滋賀県某テールアルメ崩壊事故4(第一回鑑定)


 さて、とりあえず現場に行くにしても、肝心の崩壊現場は5年前に復旧工事が終わっており、当時の様子はなんにも残っていない。今更現地を見ても仕方がないと言えば、そのとおりなのだが、皆が行きたいと云っている以上、こちらもつき合わなくては仕方がない。しかし、同じ行くならそれなりの目的と、それに対応する着目点を持つべきである。今回の私の着目点は次のとおりです。
  1、基礎が岩着していなかったとしても、掘削面地盤が容易に土砂と判断できるかどうか。
  2、それの決め手は周囲に転石がどの程度あるかどうか。
おそらくこれが、この裁判の天王山のようになるでしょう。つまり、現地踏査の着目点は、崩壊地の周りの地山に、転石が埋もれているかどうかを確認することです。そして、見事でっかい転石を見付けたのです。

 これを確認出来たから、ストーリーはほぼ完成。鑑定書は一気に出来上がります。但し、鑑定書の構成は、予め弁護士から鑑定項目を提示して貰い、それに対し「鑑定結果」と「鑑定理由」を記述するという形式を取っています。弁護士から提示のあった鑑定項目とそれに対する鑑定結果は以下のとおりです。鑑定意見書はここをクリック

    (鑑定意見書のまとめ)

鑑定事項 鑑定結果
1 1)不整形段差と西側コンクリートスキンの眼開き
テールアルメの崩壊原因とは考えられない
2 1)テールアルメは岩着していたか、2)岩着は簡単に判断出来たか 1)復旧時ボーリング結果を見る限り、岩着していなかったと考えることが妥当であるが、地質条件によってはそうは言い切れない。
2)ケースバイケースで、状況によっては地質学の訓練を受けていない重機オペレーターでは不可能といえる。
3 採石置き換え工法の適否 1)復旧時ボーリング結果のみで考えれば、採石置き換え工法は可能であるが、2)工法として適切とはいえない。
4 採石置き換えをしていれば崩壊は生じなかったか 1)採石置き換えを行ったとしても地すべりは避けられなかったろうし、2)又本斜面に於ける当初設計では基礎の安定の上で何ら考慮されていない。つまり、採石置き換えは本斜面では、なんら本質的な意味を持たない。
5 崩壊箇所の事前ボーリングの必要性 あらゆる尺度に照らし合わせてもボーリングをしなくて良いという判断は出てこない
6 地すべり地であったかどうかの判断の可能性 十分可能である。
7 本件テールアルメ以外の部分が安定を保っている理由 基礎地盤の性質が異なっているからである。
8 テールアルメ設計に於ける排水処理の問題 排水処理については1)施工中の排水、2)施工後の排水の2点に分けて考える。
1)施工中の排水不良は好ましいものではないが、通常の降雨である限り、テールアルメの原理から見て大きな問題ではない。
2)については施工前後で排水条件が大きく異なるのでこの点を踏まえる必要がある。
9 テールアルメ崩壊の原因 本テールアルメの崩壊は、直下の岩盤の谷状地形とそれに堆積した厚さ数〜10m以上に達する崩積土を素因とし、平成7年5月12日集中豪雨、同7月3日〜6日にかけての連続降雨を誘因とする地すべりを原因とし、それに引きずられる形での二次崩壊である。
10 本件地すべり地にテールアルメ工法は適切か、設計は適切であったか 1)もともと地すべり地であるという地盤条件、14mという壁高を考えると、常識的にはテールアルメ工法は適切とは云えず、他工法を考えるべきである。又、2)設計の手法も全てを尽くしたとは思われず欠陥設計と云わざるを得ない。
11 復旧工事は現状回復工事か別途工事か 復旧工事は全体として抑え盛土工事であり、当初設計とは工法そのものが異なる。明らかに別途工事である。


 鑑定意見書の目的は、争点を客観且つ公平に整理した上で依頼者の主張を補強することだが、もう一つ重要なことは、鑑定意見書が出ると、当然相手側も反論してくる。その内容によって相手のレベルを推し量れる。今回の場合、相手は3社いるが、その中でどれが一番手強いか、この次叩くのは何処か、を見定めることである。
 意見書を出して2カ月ほど経った8月のある日、裁判長が現地視察を行った。一審判事は現場を見もしなかったが。そして、「問題は水と地盤にあるなあ」と云ったらしい。やっとこちらの得意な戦場に相手を引きずり出せたのでです。
 そこまでは良かったのですが、何かもう一つすっきりしないものが残る。それは一審判決にあった「不整形段差やコンクリートスキンの眼開きによるテールアルメの強度低下」という一文です。私は原判決を読んで、この点がどうも理解出来なかったので、鑑定書ではいささか手を抜いています。 何故、理解出来なかったかを後からよく考えると、この主張を行った被告やその代理人・裁判官が、強度という物理的概念をよく理解していなかった、ということに気がついたのです。相手がよく判っていないで適当なことを云っているのに、まともな回答は出来ませんからねえ。そこで、先ずテールアルメの強度とはなんぞや、ということから始めなければならないので、これの解説(テールアルメの強度)も作成しました。これは控訴人やその代理人には非常に評判が良かったのですが、相手側にどうだったかは判りません。なお、これに使った論法は会計検査には、結構使えると思っているので、興味ある方は是非お試し下さい。


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