対策工選定工法を検討する


 知らない間に対策工法3案が選定され、その概要が国土交通省「紀ノ川hp」に掲載されていました。
驚いた事に3案の中に、かつて私が「これが一番現実的なのだが、委員会がノーと言っているので駄目でしょう」といった、「排土案」が入っていたのです。
誰かがパクッタとは云いませんが、いささかインチキではないでしょうか?
ここでは主に排土案を中心に提案工法を検討することにしましょう。


1、選定工法について
 対策工法としては次の3案が選定されています。
   1)抑え盛土+鋼管クイ工
   2)抑え盛土+排土工
   3)CSG抑え盛土

それぞれの概要は次のとおりです。画面をクリックすると拡大画面に移ります。詳しくは国交省「紀ノ川hp」まで

1)抑え盛土+鋼管クイ工 2)抑え盛土+排土工 3)CSG抑え盛土

2、選定工法を見ての所感
 選定工法を概観したときの印象を思いつくままに述べてみます。 
1)総じて、オーソドックスすぎて新味に欠ける印象がしました。無論、ダム背面の地すべり対策ですから、実績のあるオーソドックス工法がいいのに決まっていますが。
2)地下水排除工(集水井工、排水トンネル工)は委員会案を踏襲し付加対策工のコンペになったという印象です。これは私が2、対策工の考え方で指摘したとおりなので、構わないのですが、これはプロポーザルの前提条件だったのでしょうか?それとも国交省からそうしろという指導があったのでしょうか?別に他意はありません、三者とも同じ対応だからそう思ったまでです。
3)平面、断面を見ると、斜面地山を二つのブロックに分け、下段を「地すべり域」、上段を「ゆるみ域」としているが、何処がどう違うんでしょうか。おそらく変動の大きかった部分を「地すべり域」、少なかった部分を「ゆるみ域」としたと思いますが、大丈夫でしょうか?。最高水位は試験湛水より、更に17m上回るのですよ。そもそも、「地すべり域」も、元々は「ゆるみ域」と呼ばれていたんですから。

 これらの内、第2案「排土工」は、もともと私が最も現実的な案(但し委員会報告では始めから否定されていたので、売り込みを止めた)としたものですから、これについて少し所見を述べてみたいと思います。
1)2段に平坦面が計画されていますが、もともと白屋は畑地なので、これは水平である必要はありません。緩い勾配で切土すれば、上部斜面の対策工を軽減出来、且つ畑地面積を大きく採れます。
2)上部斜面でのアンカーはどういう役割を果たすのでしょうか?アンカー体は「ゆるみ域」の中に留まっており、如何にも中途半端な感じを受けます。この部分は崩壊しないという確信があるのでしょうか?それならアンカーは必要ない。地震のような不慮の災害を仮定するなら、アンカーは不動岩盤に定着させるべきでしょう。
3)上部切土斜面がゆるみ域内で止まっているのも、中途半端な感じがします。法面の上部に連なる緩斜面は、崖錘斜面。平坦部を上にもう一段確保し、その上を切土して崖錘を除去する。その上で下方の切土法面対策を行う。上からの荷重を除去しておけば、法面工はロックボルト程度で済むと思います。何故アンカーにしたのでしょうか。まさか他の工法に比べて安すぎたため、工事費のバランスを取るためにくっつけたのでは無いでしょうねえ。提案者の当初案ではアンカーは最小しか使っていなかったのに、最終案では法面全体に展開されています。
 私のもともとのイメージは次のようなものです。

これまでは画だけだったので、筆者の意図が十分伝わっていなかった可能性もあるので、若干解説を付け加えます。
1)切土は上下2ブロックに分けます。
2)下のブロック・・これが排土工のメイン・・は概ね原地盤に沿って切土します。これを原状のように畑地に転用します。
3)上のブロックは、勾配をやや急にして原地盤にすりつけます。これも階段状に整形すれば畑地に転用が可能。
 2)、3)により住民の生活基盤を確保する。
 排土工に地下水排除工を組み合わせて、最終的に計画安全率を確保する。上部ブロックでは計画勾配によっては、法面補強工が必要になるケースも考えられるが、大したものは要らない。
 どの程度の切土がベターかは安定解析で決定する。
排土部を畑地に転用する。


4)法面工は環境調和性を考えると、ノンフレームとかジオファイバーとか色んなのが出てくるでしょう。それはそれぞれのメーカーに任せることにしましょう。

3、蛇足
 この斜面は湛水域ですが、洪水時には相当流速は早くなり、混濁流が流れ込むと考えられます。1)、2)案は抑え盛土の前面、3)案では抑え盛土そのものがCSGで盛土されます。CSGとは要するに低品位の無筋コンクリートです。混濁流による洗掘は考えられないでしょうか?洗掘を防ぐために高価な材料で覆うのが安いか、洗掘が生じた度に補修していくのが安いのかの比較の話ですが。 

 それと、どの案も抑え盛土を併用しています。その結果、この部分は河道断面が小さくなります。長期的にみれば抑え盛土は貯水位の下に入るので、問題はないと云えますが、洪水時にはバックウーターの水位が高くなり、上流域で不安定になる箇所が出てきそうな気がします。その点は大丈夫なんでしょうか?河川屋が計画して河川屋がチェックしているのだから、大丈夫とは思いますが老婆心まで。


RETURN       白屋TOPへ    TOPへ