾配が大きいと、崩壊土砂は周辺の土砂を巻き込み次第に体積を増やしていきます(b)。体積が増えるとということは「質量が増えるということだから運動エネルギーは益々増え、更に河床や側壁を巻き込んでいきます(側方浸食)。つまり土石流は雪だるま式に成長していきます。この区間を加速区間と呼びます。下流に行くにしたがって河床勾配は緩くなるのでブレーキが掛かり速度は低下し、平地に出ると更に減速し停止します。これが減速区間です。両者の中間が遷移区間です。平地に出てきた土石流は、先端に巨岩(礫)を伴う。それを蛇頭と呼びます。熱海土石流で家屋で見つかった巨礫はこれです。その後により小径の土砂が接続し、土石流堆を形成します。これを上部から見ると、当に蛇がのたうった様に見えるので蛇体になぞらえたのでしょう。

 これは熱海土石流の引き金になった、逢初川頂部盛土の崩壊直後の様子。最初見た時は只の道路盛土の崩壊かと思っていたのだがそうではなかった。画像を保存しておいて良かった。
 黒色部はやはり盛土です。雑多な石が混じっています。色が黒いのは、この土が火山岩起源であることを物語っています。そういう証拠を辿っていくと、何処で作られた土かが分かってきます。殆ど金田一耕助か松本清張の世界です。但しそれが出来なければ、一人前の地質屋とは云えません。
 表面には水が浸透していますが、これが雨水か、盛土の中の浸透水かは、写真だけではわかりません。電導度計で塩分濃度を測れば見当は付くかもしれない。
(21/07/17)

 21'年熱海土石流の発端となった盛土。元々全体としては火山台地ではなかったかと思われます。崩壊面で茶褐色に見える部分が盛土の残存部。その周囲の黒色部は、箱根火山由来の火山灰や火砕流などの火山放出物。街で見つかった巨石はこれの片割れ。つまり土石流は地山も浸食して流下したということです。世間では土石流は盛土の崩壊だけが注目されていますが、巨岩の存在はそれだけでは説明出来ない。河川の側方、河床浸食があったはずだ。そして熱海は箱根火山の一部だということを忘れてはならない。
 なお図の左上端に僅かに見える平坦地は、最初Google Earthで見た時に予想した通り、メガソーラー基地でした。又以前、土石流を生じた逢初川には砂防が懸かっていないのではないか、と書きましたが、下流に砂防ダムがあり、砂防河川だったことは間違いない。それならそれで谷頭部に盛土を許可したのは極めて不可解。殆どあり得ない話だ。
 なおこのような傾斜地への盛土は簡単ではなく、工夫とちゃんとした設計が必要です。
 (21/07/12)

 これは今回の熱海土石流で見つかった巨石。土石流の先端にはしばしばこのような巨石(岩)があります。これを砂防屋はスネークヘッド(蛇頭)と呼びます。地形的にはこれの背後に土石流堆が続きます。
 土石流はこういう巨岩を先頭に突進してくるのです。ラグビーでいえばフォワードセンターのようなもの。砂防調査をするときは、そのメカニズムをよく心得ておくことが必要。
 筆者がこれまで見たのでは、和歌山県熊野地方で殆ど家ほどの巨大なものがありました。それに比べれば。なおこんな蛇頭があるということは、土石流が頂部の盛土だけでなく、河床や側壁を浸食して流下してきたことを意味します。
(21/07/10)

 ネットによれば、静岡県土木部長が熱海土石流事件について「盛土は直接の原因ではない、原因は異常気象だ」とトンデモ言い訳。これアベ晋三の「御飯論法」、菅義偉の「羊さん論法」、更には竹中平蔵慶應大学名誉教授による「経済が悪いのは政策ではない。コロナ菌が悪いんだ」に匹敵するすり替え論法。この所為で竹中平蔵は菌とウイルスの区別も分からないのか、とネットで炎上。静岡県部長の発言は「異常気象」論法とでもいおうか?
 何でもそうだが、構造物はその構造物が将来蒙るであろう最悪の状態(例外的状態)を想定して設計される。盛土の安定は一旦盛土が出来て、何もなければそのままだが、将来何もないということはあり得ない。所謂「例外的状態」においても安定が求められるのである。
 山地(傾斜地)盛土の安定性を考えるべき「例外的状態」の代表的なものに、雨と地震がある。この二つはいつ来るか分からないが、盛土が存在する限り、必ず来るものである。盛土はその脅威に耐えられるものでなければならない。つまり盛土の安定は雨と地震と密接不可分の関係にならざるを得ず、静岡県土木部長の言い分は全くナンセンスである。
 ではどうすれな良いか?本来的には民間業者がこのような盛土を計画した場合、県なり行政が規制を掛けるか指導を行わなくてはない。問題は行政に指導する技術能力が欠如していることなのである。これは筆者が鑑定依頼を受けた物件で、常に感じることである。市や県の土木吏員の経験が乏しく、ペーパーエンジニアーに成り下がっていることだ。
 県の土木部長の役割は、常に変化する条件に合わせ、部下や業者を指導監督することで、官製談合の取り仕切りや、選挙の票の業者割り当てではない。なお、静岡県知事は、このようなアホ発言をした土木部長を即刻首にして、県土木の体質改善を諮らなくてはならない。
(21/07/08)


 昨日土石流を発生した静岡県熱海市伊豆町の衛星写真。Google Earthのコピーだから画質は悪い。図の中央が土石流を生じた逢初川。黒線はその後の報道から推定される土石流ルート。この川、ニュース映像を見ただけで土石流河川ということは分かる。しかし砂防河川ではなく、流域も砂防指定地*ではなかったようだ。この点が結構致命的。
 川の右岸の尾根に何やら茶色の帯が見えます。画面を拡大して見ると、尾根を開削して何やらを作ろうとしているようだ。写真撮影時と今では時間差があるので、何かは判りませんが、場所柄から云ってメガソーラー基地造成の疑いがあります。事故責任を巡って、今後住民、県(市)、開発業者が三つ巴になって揉めますよ。
 直接の原因は率直に言うと、盛土の下の防災管(一般にヒューム管、仮設用で大したものではない)が折れたか、目詰まりしていた事。これはよくあることで珍しくはない。
*多分今後砂防指定地に指定されるでしょう。しかしこれも一筋縄ではいかない。
(21/07/04)